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日本でも導入が進む次世代交通LRT・BRTのポテンシャル 202109

2021-09-15 23:16:59 | 🚃 鉄道

日本でも導入が進む次世代交通LRT・BRTのポテンシャル
 newsweek  より210916   楠田悦子 

モビリティのこれから

 欧州では人口がそれほど多くない都市でもLRTが導入されている
<定時性・速達性を約束し、高い輸送力でドライバー不足にも寄与──海外都市と国内での導入事例を紹介する>

 渋滞や鉄道の廃線問題などを抱える都市や地域では、輸送の効率化や地域の魅力向上のために次世代交通システムの導入が推進あるいは検討されている。

 2020年10月にプレ運行を開始し、東京オリンピック・パラリンピック会場となった晴海から虎ノ門ヒルズまでを結ぶ東京BRT(バス高速輸送システム)には、国産初のいすゞの連節バス「エルガデュオ」が採用された。
 神戸市では2021年4月より、LRT(次世代型路面電車システム)を見据えた連節バス「ポートルーフ」が走り始めた。
 23年春の開業に向けて準備が進む芳賀・宇都宮LRTは既存の路線を活用するのではなく、新規でLRTが建設される日本初の事例だ。

 日本でも少しずつBRTやLRT、連節バスについて見聞きするようになった。

⚫︎定時性や速達性を実現するバス
 実はLRTと路面電車、BRTと連節バスの区別が難しい。

 国内外のBRTを研究する多くの専門家は、日本の多くのBRTは「BRTではない」と主張する。またLRTも欧州のそれと比べると物足りなさを感じることも多く、路面電車との違いがよく分からない場合が多い。
 BRTと呼ばれている国内の事例は10年の間で徐々に増えてきている。大船渡、日立、千葉幕張、東京、新潟、岐阜、名古屋、福岡などがある。

 BRTについては、東京大学大学院新領域創成科学研究科特任教授の中村文彦氏が詳しい。海外のBRTの事例として代表的な事例は、ブラジル・クリチバ市(約180万人)、コロンビア・ボゴダ市(約780万人)、インドネシア・ジャカルタ市(約1,056万人)、オーストラリア・アデレード市(約110万人)などがある(2013年「BRTについて先行海外事例と一般論」より)。

 日本人にとってはバスというより、東京や大阪といった大都市を走る軌道のない鉄道とイメージした方が分かりやすいかもしれない。農村を古い列車で走る地方鉄道よりも先進的な印象だ。バスも使い方次第で鉄道の持つ定時制や速達性、輸送力を実現できることが分かる。

 海外の事例を念頭に置いた上で日本でBRTと言われている事例を今一度見てみると、BRTの研究者が日本のBRTの多くはBRTではないと主張する理由が理解しやすくなる。

 国土交通省はBRTについて、「BRT(Bus Rapid Transit)は、連節バス、PTPS(公共車両優先システム)、バス専用道、バスレーン等を組み合わせることで、速達性・定時性の確保や輸送能力の増大が可能となる高次の機能を備えたバスシステム」と定義している。つまりバスが走る専用の道路、信号、停留所といった空間、定時性や速達性があることが前提となっている。

 一般的なバス車両よりも輸送力があり、複数車両を繋いだ「連節バス」はBRTと似ているが、これはBRTと呼ばない。

 LRTは国土交通省によると、「Light Rail Transitの略で、低床式車両(LRV)の活用や軌道・電停の改良による乗降の容易性、定時性、速達性、快適性などの面で優れた特徴を有する次世代の軌道系交通システム」とされている。

 国内で代表的な事例として富山と宇都宮が挙げられる。まったく何もないところからLRTを敷設するのは宇都宮が初めてだ。2006年に日本初の本格LRTとして注目を集めた富山市では、老朽化したJR西日本の富山港線を市が引き継ぎ、既存の鉄道の再生を図った。

 また札幌、東京、岡山、広島、松山、高知、熊本など日本全国に路面電車が残っている。これらの路面電車を低床化し、スピード、定時性、輸送力、バリアフリー、快適性を向上させてLRT化していっている。そのため、岡山や広島などでは古い路面電車に混じってオシャレな低床式車両が走る光景も見られる。

 欧州のLRTは支払環境を整え、都度払いではなく運賃箱を設けないエリア乗り放題の仕組みを運賃収受の方法として採用している場合が多い。一方、日本は交通系ICカードで都度管理している。

