上野国の一之宮である貫前神社(ぬきさきじんじゃ)は地名や人名、神名を冠する社名が多い中、ユニークなネーミングである。現代人にとって読み辛さは上総国一之宮の玉前神社(たまさきじんじゃ)と同等である。
共通項の「前」を抜くと、「玉」と「貫」が残る。玉に貫く、というのは真珠などの玉を糸(緒)に通して首飾りを作ったりする時に使う。二つは縁語である。
伊勢物語に「白露は けなばけななん きえずとて たまにぬくべき 人もあらじを」の歌のように、相思相愛の関係を指す。貫前神社と玉前神社は古え、深い繋がりが有ったのではないか。
一方で、下総国一之宮の香取神宮と常陸国一之宮の鹿島神宮が利根川を挟んでライバル関係にあったように、上総と下総も良好な時ばかりでなく、房総の激浪に見舞われたこともあったのではないか。香取神宮と同じ経津主神(ふつぬし)をご祭神とする貫前神社が上野(富岡市)に引っ越したのではないかと想像すると、けっこう面白い三角関係の神話となる。
ユニークなのは名前だけでなく、屹立する鳥居に向けて参道から階段を72段苦労して上ったかと思うと、今度は逆に97段下って拝殿に着くシェルターみたいな構造となっている。隣の日枝神社から見ると屋根しか見えない。周りは石垣に囲われ、まるで山城の佇まいである。
また、鳥居の脇に鎮座するスダジイの樹が凄まじい。木に精霊が付くというけれど、この厳めしさには精霊も逃げ出してしまいそうな妖気が漂う。樹齢千年と言われているそうだけれど、納得してしまう。とにかく抜き差しならない神社である。
貫前や
登るとみせて
こもりくの
底ゆ湧き上る
ふつぬしの魄