後期高齢者や脆弱な高齢者の脂質異常症にどこまで介入するべきか迷うことがあるので、今回調べてみました。当然、リスクファクターやその他の要因も含めて考える必要があるのですが、少し一般的な原則というか、今の時点である程度わかっていること、わかっていないことが整理できました。
<高齢者における脂質異常症の治療>
- 後期高齢者の脂質異常症への治療は意義があるのか?
★Baris Gencerらのシステマティックレビュー(Lancet 2020)
ACC/AHAガイドラインで推奨されているLDLコレステロール低下療法の心血管アウトカムを検討したRCTのうち、フォローアップ期間中央値が2年以上で、高齢患者(75歳以上)のデータを含む試験を対象として解析
⇒合計29件の試験(日本のエゼミチブの研究含む)に参加した24万4090例のうち、2万1492例(8.8%)が75歳以上。
LDLコレステロール1mmol/L(38.67mg/dL)低下当たり、主要血管イベント(心血管死、心筋梗塞・他の急性冠症候群、脳卒中、冠動脈血行再建術の複合)が26%低下した(P=0.0019)。
スタチン治療とスタチン以外の治療のいずれもが主要血管イベントを有意に抑制し、これらの間には有意な差はなかった。
★Ariela R Orkabyらの報告(JAMA 2020)
2002~12年の期間に、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)がない75歳以上の退役軍人患者を対象とした過去起点コホート研究。
(ベースラインの背景因子のバランスを取るため傾向スコアを使用)
⇒32万6981例(平均年齢81.1歳)のうち、17.5%が新たにスタチン治療を開始した。フォローアップ期間は平均6.8年。
①全死因死亡の発生は、スタチン使用群が1000人年当たり78.7件と、非使用群の98.2件に比べ有意に低かった。
②心血管疾患による死亡も、スタチン使用群が1000人年当たり22.6件、非使用群は25.7件であり、使用群で有意に低下した。
③複合ASCVDアウトカム(心筋梗塞、虚血性脳卒中、CABG・PCIによる血行再建の複合)の発生は、スタチン使用群は1000人年当たり66.3件、非使用群では70.4件と、使用群で有意に少なかった。
- これら2つの研究から考えると、75歳以上の高齢者でもスタチン等の薬剤を使用して積極的にLDL-Choを低下させた方がよいか?
- それでは虚弱な高齢者においても同様であろうか?
- 虚弱高齢者の脂質異常症への治療は意義があるのか?
★Matthew Haleらのシステマティックレビュー(Drugs Aging 2020)
虚弱な65歳以上の高齢者を対象として、スタチンの主要血管イベント(MACE)への効果をみた研究を対象。
⇒6つのコホート研究が基準に合致(RCTはなし)。死亡率に関しては、1つの研究でスタチンは死亡率を有意に低下させていたが、その他の研究では有意差がなかった。また、2次予防としての1つの研究では、死亡率が有意に低下していた。1次予防としてのスタチンのMACEへの効果をみた研究はなかった。
結論:虚弱高齢者において、2次予防としてのスタチン投与は死亡率を低下させていたが、1次予防としての効果についてはエビデンスが欠如している。RCTが必要。
上記文献より、虚弱高齢者へのエビデンスは不足しており、判断困難
- 予後が限られているような高齢患者にスタチンをやめることは?
★Jean S Kutnerらの報告(JAMA Intern Med 2015)
対象:予測予後が1か月〜1年、身体機能が低下、最近心血管系イベントがない、3ヶ月以上スタチンを心血管系疾患の一次もしくは二次予防で内服している、これらを満たす患者
介入:スタチン製剤を継続した群と中止した群で1年間観察し、両群を比較(盲検化なしのRCT)
結果:381例が登録。平均年齢:74.1歳、22%が認知症、48.8%ががん。
両群で60日以内に死亡した患者の割合に有意な差はなく、QOLは中止群の方がむしろ高かった。また、薬を中止によって抑制できた医療費は一人あたり716ドルでした。
まとめ
- 75歳以上でも、患者が元気であればLDL-Choを下げる治療を行っていくのがよいか
- ただし、虚弱高齢者に対する効果は不明であるため、個別化が重要であろう
- 予後1年以内と考えられる患者(特に担癌)にはスタチンの中止について患者に提案してもよいであろう(ちなみに今回詳細は明記しませんでしたが、患者側としても限られた予後のなかではスタチン中止に対して肯定的であるという結果の文献がありました https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28520522/)
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