 このような背景から、日本のLRTや低床式車両は欧州に比べると路面電車っぽさがある。日本のLRTと欧州を比較すると違和感を覚えるのはこのためだ。

⚫︎公共交通として定着した欧州のLRT
 LRTの海外事例については、ヴァンソン藤井由実氏の『トラムとにぎわいの地方都市 ストラスブールのまちづくり』(学芸出版社)が有名だが、テレビの旅番組などで古い歴史的建造物が立ち並ぶ中心街をLRTが周遊する風景をよく見かける。

 欧州の大都市であればLRTは地下鉄やバスのように一般的な公共交通として浸透している。ストラスブール(人口約26万人)、チューリッヒ(約38万人)、ヘルシンキ(約64万人)、フライブルク・ドイツ(約20万人)など、日本の大都市ほど大きくない都市でもLRTを大胆に導入されている。

 日本のようにもともと路面電車(欧州では、トラム)が走っていて、低床式車両を導入した都市もある。また単にLRTを採用するのではなく、都心の歩行者専用ゾーン化・トラムの停留所設備の整備と一体化した景観整備、自転車政策、クルマの乗り入れ制限など総合的な計画の下、都市の魅力や移動の利便性の向上を図るべく推進されている。

 日本の路面電車の中にはモータリゼーションの中で廃線の危機をかいくぐり、たまたま現在まで残っている路線がある。そのため「乗ったことがない」という市民も多く、まちのアイデンティティとして路面電車が活かされていると肌感覚で感じられないことが多い。

 これまで見てきたように日本ではLRT化やBRT化が路面電車や老朽化したローカル鉄道で少しずつ検討されている。また連節バスは乗車人数が多い路線でドライバー不足を補う解決策として期待されている。

 一方、LRTやBRTを走らせようとすると相当なハードルを越えなければならない。市民からの強い要望や関係者の合意形成を要する。宇都宮市は、通勤のクルマで慢性的な渋滞問題を抱えていたため、解決策として理解されたが、それでも反対の声が上がった。

 またクルマ移動がメインの日本では、自動運転専用レーンを作ることすら難しい状況にある。鉄道のBRT化についても、自分の街から鉄軌道がなくなることに対して抵抗がある人も多いだろう。

 神戸市など新設でLRTを導入したいと考えている自治体が日本にもいくつかある。導入には多くのハードルがあるが、長期的な街のあり方を考えた上で必要と判断したならば、綿密な計画を立て、時には思い切った舵取りをしてみるのも良いのではないだろうか。
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第15回木村利栄物理学賞に京都大基礎物理学研究所・西岡辰磨特定准教授  202109

2021-09-15 23:02:00 | 気になる モノ・コト

第15回木村利栄物理学賞に京都大基礎物理学研究所・西岡辰磨特定准教授
  京都新聞 より 210915

京都大学
 湯川秀樹らの研究支援を目的に設立された湯川記念財団と京都大基礎物理学研究所は15日までに、重力・時空理論などの研究で優れた業績を挙げた研究者に贈る「第15回木村利栄理論物理学賞」に、同研究所の西岡辰磨特定准教授(38)を選んだと発表した。

 西岡氏は、複数の粒子が相互関係にある状態になっている「量子もつれ」と呼ばれる現象に着目。その強さの指標となる「エンタングルメント・エントロピー」の研究などで業績を挙げた。授賞式は来年1月19日に京都市左京区の同研究所で行う。
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ビジネスモデルは「システム」に帰結する。複雑な社会、不確実な今をどう解決できるか  202109

2021-09-15 22:52:00 | なるほど  ふぅ〜ん

ビジネスモデルは「システム」に帰結する。複雑な社会、不確実な今をどう解決できるか
  ビジネス+IT  より 210915   フリーライター/エディター 大内孝子

 「昨今、『ビジネスモデル』という言葉がよく使われるようになったが、色々なものが連携しあう今の社会には『システム性』があり、一歩踏み込むとすぐにシステムの問題になる」と指摘するのは、東京大学名誉教授、大阪大学名誉教授で、システムイノベーションセンター(SIC)副センター長の木村英紀氏だ。実際、私たちの身の回りにある家電を含めたさまざまな工業製品やそれを支えるネットワークなどはすべて「システム」に帰結する。木村英紀氏が、2021年IEEE(米国電気電子学会)の各分野の最高賞であるTechnical Field Awardsの制御部門賞IEEE Control Systems Awardをアジアで初めて受賞したのを記念した講演に登壇し、システムはいかにあるべきか、社会との関わりの中からシステムを捉え直す提言を行った。

