《内容》
生まれたときから父親はいない。絵画修復家の母と、近所に住む母の年上の友人・ユキさんに育てられた。幼い日のわたしは、わたしたち三人が家族だと知っていた。家族という言葉は知らなかったのに。わたしは愛に飢えることもなく、三人のしあわせな日々がいつまでも続くと信じて疑わなかった。あの日がくるまでは―。十八歳の少女が辿ってきた様々な出会いと別れを描く、切なくも瑞々しく心ふるえる書き下ろし長篇。 (紹介文より)
―――わたしの心臓は小さな針でちくりとやられたような痛みを感じた。どんな刺激も繰り返せば慣れるというけれど、わたしはそれにはちっとも慣れることはなかった。慣れない代わりにわたしは平気なふりをした
―――頭で理解することとこころが感じることは別なのだ