2024/3/21 10:00 富士山登山鉄道は必要か? 敷設構想で山梨県と富士吉田市の対立激化、反対団体も発足へ(産経新聞)
富士山の山梨県側の麓から5合目までを結ぶ富士山登山鉄道構想を巡り、旗振り役の山梨県と、反対する地元の富士吉田市の対立が激化している。同市の堀内茂市長は近く発足する登山鉄道反対の市民団体に相談役として参画する考えを示しているが、長崎幸太郎知事は「反対は富士吉田市だけ。ほかの周辺自治体は賛同している」と繰り返し、互いに譲る気配はない。
全国規模の署名活動も
「反対しているのは富士吉田市だけと知事はいうが、(多くの反対意見がある)現実を知ってもらうことが大事だ」
堀内氏は4日の定例記者会見で、登山鉄道反対の市民団体の狙いを説明した。団体発足のきっかけは山小屋や登山ガイド、5合目の売店、神社などの地元関係者や周辺自治体など15団体が参加し、富士山の課題について議論した2月16日の意見交換会だ。
県の登山鉄道の担当者も出席していたが、堀内氏は「自然を守ることや(富士山の地質などから)鉄道は構造上難しいことなどを理由に、反対論が大勢だった」と指摘する。
反対の立場の市民らは、インターネットを使った全国規模のアピールや署名活動などで、県への反対要望書提出につなげる考えで、堀内氏は「業界団体や県外からの参画も促したい」と意気込む。
「世界遺産」剝奪の危機
これに対し、長崎氏は富士吉田市を含め、富士河口湖町、山中湖村など富士北麓地域の自治体で登山鉄道の地元説明会を昨年11月から順次開催してきた。「10年前の富士山の世界遺産登録は条件付きだ。当時、多すぎる来訪者などが問題視され、改善が求められたが、この10年間に来訪者は倍増した。世界遺産登録剝奪の危機を感じる」として、来訪者コントロールが急務と訴える。
現在の山梨県側のメイン登山ルートである「富士スバルライン」は「道路法上、自動車やバスを制限できない」(長崎氏)とされる。スバルライン上に軌道を敷き、5合目までの移動を次世代型路面電車(LRT)にすることで、来訪者数をコントロールする考えだ。
アンケートでも舌戦
富士吉田市は昨年10月から今年1月まで全国を対象に構想の賛否を聞くWEBアンケートを実施。1万4182人が回答し、構想に「賛成」と「どちらかといえば賛成」の合計が37%だったのに対し「反対」「どちらかといえば反対」は計63%で、反対が上回った。
長崎氏がアンケートについて「反対の意思を明示した上で行われ、回答を誘導するもの。公平公正ではない」とし、「組織票の存在も懸念され、数字に意味はない」と切り捨てると、堀内氏は「反対の声に耳を傾けない知事の姿勢がはっきりした。回答者に失礼だ」と反発した。
一方、県は各地元説明会終了後にとった参加者アンケートの集計結果を公表。構想への理解が「深まった」「少し深まった」の合計が64・6%に上り、長崎氏は「説明会は十分意義があった」とするが、堀内氏は「理解するかどうかの質問で、構想に反対する方向で理解が深まったのかもしれない」と皮肉る。
推進、反対双方の自治体トップが繰り広げる〝舌戦〟が過熱する上、当初県が今月末までに示すとした開業時期や事業費の試算のめどが立たない状況に陥るなど、構想を巡る議論の決着は不透明な状況だ。
富士山登山鉄道構想
富士山の麓と5合目を結ぶ有料道路の富士スバルライン上に軌道を敷き、次世代型路面電車(LRT)を運行させる。距離は25~28キロで、景観を重視するため、架線を使わない地下からの給電方式を検討している。一般車両の通行を禁止して、来訪者コントロールを図るほか、雪に強い特性を生かし、年間を通じて運行させる考え。
~記者の独り言~ 富士山登山鉄道は、スバルライン上に軌道を敷くことで、新たな開発や自然破壊を最小限にできる面などは評価できる。一方で、架線レスのLRTがスバルラインの急勾配を登り降りできるかなど技術的な課題が多く残され、現時点の構想では完成時期などを提示できていない。時間軸が明確でない中で、構想の賛否の議論は時期尚早に思う。それだけに対立だけがクローズアップされてしまっている感が強い。(平尾孝)