東京大学名誉教授、大阪大学名誉教授一般社団法人システムイノベーションセンター(SIC)副センター長木村英紀氏
※本稿はSIC木村英紀副センター長IEEE受賞記念講演会「『ホモ・システーマ』の時代:システム史観の提案」の講演内容を再構成したものです。


⚫︎システムは現代の"デーモン"である
 デーモン (注1)という言葉自体、あまり馴染みがないかもしれませんが、「システムは現代のデーモンである」、私はこう考えています。これは今の社会、技術、さらに我々の生活にシステムがいかに大きな影響を与えているか、それをデーモンという言葉で象徴させています

 では、システムがなぜそこまで大きな存在になってきたのでしょうか。歴史をさかのぼってみるとこれはある意味必然。その経緯は、技術の進化の方向性をもって読み解くことができます。

注1:一般に鬼神,守護神,悪魔などを意味し,本来は超自然的・霊的存在者を表すギリシャ語ダイモンに由来する語。ホメロスではほとんど〈神〉または〈神の力〉の同義語として扱われ,あらゆるできごとを起こす真の原因と考えられている(平凡社世界大百科事典 第2版より)。デーモンはUnix系のOSにおいて動作するバックグラウンドのプロセスを指す言葉でもある。

 これまで工業製品は"1台何役"という形で進化してきました。1つの機械、あるいは装置が数多くの仕事をこなすというように。

 たとえばエアコンです。昔は別々の機械だったクーラーとヒーターが1台の中に収まって、使い勝手がよくなり、省エネ効果も上がりました。複合機もそうです。コピー、プリント、Fax、さらにスキャンニングも1台でこなすようになりました。

 この「1つの機械への機能の集約」という形での技術の進化、これは実にさまざまな分野に及んでいます。

 たとえば、発電し同時に熱も発生する温熱器でもあるという商品「エネファーム」(家庭用燃料電池)。こうした、排熱を利用して動力や温熱を取り出すことで全体のエネルギー効率を上げる技術(装置)を「コジェネレーション」と呼びます。

 発電と発熱という2つの機能が統合されることによってエネルギー効率を上げるというように、エネルギー供給システムといった大規模な形でも機能の集約が進んでいます。

 システムキッチンは無駄な動線が省けるよう、収納・調理・加熱・洗浄という台所仕事の機能をコンパクトにまとめたものです。だいぶ前に登場した製品ですが、これも機能の統合の一種と言えるでしょう。

 極め付きがスマートフォンです。電話・カメラ・コンピューター・マイク・懐中電灯など、たくさんの機能が小さな筐体の中にまとめられています。さらに言えば、最近はスマートテレビが登場し、テレビの画面でYoutubeを見ることができます。これも放送とインターネットという2つの機能が統合されたものと言えます。

 さらには、「ワン・ストップ・サービス」として、行政的な手続きなど、これまで複数の部署に分散していた窓口を集約する動きなども進んでいます。

 また、統合とはちょっと異なりますが、「Suica」は使用範囲を広げることで多機能になっていった例です。JR東京の切符の代用品として登場し、やがて私鉄、地下鉄に使用範囲が拡大され、現在ではほぼ全国に広がっています。これが今は買い物にも使えるようになっています。

 企業の業態もそうです。たとえばガス会社が電力を売る(逆に、電力会社がガスを売る)、銀行と証券の間の垣根が低くなっていくというように。このように、1つの機械や装置が数多くの仕事をこなすようになる、人と装置の機能が拡大していくことは現代のトレンドであり、システムの進化の1つの方向性を示していると言えます。

 一方で、システムに囲まれて生きている私たちの生活の質は、それぞれのシステムの良し悪しで大きく左右されます。金融、税制、交通、通信、医療、保険はすでに大きなシステムですし、小売業で言えばコンビニやスーパーマーケットもすでに大きなシステムです。

 電力やガス、上下水道といったインフラ、さらにはスポーツや文化、家電までもがシステム化され、さらには自治体や教育、これもシステム化されています。考えてみると、私たちはもう多くのシステムに囲まれているわけです。

 もちろん、良いことばかりとは限りません。東京証券取引所、全日空、みずほ銀行などシステム障害のニュースは頻繁に聞こえてきます。その多くが、経済的な損失だけではなく、たとえば交通システムなどの場合、最悪、人身事故にもつながりかねないものになっています。

