冬のかもめ
2,3日前の暖かい日の午後、かもめが1羽ぽつんとブイの上に乗り、休んでいた。よく見る光景だが、私は好きだ。写真を撮った後、視線を感じ振り返ると、後ろの家の2階の窓から、おばあちゃんもかもめを見ていた。目が合って互いに微笑んだ。
200年9月 ノワタリさんが、私の町にやってくる事になった。何かと、お世話になっている人達と喜んで心待ちにした。ぜひ、自慢の魚料理を食べて頂こうと思っていたら、「海の物も、畑の物も口にしてはいけない。」とのメッセージを受け取られおり、お米持参で来られた。「海から、大勢の人が次から、次と上がって来るのを見たから、う~ん、魚は食べれないわね。」と言われた。でも、畑のものは関係ないと思うんだけど...。
海で亡くなった人たちの慰霊と、私の町の神社をお参りすることと、ノワタリさんの神棚に在った御神鏡を海に収める為、来られた。
真夏のように暑く日のきつい日だった。お昼過ぎには、仕事で知り合ったフジワラ姉妹とそのお友達3人が来て、あっという間に大人数になった。若い女の子達はきゃぴきゃぴとにぎやかだ。
総勢7人で行動した。まず、近くの湾の奥に手分けして清めノワタリさんの御神鏡を海に納めた。鏡は揺れて光を反射しながらゆっくりと底に沈んでいった。沈んでもしばらく底から光を放っていた。
その後、町外れの湾の外近くまで行き、いかだの上から、海のお清めをした。祝詞をあげていると、船が通った訳でもないのに突然、ザワザワザワと波が押し寄せてきて、いかだが数回大きく揺れた。「あ、喜ばれてるわ」と思ったら、女の子達は始めての不思議な現象にキャーキャーと喜んでいた。
近くの宮島様にお参りした。ここは小さな社だけだが、地元の人達がきっちりとお守りしていられた。町の中に入るまでに私の神棚の鏡も海に投げ込んだ。先ほどと同じく、海の底に沈むまで中で光を反射していた。
今度は町の北側にある多賀様に行った。ノワタリさんは境内に入るなり「ここは兼業ですね。」と言った。確かにその通りだが、なぜ、解るのだろう。お清めしてお参りして、その上の大山ツミの神様に行くと社殿は潰れて、木材は山積みになっていた。みんなでせっせと御神酒をかけ、塩を撒き、お水をかけた。その日はそれで日暮れになり神社参りは終了。翌日も、残念ながら、氏神様以外はすべてそういう神社ばかりだった。
友人のイタリアンレストランに行ったが、ノワタリさんは口にするものがなく、パスタの麺のみ召し上がった。その夜は、お世話になった人、ご相談のある人と途切れることなくやって来て、最後の人が帰ったのは深夜だった。本当にお疲れ様です。
翌朝も、磁場の悪い私の家と仏壇を見て頂き、また、町に出かけた。まず商店街にある金比羅さんにいったが、ここは鳥居も台風で壊れ、拝殿もなくなり、ぼうぼうの草むらの中に神殿があるだけだった。御神木も近所の人が「葉が落ちる」と言って伐採している有様だった。その前に住んでいるノワタリさんにお世話になった友人のご主人いわく「時々、牛の糞の臭いがする。それは牛車に乗って神様がやってきてるのではないか。」と笑いながら言ってらした。ノワタリさんは「ちゃんと御祀りされたら、この商店街ももっと活気があるのにね。」と言われていた。
50年前ぐらいまで港にあり、この町を守ってこられた大神宮様は埋め立て後、他の場所に移してあったが、その名残として元の場所に小さな祠のみ残っていた。お参りすると、「お酒をかけてくれ」と言われ、柵の外から、御神酒をかけた。
その大神宮様は人に聞くと、移転した頃は社務所も、結婚式場もあったが、結婚式場は空手道場となり、残っているのは大きな石の鳥居と荒れ果てた御神殿のみで、高校の通学路で毎日前を通っていたにもかかわらず、私は気付かなかったし、ほとんどの人から忘れられていた。鳥居をくぐっただけで、気分が悪くなり、ノワタリさんは「足が痛い!痛い!」とつま先歩きで歩かれていた。塩、水、酒を撒くと幾分和らいだ。神殿もくもの巣だらけでお清めしていると、隅にある家(元は宮司さんの住まいだと思う)から、おばさんが不審そうな顔をして覗いていたので、わけを話し、「ご祭神様」を尋ねると、関心なく「知らない」と言われた。たぶんお伊勢さんだと思うのだがそれも不明だ。今でも、一人で行けと言われたら、絶対嫌だ。怖い!
氏神様にもお参りしたが、「これだけの立派な所なのにもったいない。」と言われた。そうなんだ。宮司がえげつないほど金儲けに奔っていて身が入ってないのだ。
結局、私の町の神社はほとんど機能していないのではないかと思う。
最後に先祖の住んでいた家の敷地の隅にご先祖が子孫の繁栄を願って建てたという神社に行った。今はみかん畑になっている。ノワタリさんと知り合った頃、お友達の占い師さんに言われて知ったので私も行くのが初めてだった。線路で分断され、道が無いのでみかん畑を横切って入ったが、鳥居の中は背の高さまである雑草に覆われ進めず、蛇が出るのではないかと思うぐらいで、しかたなくお社めがけて、塩、水、お神酒を投げ込み祝詞をあげた。これで終了。
ノワタリさんを空港まで送るとフジワラ姉妹とお友達が来ており、その中の一人が塩屋さんの娘さんで、私達がドバドバとお塩を使うのでお塩を10キロお土産に頂いた。2日間、ノワタリさんは大忙しでお疲れになったのではと思う。有難う御座いました。