富士山の山梨県側の麓から5合目までを結ぶ富士山登山鉄道構想を巡り、旗振り役の山梨県と、反対する地元の富士吉田市の対立が激化している。同市の堀内茂市長は近く発足する登山鉄道反対の市民団体に相談役として参画する考えを示しているが、長崎幸太郎知事は「反対は富士吉田市だけ。ほかの周辺自治体は賛同している」と繰り返し、互いに譲る気配はない。
全国規模の署名活動も
「反対しているのは富士吉田市だけと知事はいうが、(多くの反対意見がある)現実を知ってもらうことが大事だ」
堀内氏は4日の定例記者会見で、登山鉄道反対の市民団体の狙いを説明した。団体発足のきっかけは山小屋や登山ガイド、5合目の売店、神社などの地元関係者や周辺自治体など15団体が参加し、富士山の課題について議論した2月16日の意見交換会だ。
県の登山鉄道の担当者も出席していたが、堀内氏は「自然を守ることや(富士山の地質などから)鉄道は構造上難しいことなどを理由に、反対論が大勢だった」と指摘する。
反対の立場の市民らは、インターネットを使った全国規模のアピールや署名活動などで、県への反対要望書提出につなげる考えで、堀内氏は「業界団体や県外からの参画も促したい」と意気込む。
「世界遺産」剝奪の危機
これに対し、長崎氏は富士吉田市を含め、富士河口湖町、山中湖村など富士北麓地域の自治体で登山鉄道の地元説明会を昨年11月から順次開催してきた。「10年前の富士山の世界遺産登録は条件付きだ。当時、多すぎる来訪者などが問題視され、改善が求められたが、この10年間に来訪者は倍増した。世界遺産登録剝奪の危機を感じる」として、来訪者コントロールが急務と訴える。
現在の山梨県側のメイン登山ルートである「富士スバルライン」は「道路法上、自動車やバスを制限できない」(長崎氏)とされる。スバルライン上に軌道を敷き、5合目までの移動を次世代型路面電車(LRT)にすることで、来訪者数をコントロールする考えだ。
アンケートでも舌戦
富士吉田市は昨年10月から今年1月まで全国を対象に構想の賛否を聞くWEBアンケートを実施。1万4182人が回答し、構想に「賛成」と「どちらかといえば賛成」の合計が37%だったのに対し「反対」「どちらかといえば反対」は計63%で、反対が上回った。
長崎氏がアンケートについて「反対の意思を明示した上で行われ、回答を誘導するもの。公平公正ではない」とし、「組織票の存在も懸念され、数字に意味はない」と切り捨てると、堀内氏は「反対の声に耳を傾けない知事の姿勢がはっきりした。回答者に失礼だ」と反発した。
一方、県は各地元説明会終了後にとった参加者アンケートの集計結果を公表。構想への理解が「深まった」「少し深まった」の合計が64・6%に上り、長崎氏は「説明会は十分意義があった」とするが、堀内氏は「理解するかどうかの質問で、構想に反対する方向で理解が深まったのかもしれない」と皮肉る。
推進、反対双方の自治体トップが繰り広げる〝舌戦〟が過熱する上、当初県が今月末までに示すとした開業時期や事業費の試算のめどが立たない状況に陥るなど、構想を巡る議論の決着は不透明な状況だ。
富士山登山鉄道構想
富士山の麓と5合目を結ぶ有料道路の富士スバルライン上に軌道を敷き、次世代型路面電車(LRT)を運行させる。距離は25~28キロで、景観を重視するため、架線を使わない地下からの給電方式を検討している。一般車両の通行を禁止して、来訪者コントロールを図るほか、雪に強い特性を生かし、年間を通じて運行させる考え。
~記者の独り言~ 富士山登山鉄道は、スバルライン上に軌道を敷くことで、新たな開発や自然破壊を最小限にできる面などは評価できる。一方で、架線レスのLRTがスバルラインの急勾配を登り降りできるかなど技術的な課題が多く残され、現時点の構想では完成時期などを提示できていない。時間軸が明確でない中で、構想の賛否の議論は時期尚早に思う。それだけに対立だけがクローズアップされてしまっている感が強い。(平尾孝)