 最近の傾向として、部分的なダウンではなく全面ダウンの割合が急増していると言われていますが、これは反面、よいシステムを作ることがいかに難しいかを表しています。それでも私たちはシステムを作り、使っていかなければいけない現代に生きています。

⚫︎人工物の科学が誕生した「第三次科学革命」
 システムについて本格的に語るのに、まず「第三次科学革命」から始めたいと思います。第三次科学革命とは私の造語ですが、1931年から20年足らずの期間に起きた、自然科学ではない、新たな科学──「人工物の科学」──の誕生を指します。

 たとえば、1932年の「ブリュンの回路理論の数学化」とは何かというと、「回路理論はある意味では数学である」ことを示した発見です。ブリュンは受動回路網 (注2)の特性を解析する上で一番重要なインピーダンス関数が、数学の正実関数(Positive Real Function)という抽象的な概念クラスと完全に一致することを明らかにしました。

 つまり、電気回路の特性を表現する関数と数学の世界で定式化された関数とが完全に一致していることが、これにより証明されたのです。これはしかも完全な一致で、「すべての受動回路のインピーダンス関数は正実関数である」というだけではなく、その逆、「すべての正実関数は必ず電気回路のインピーダンス関数として実現できる」とまで言える、非常に見事な証明です。

 図に示すように、20年の間にそれに類することが次々と起こり、さまざまな成果を生み出し、現在のシステム科学技術の基礎になった。これはもう、やはり科学の革命と考えていいと思うわけです。

自然科学ではない人工物の科学が誕生し、システム科学技術の基礎となる(出典:木村英紀氏講演スライド資料より)
注2:コンデンサーと抵抗とコイルの3つの要素をつなぎ合わせて作る回路。真空管やトランジスタなどのような能動素子を含んだ回路(能動回路)が入力した電力よりも大きい電力を出力できるのに対し、受動回路網はエネルギーが発生しない。

 なぜ第三次なのかというと、ここで歴史を振り返ります。第一次科学革命はニュートンによる近代科学の誕生です。これはまさに科学革命であり、これこそ大文字の科学革命だと言われます。ニュートン力学の確立はそれぐらい大きな成果で、森羅万象を説明できるようになったということで、人間の中で科学が一挙に大きな存在に、大きな位置を占めるようになります。

 その50年後に産業革命が起こりますが、実は、この産業革命の担い手は職人たちで科学とは関係がなかった人たちです。おそらく、科学革命のことを知らない人はいなかったでしょう。しかし、主役になったのは、科学の専門教育を受けた人たちではなく、現場で手を動かしていた人たちでした。

 そして、その両者が結婚したと言われるのが第二次産業革命です。ナポレオンの時代、フランスに「エコール・ポリテクニーク」という学校ができます。

 これは、今後、技術は科学をベースに発展すべきだという、非常に力強い主張をする一派がその実践のために作った学校です。

 科学と技術が車の両輪のように発展していく契機となり、色々なところにエコール・ポリテクニークが作られます。これが、現在のヨーロッパの工科大学のベースになっています。

 ただ、科学と技術が蜜月関係になったかというと、そういうわけではありませんでした。やはり技術は科学とは全然違う、というようなことを言う科学者も中にはいましたし、ヨーロッパの古い大学には依然として工学部は存在しません。

 という前史に続き、技術が生み出した自然科学ではない科学の誕生です。第二次科学革命の次なので、第三次と呼びたいと思います。一挙に、短い期間にさまざまな成果が生まれた。

 先ほど回路理論の話をしましたが、いま我々が日常的に使っているフィードバック理論も、その根幹がこの時期に与えられています。それ以外にも、たとえばオペレーションズリサーチ(OR)、品質管理、制御、予測、こういったものが生み出されました。

 中でも、オペレーションズリサーチはシステム化の1つの花形、旗手となります。この人工物の科学は物理学と、少なくとも同程度に深いロジックとそれから広さを持っていると考えていいと思います。

 こうして、第三次科学革命、人工物の科学の登場がシステム科学への地ならしを提供することになったわけです。

第三次科学革命の意義(出典:木村英紀氏講演スライド資料より)
*自然科学以外の科学(人工物の科学)が存在することを鮮明に示した。
*応用数学を力学・天文学・統計学の世界から大きく解き放った。
*システムの科学への地ならしを提供した。

⚫︎一般システム論からシステム科学へ
 システム科学の原点を記すと、「要素還元論」への対立軸として現れた「一般システム理論」が各分野で大きな反響を起こしたことがあげられます。

