細沼園のお茶飲み話

お茶の時間のひとときに、思いつくまま書きました。

球体の蛇  道尾 秀介

2010-01-25 22:18:09 | 読書メモ ま行
《内容》
1992年秋。17歳だった私・友彦は両親の離婚により、隣の橋塚家に居候していた。主人の乙太郎さんと娘のナオ。奥さんと姉娘サヨは7年前、キャンプ場の火事が原因で亡くなっていた。どこか冷たくて強いサヨに私は小さい頃から憧れていた。そして、彼女が死んだ本当の理由も、誰にも言えずに胸に仕舞い込んだままでいる。乙太郎さんの手伝いとして白蟻駆除に行った屋敷で、私は死んだサヨによく似た女性に出会う。彼女に強く惹かれた私は、夜ごとその屋敷の床下に潜り込み、老主人と彼女の情事を盗み聞きするようになるのだが…。呑み込んだ嘘は、一生吐き出すことは出来ない―。青春のきらめきと痛み、そして人生の光と陰をも浮き彫りにした、極上の物語。
           (紹介文より)

☆☆☆☆
―――沼の底を掻き回しては、濁った水の中で頭を抱え、やがて泥が落ち着いてきた頃になると、また無意味に底を掻き回す。それを繰り返すような毎日だった。


―――何かについて、人が最悪の想像をするとき、それはたいてい当たらない。最悪の結果が待っているのは、それを想像していなかったときに限られている。


―――思い出は引き潮のように、足の裏の砂を崩しながら遠ざかっていった。崩された砂の一粒一粒は、たぶん希望や、夢や、信頼だった。


―――乙太郎さんが胸に抱えていたものが何だったのか、私にはいまだにはっきりとわからない。ただ、それを抱えたまま生きていくのは大変だったろうし、ましてや死んでいくのはどれだけ辛かったろうと思う。

完全恋愛 牧 薩次

2010-01-25 21:57:18 | 読書メモ ま行
《内容》
昭和20年…アメリカ兵を刺し殺した凶器は忽然と消失した。昭和43年…ナイフは2300キロの時空を飛んで少女の胸を貫く。昭和62年…「彼」は同時に二ヶ所に出現した。平成19年…そして、最後に名探偵が登場する。推理作家協会賞受賞の「トリックの名手」T・Mがあえて別名義で書き下ろした究極の恋愛小説+本格ミステリ1000枚。
           (紹介文より)

ガールズ・ストーリー  あさのあつこ

2010-01-25 00:17:05 | 読書メモ あ行
《内容》
『バッテリー』『ガールズ・ブルー』で、若者の気持ちを透明感溢れる筆致で描いたあさのあつこが、江戸を舞台に紡ぎ出した青春「時代」ミステリー。主人公のおいちは16歳の娘ざかり。江戸深川の菖蒲長屋で医師である父・松庵の仕事を手伝い、忙しい日々を送っていた。いつか父のように人の命を救える立場になり、自分の足で人生を切り拓いていきたい、との思いを胸に秘めて。おいちが他の娘と違うのは、この世に思いを残して死んでいった人の姿が見えること。この不思議な力を誰かのために生かせたら、と願うおいちの夢に、必死の形相で助けを求める女が現れる。「助けて、誰か助けて……」。あれは誰?どうして見えたの?おいちのなかで様々な疑問が渦巻く。そんなおいちのもとに、伯母が縁談を携えてやって来る。その相手とは果たして……。運命を前向きに捉え、健気に生きるおいちの姿に、若者だけでなく、娘を持つ親の世代も共感できる著者会心の長編。
           (紹介文より)

☆☆☆☆☆
―――人の幸、不幸は人それぞれの形をしている。だから、軽はずみな興味だけで詮索しても、何もつまめない。ほんとうに知りたいと思ったら、心を決めて、踏み込んでいくしかないのだ。生半可な心構えじゃだめだ。人の心の裡に踏み込むということは、本気で本物の覚悟がいる。

―――死を間近に控えた人の心を乱してはいけない。波立ててはいけない。少しでも穏やかに、できる限り穏やかに時を過ごさせてあげる。それは、生きてる者の務めだった。

―――嘘でもいい。嘘はときに妙薬ともなるのだ。真実が毒薬となるように。

―――痛む場所に、苦しい処に、そっと添えられた掌の温かさは、理屈ではなく人を励ますものなのだ。
 ああ、この手は温かい。
 そう感じただけで人は励まされるものなのだ。

―――生きている者は、生き残った者は生きねばならない。ときに打ちひしがれ、ときに迷い、ときに悲嘆の淵に落とされても、生きねばならない。生きることが死者への何よりの供養となる。
 ささやかな楽しみ、ささやかな喜びを糧にして、ともかく今日一日を生きてみる。それしかないのだ。