発祥の店「揚子江菜館」で啜る冷やし中華
この夏、東京メトロの駅で美味しそうな冷やし中華の写真を見かけた方はいるだろうか。それは東京メトロが発行するフリーマガジン「Alku Tokyo」の宣伝ポスターで、夏号が冷やし中華発祥の店・神保町「揚子江菜館」の特集だったのだ。その涼しげな写真を見て以来、この夏の内に必ず食したいと機会を伺っていた。
お店は神保町駅のA7出口から歩いて2分ほど。神田すずらん通り沿いにある。創業は明治39年(1906年)、神田界隈で現存する中華料理店では最古の店で、土地柄、池波正太郎氏をはじめ多くの文豪に愛されてきた。この店で全国に先駆けて冷やし中華が生まれたのは昭和8年(1933年)、2代目・周子儀氏の時である。
2代目は神田連雀町にある老舗「まつや」の蕎麦が好きで、中華そばをベースにざる蕎麦のような料理を作ってみたい、と考案したのだとか。200回以上の試作を繰り返したどり着いた味は、いまも多くの人に愛されている。現在、店を守るのは4代目・沈松偉氏である。客席は1階から5階まであり、テーブルや円卓で全170席。
メニューは麺類、飯モノ、冷菜、炒め物、お粥、スープなど多岐に渡る。冷やし中華類は看板の「五色涼拌麺」を筆頭に三絲冷麺、担担冷麺の3種をラインナップ。また焼きそばも名物で上海式肉焼きそば、五目焼きそばを用意する。ほか、もやしそば、五目そば、とりそば、うま煮そば、海老そば、かに玉そば、ワンタンをラインナップ。
またチャーハン類も五目、塩魚、蟹肉、レタスなど様々な種類があり、ほかに麻婆茄子丼、中華丼、回鍋肉丼、海老チリ丼、青椒牛肉丼、天津丼と丼モノも充実している。さらにお得なランチセット、お値段お高めのコースもあり昼から酒宴を開くことも出来る。今回は初志貫徹で「五目涼拌麺(1580円)」を注文した。
着丼までは8分ほど。彩りが良く食欲が湧いてくるビジュアルだ。盛り付けは店舗の3階から当時見えていたという「富士山」の四季をイメージしている。春先の大地の色のチャーシュー、夏を感じさせるキュウリ、秋の落ち葉色に煮込まれたタケノコ、冬の雪のような糸寒天。そして錦糸卵は山頂の曇を表現しているそう。
さらにインゲン、ウズラの卵2つ、生姜の効いた鶏団子2つ、海老2つ、甘く煮付けた干し椎茸もトッピングされる。池波正太郎氏は、この冷やし中華の具を日本酒のアテにし、最後に残った麺を啜るという食べ方で楽しんでいたという。確かに数合わせの適当な具材は皆無で、全員がヒットを打ちに来ているので、その気持ちがよくわかる。
タレは三杯酢をベースにしていて、甘みはあるがサッパリしてクドさがない絶妙な味わいに仕上がっている。そして麺は低加水の細麺で少しボソっとした食感がクセになる。あっという間に夢中で完食した。会計を済ませ店を出ると、晩夏の少し柔らかな風がすずらん通りを抜けた。冷やし中華、なんとかこの夏に間に合ったか。
<店舗データ>
【店名】 揚子江菜館
【住所】 東京都千代田区神田神保町1-11-3
【最寄】 東京メトロ半蔵門線ほか「神保町駅」A7出口徒歩2分