 要素に分解すれば世界は理解できるのだとする要素還元論は、20世紀始めに非常に大きな成功を収めました。しかし、要素還元論になじめない分野であった生物学と心理学を中心に、生物を有機体として捉え、全体をシステムとして考えることでその機能や仕組みを理解しようという動きが起こります。

 そのリーダーシップをとったのが、ウィーンで生まれ米国で活躍した生物学者ルートヴィヒ・フォン・ベルタランフィです。1945年に彼が著した『一般システム論』は各分野で恐ろしいほどの反響を呼びました。1950年に行われた米国精神医学会での講演会では二千人以上の聴衆を集め、何百人もの人が場外にあふれたという話です。

 一種のブームで、この傾向はずっと続きました。1948年、米国の数学者ノーバート・ウィーナーが『サイバネティックス』を発表。通信と制御が実は生物や社会、機械の共通原理であると捉えて、この3つの世界にまたがる分野横断的な研究分野の確立を目指したものです。
 これは、みなさんご存じのように「サイバー」の語源となった概念です。ウィーナーは、小脳に疾患のある患者の「ものを取ろうとしたら行き過ぎる、少し引くと今度は引っ込めすぎる」という動きに着目し、まさにうまく設計できなかったフィードバック制御のハンチングと同じだと直感したことからサイバネティックスの考えが生まれたと書いています。

 『サイバネティックス』はすぐに世界10何カ国で翻訳されますが、日本でようやく翻訳が出版されたのは1962年のこと。JRの前進である日本国鉄道(国鉄)が積極的にサイバネティックス理論を導入したという話があります。
 鉄道網を身体で言えば血液だとし、社会の血液である鉄道ががんばることによって日本の国全体が向上すると考えたわけです。敗戦当時、まだ苦しい状態にあった日本にサイバネティックスが勇気を与えたと言われています。

 一般システム論からシステム科学への展開という点に注目すると、社会科学の非常に多くの人たちが一般システム論を展開していきます。
 社会学で当時リーダーシップを取っていた一人であるニコラス・ルーマン、歴史学ではイマニエル・ウォーラーステイン、国際関係論ではエリース・ボールディング、経済学ではケネス・ホールディング、ハーバード・サイモンといった人たちが、社会科学にもシステム的な考え方を入れようとして、相当な努力をされました。

 つまり、要素還元論への対立軸として登場した有機体論がシステムへの新しい視点を導入したというわけです。

一般システム論からシステム科学へ(出典:木村英紀氏講演スライド資料より)
 もう1つ重要なポイントとして、国際応用システム解析研究所(IASA)が1972年に設立されます。実は、米ソ・トップ会談で決まったという、非常にユニークな設立の経緯を持っています。

 当時、冷戦の中、ニクソンとブレジネフはデタント(冷戦緩和)において協力していました。東西共通の課題を共同で解析、解決するための研究所として作ろうということで合意して、資金を出し合って、実際にウィーンの郊外に作ったのです。

 こうして、食料、人口、環境汚染、貧困、公衆衛生という世界が共有の課題として持つようなテーマについて解決しようという組織が作られ、システムが媒体となって国際協調が始まっていきます。同年に、ローマクラブの調査レポート「成長の限界」が発表されています。

 「成長の限界」はMITの教授らがメインとなって、システムダイナミクスを用いた世界シミュレーションを初めてやったというものです。今は気候問題などモデルを使って予測をするというのは普通のことになっていますが、当時としては、世界を対象にモデルを立ててシミュレーションを行うというのは極めて斬新なアイデアでした。

 コンピューターのパワーを印象づけるのに大いに役に立った(現代のパソコンの性能でいえば5分くらいで計算できるようなレベルではあるのですが)のと同時に、当時存在していたさまざまなデータを駆使していたことも大きな特徴です。

 データをベースにして、このままでは地球は持続可能ではないという警告を発するだけではなくて、たとえば環境汚染に対しこのあたりをきつく制約すればこれくらい改善されるというような手立ても提案しました。こうした点も世の中の評価を得た理由でしょう。

⚫︎MITではデータ、システム、社会にフォーカス
 最近の動きとして、MITのことを紹介しておきます。第二次世界大戦後のシステム研究のメッカとして「Engineering Systems Division(ESD)」を設立し,米国だけではなく世界のシステム研究の中心として機能していたMITですが,2015年,このESDを廃止し,「Institute of Data,Systems and Society(IDSS)」という新しい研究機関を組織します。
 つまり、米国は国として、大きなターゲットとして「データ(Data)」「システム(Systems)」「社会(Society)」にフォーカスを当てているわけです。これは、注目に値することだろうと思います。

 MITは2015年に新たにInstitute of Data,Systems and Society(IDSS)を設立した(出典:木村英紀氏講演スライド資料より)

⚫︎社会の変動はシステムに帰結する
 今の社会は不確かだと言われます。ですが、社会の複雑さというものを深く考えてみると、システムの複雑さに帰着できるという場合がほとんどだと私は考えています。

 不確かな未来に向き合うというのは、つまり増えていく色々な要素を考えなければいけないということです。要は、相手はシステムなのだと認識するしかない。

 たとえば、「ビジネスモデル」という言葉が今、非常によく使われるようになっていますが、ビジネスモデルを考えるとすぐにシステムということに直面します。

 色々なものが連携し合う今の社会には、ある種システム性があり、一歩踏み込むとすぐにシステムの問題になります。まさにシステムは現代のデーモンで、裏を返すと、社会の変動は自分が使っているシステムの変動と捉えることができます。それによって、つまり、そういう複雑さ(あるいは変動)をシステムの問題として捉えられことで、少なくとも、一歩を進めることはできるのではないか、と思うわけです。

 では、いったいシステムとはいかにあるべきなのでしょうか。

 第一に、複雑さをむしろうれしいと思うくらいの余裕を持つべきだろうと思います。かつては、自分が作っているものが売れるか売れないかは自分に聞いてくれるなと、自分たちはいいものを作ればいいと言われていました。

 そうさせてくれと思っているエンジニアは少なくなかったですし、それで成り立っていた時代でした。

 しかし、今はそうではありません。売れるか、売れないかということも研究開発に取り入れるべきでしょう。そうすると、研究開発のやり方が非常に複雑なものになります。けれども、それを苦にしないでやっていただきたいということ。これをメッセージとしてお伝えしたいと思います。

 残念ながら「文と理の境界」があるのは事実です。しかしシステムというものは、文においても理においても、決して立ちはだかる壁ではありません。

 むしろ、肥沃な可能性を持つ未開地とみなすべきで、広い視野と全体への目配りを忘れず、最適化を目指してほしい。先端技術と社会の接点は常にシステムであることを認識してほしいということなのです。   記事は後編に続く…
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なぜ給与は安いまま?働く人を貧しくする日本に専門家が警鐘   202109

2021-09-15 22:12:00 | 気になる モノ・コト

なぜ給与は安いまま?働く人を貧しくする日本に専門家が警鐘
   bizSPA!フレッシュ  210915

 1990年以降、雇用が不安定になり、実質賃金も上がらず、働くことに不安を抱えているのはビジネスパーソンだけでなく、子供世代でも珍しくない。とりわけ、“派遣切り”や“年越し派遣村”など、派遣労働はネガティブなイメージが根強い。

 日本の派遣会社数は海外と比較すると圧倒的に多く、なにか政治経済の思惑を詮索したくなるほどだ。政治経済に精通している政策コンサルタントの室伏謙一氏(@keipierremulot)に、派遣会社の数の多い理由から、日本の労働事情の現状を聞いた。

◆派遣会社数の多さは労働事情の歪み
 まず、派遣会社が多い理由を室伏氏に聞くと「大手企業が人件費を削減したいがために、政府に構造改革を促した影響です」とキッパリ。

「企業としては人件費、社会保険料の負担が大きく、どうしても抑えたいコストです。そこで大手企業を中心に構成されている経団連が自民党に働きかけ、派遣法の改正に踏み切らせました。契約社員を雇用しても人件費削減は可能ですが、契約社員ではいちいち人を集めなければいけない。

 一方、派遣社員の場合は派遣会社が人材を抱えており、必要な数の人材を派遣してもらえる。労働者派遣は企業が人材を安く簡単に利用できる非常に便利なシステムなのです」

◆かつては自ら派遣労働者になる人も
室伏謙一氏
 続けて、「かつては自民党の派閥が機能しており、おかしな政策が通らないように抑制均衡が効いていましたが、小選挙区制が導入されて以降、そうしたものが機能しなくってしまっています」と日本政治の劣化を嘆く。

「政治家は多額の献金を経団連からもらっているため、経団連の意向、つまりは大手企業が有利になる政策推進に拍車がかかり、今なお進められています。多元主義が当たり前となっているヨーロッパ諸国では、さまざまな職能団体や利益団体、宗教団体の利害や意見を代弁する政党が存在し、その調整を経て政策が形成されるので、『特定の業界(団体)の声に過剰に耳を傾ける』ということはありません。派遣会社数が世界的に突出している現状を鑑みると、いかに日本の政治・労働事情が歪んでいるかがうかがえます」

 かつての派遣労働者は、正社員ではない自由な働き方を求めて自らなった人も多かったという。しかし、度重なる規制緩和という名の改悪により、今では“雇用の調整弁”になってしまっている。

 室伏氏は「昔のように規制をキチンとして労働者が守られている状態であれば良いですが、いまや派遣労働は企業にしかメリットがないと言ってもいい状況」と一蹴した。

◆テレワークも人材費削減が狙い?
 総務省「労働力調査」などによれば非正規労働者の中でも派遣社員は1割に満たない。そのため「派遣労働に関する問題に過剰に反応しなくてもよい」と主張する識者は少なくないが、室伏氏は「問題視すべきは派遣社員の割合ではなく、人件費削減のために労働市場が大きく歪められていること。派遣労働の問題はそのひとつに過ぎません」と、日本の労働環境全体の変化に注視することを促す。

「第二次安倍政権から続く『従来の働き方を見直して“ジョブ型”にしましょう!』『フリーランスとして柔軟に働きましょう!』といった動きは、菅義偉政権でも継承されました。
 この流れの背景には、派遣労働と同じように人件費削減が隠れています。ジョブ型に関しては、成果が評価指標になるため『期待した通りのものではない』と適当に難癖をつければ、給与を減らすことも可能です。

 コロナ禍以降、もてはやされたテレワークも同じ理屈。テレワークも仕事をしている姿が見えないおかげで、働き方にケチをつけて人件費削減ができます。そのうえ、労働時間も曖昧になるため、残業代削減も狙え、企業にとってはとても都合が良い。

 また、“柔軟な働き方”で言うと、“副業推進”が挙げられますが、これも結局は『給与を上げたくないから他所で稼いで』という言い訳を企業に与えるもの。給与の低さを主張する労働者の口をふさぎ、自己責任論を押し付けるための口実に過ぎません」

◆誰もが独立で活躍できるわけではない
「次に“フリーランス”ですが、フリーランスは収入が不安定になりやすく、誰でもできる働き方ではありません。当然、仕事を与える企業側が優位に立てるため、弁護士や税理士、著名なクリエイターといった一部の人くらいしか活躍できません。『ウェブデザインできます!』と普通の人が言っても、企業に都合よく使い倒されるだけ。

 フリーランスの場合、社会保障負担もなくせるため、派遣労働以上に企業側のメリットがあり、企業が推進したい理由がよくわかります」

 テレワークや副業は“新しい時代の働き方”というキラキラしたイメージがあるが、人件費削減の狙いがあったことには驚きである。

◆公務員の非正規化はデメリットしかない
 また、人件費削減でいうと公務員の非正規化が進んでいるが、室伏氏は「公務員を非正規化する必要なんてありません。デメリットしかない」と危機感を募らせる。

「行政は民間企業のように利益を出すことが目的ではありません。公共の目的のために安定的に必要な人員を確保して運営しなければいけない。もちろん暇な時期もあるかもしれませんが、いざという時に必要だから確保されているのであり、安易な人件費削減などはもってのほか。

 公務員の非正規化が進められた背景には、小泉政権時に竹中平蔵氏が中心となって始まった“三位一体の改革”にあります。
 地方交付税交付金や国庫補助金などを減らし、地方自治体が人件費削減に踏み切らざるを得ないように仕向け、結果、非正規化・民営化が進められました。その後、窓口業務を中心に派遣社員に置き換える地方自治体が増え、竹中氏が取締役会長を勤める人材派遣会社・パソナグループは多額の利益を得ました。

 利益追求のために竹中氏を始めとした人が『日本は公務員が多すぎる!』『公務員はまともに働いていない!』と嘘を並べて行政を空洞化させましたが、必要な部門に必要な人材がいないことは、私たちが安心して生活を送れなくなるリスクがあります。公務員の非正規化を止めさせ、むしろ公務員を増やしていかなければなりません」

「公務員=減らしても良い」とイメージしている人も珍しくない。しかし、イメージと現状が離れていることは往々にしてあり、とりわけ公務員の現状については、冷静に見極める必要がありそうだ。

◆私たちは株主のために働いている?
 改めて政府や企業が露骨なまでの人件費削減を進めている理由を聞くと、室伏氏は「主に“株主資本主義”と“過剰なグローバル化”の影響」と話す。

「まず株主資本主義ですが、金融ビックバンと会社法制定、その後の数次にわたる改正で、株主の力は強くなりました。前回の改正により設置が義務化された社外取締役は株主の代理人です。株主の関心事は配当であり、外国人投資家を中心にその増額を要求してきます。
 それに対応するためには、コストの大きな部分を占める人件費、そして設備投資を削らざるをえなくなっています。
 しかも現在、上場企業は四半期決算が義務付けられているので、3か月ごとに財務状況をチェックされ、利益を出していない部門や事業の廃止や売却を株主から要求されることもあります。短期間で成果を出すことなどほぼ不可能であるにもかかわらず、です」

◆“過剰なグローバル化”って何?
「資本金10億円以上の日本企業の配当金、経常利益、売上高、給与、設備投資を見てみてください。1997年を100とした場合、給与や設備投資は微減、売上高は横ばいなのに対して、経常利益は3倍、配当に至っては6倍以上になっています。

 人件費や設備投資を削って株価を釣り上げ、経常利益を釣り上げて配当金を増やしている実態が読み取れます。これに拍車をかけている四半期決算は、短期主義経営を助長することからヨーロッパ諸国ではすでに義務ではなくなっています。端的に言って、義務的四半期決算は異常な制度であり、早急に日本でも見直さなければいけません」

 そして、“過剰なグローバル化”に関しては、「グローバル競争とはすなわち価格競争であり、それは裏を返せばコスト競争です。コストの大きな部分を占めるのが人件費と法令遵守費用であり、これが、人件費が安く規制も少ない低開発国での生産の誘因となっています。

 このコスト競争はグローバルな競争ですから先進国内に波及し、「底辺への競争」と呼ばれる人件費の引下げにもつながっています。加えて株主資本主義ですから、グローバル化が進んだことで、この傾向は一層強くなっています。移民労働者の活用はそののひとつの現れです」と現状を解説した。

◆グローバル化をうたう政治家は要注意
 最後に“株主資本主義”と“過剰なグローバル化”を脱するためには政権交代しかないのか聞くと、「自民党の中でも、現状の問題点を認識している議員はいます。反対に立憲民主党の中にも、これが分かっていない議員はいます」と答える。

「結局、我々国民が『どの候補者なら日本を良くしてくれるのか』ということを見極めるしかありません。2021年秋には衆議院選挙がありますが、それまでに各政党・各候補者の主張が適切なのかどうかを、判断するための知識を備えておかなければいけません。

 とはいえ、書籍やインターネットには無数の情報が転がっているため、見極めることは大変難しい。まずは今回話した『これからはジョブ型だ!』『このままでは日本はグローバル競争に勝てない!』といった人件費削減を正当化する政治家や識者に対しては、疑ってかかることから始めてみると良いのではないでしょうか」

 日本の労働市場のいびつな実態がわかっただろうか。“株主資本主義”と“過剰なグローバル化”を改め、安定した雇用、適切な賃金を実現するために、他人ごとにはせずに衆議院選挙までに勉強しなければいけない。

<取材・文/望月悠木>

【室伏謙一】
昭和47年静岡県生まれ。静岡聖光学院高校卒業、国際基督教大学(ICU)教養学部卒業、慶應義塾大学大学院法学研究科修了(法学修士)。政財官での実績を生かし、国会議員、地方議員の政策アドヴァイザーや民間企業向けの政策の企画・立案の支援、政治・政策関連の執筆活動等に従事
Twitter:@keipierremulot

【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている Twitter: @mochizukiyuuki
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🚶‍♀️…向島農地 特になし 210915^

2021-09-15 18:19:00 | 🚶 歩く
🚶‍♀️…右岸河川敷…隠元橋…左岸堤防道…同47km碑+…向島農地(鷹場町…清水町⇆…渡シ場町)…左岸堤防道47.4km碑…隠元橋…右岸堤防道…>
🚶‍♀️10180歩2kg

⛅️:隠元橋26℃~28℃:風心地よく
 曇りから陽射しが出だす。散歩し易い
宇治川増水中ダム放流240−>179m3/s
三度目の堤防の草刈り
 燕を見なくなった渡った様です。


右岸堤防道の草が生い茂り隠され彼岸花が

右岸



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