JRの廃線時対応「十分でない」 地方から聞こえる恨み節、国交省が改正地域交通法に異例の文言を入れたワケ
Merkmal より 230902 高田泰(フリージャーナリスト)
⚫︎手切れ金渡して「はい、サヨナラ」
JR西日本が再構築協議会設置を求める考えを示している芸備線の列車(画像:高田泰)
国土交通省と総務省は8月末に告示した改正地域公共交通法の基本方針に、鉄道廃線後もJR各社が公共交通維持に協力するよう求める文言を入れた。背景に何があったのか。「JRは鉄道を廃止したら、協力金を渡して知らぬ顔。手切れ金を渡して別れようとしているみたいだ」北海道留萌市で3月、市内の留萌駅と沼田町の石狩沼田駅を結ぶJR北海道の留萌本線35.7kmが廃止された。
市内の飲食店主に電話で話を聞くと、受話器の向こうから不満の声が返ってきた。
代替交通はJR北と北海道、留萌市、沼田町が協議して選んだ。沿岸バスの留萌旭川線、沼田町営バスなど既存のバス路線中心で、新設されたのは早朝と夜間の予約制乗り合いタクシー、旭川市と高規格道路経由で結ぶ高速バス1日1往復だけ。
そのうちの沿岸バスは廃止直後に赤字を理由に沿線自治体と存廃協議していることを明らかにした。
JR北はグループにバス会社を持つが、運行に加わっていない。
廃線後の関与はまちづくり支援として沿線の地方自治体に拠出した7000万円のほか、最大18年間、代替交通を支援するにとどまる。
過去に廃線となった夕張市の石勝線夕張支線や様似(さまに)町など日高地方の日高本線鵡川(むかわ)駅以南と同じ対応で、JR北は
「廃線後の代替交通選定に関与していないわけではない」
北海道交通企画課は
「自治体主導で代替交通を決めるほうが住民のニーズをくみ取りやすい」
と説明するが、住民のなかには関与が不十分と考える人がいる。
同様の事例は、2018年に廃止された広島県三次(みよし)市と島根県江津(ごうつ)市を結ぶ三江(さんこう)線でも見られた。
三江線は沿線108.1kmを14区間に分け、中近距離の路線バスなどをつなぎ合わせて代替交通とした。その後、利用が低迷する一部区間が廃止され、現在は10区間で代替交通が運行している。
JR西日本は沿線自治体に代替交通の支援金17億円超を支出するとともに、代替交通を確保するため、国交省中国運輸局が設けた代替交通確保調整協議会に参加した。しかし、グループのバス会社は運行に加わらなかった。
広島県地域政策局は
「三江線廃線当時の対応を十分と考える住民は多くないのではないか。これで廃線後も地域公共交通の維持に一定の責任を果たしたといえるのだろうか」
⚫︎JR自身が代替バス運行も
こうした疑問に国が出した答えが8月末、官報で告示した改正地域交通法の基本方針に明記された。
10月施行の改正法で目玉となる再構築協議会に関連し、JR各社に対してバスなどへの転換が決まった場合でも運行などに十分な協力をするよう求める文言を盛り込んだことだ。
再構築協議会は利用が低迷した路線の鉄道事業者、または沿線自治体の要請で国が設置し、存廃を含めて議論する新制度。
JR西が岡山県と広島県を走る芸備線のうち、岡山県新見市の備中神代(こうじろ)駅から広島県庄原市の備後庄原駅まで68.5kmについて設置を求める考えを明らかにしている。
基本方針では、再構築協議会で議論した結果、廃線でバスなど他の交通手段に転換された場合、JR各社は沿線自治体などと連携し、持続的な運行に向けて十分な協力を行うべきだとした。
具体的な手段としては、
・JR各社のグループ会社によるバス運行
・JR各社から地元企業への運行委託
・代替交通運行会社への共同出資
を挙げている。さらに、廃線後も地域振興に協力し、地域との関係を継続することを盛り込んだ。
国交省鉄道事業課は、
「廃線になったら、地域とJR各社の関係が終わるわけではない。地方を取り巻く環境は人口減少の加速で厳しさを増している。JR各社には地域の公共交通維持に向けてこれまで以上に尽力してほしい」
と狙いを語った。
再構築協議会に対し、JR各社はおおむね歓迎の意向を示しているが、路線を維持したい地方には
「廃線のセレモニー(儀式)」
になりかねないとして強い警戒感がある。
全国知事会が7月、JR各社が地域公共交通の持続的運行に最大限協力するよう求める要望を国交省に提出しただけに、地方の声に配慮する思惑もあると見られる。
⚫︎運転士不足がバス転換の壁に
地方のイメージ
バス会社の運転士不足でバス転換を簡単にできなくなりつつある事情も影響している。
地方では運転士不足で路線バスの減便が続出している。原因は若者が運転士を敬遠するからだといわれるが、鉄道が廃止されるような過疎地域ではそもそも若者がいない。
運転士確保は至難の業だ。
鉄道が大赤字の区間にバスが運行したからといって、黒字になるはずがない。赤字は自治体が補てんしても、結局はプラスマイナスゼロの収支にしかならない。
廃線が相次いだ北海道では、代替バスの確保に苦労した話をよく聞くが、自社路線の運行もままならないなか、あえて他の地域から火中の栗を拾いに来るバス会社がないのも当然といえる。
「鉄道の代替交通 = バス」
と安易に決められない時代になった。路線バスの代替交通となる予約型のデマンド交通は、多くをタクシー会社が運行している。タクシーの乗務員不足はバス以上に厳しい。代替交通が確保できないことさえ考えられる。
JR西は
「公共交通事業者としてより良い交通体系の実現に協力したいと考えており、再構築後の交通プラン立ち上げ・運営に際し、費用負担の問題も含めて一定の役割を果たしていくことは大切と認識している」
と述べた。
JR各社は民営化で営利企業に生まれ変わった一方で、高い公共性を持つことに変わりない。
例え廃線になっても地域にとどまって住民や自治体に寄り添い、知恵と力を貸すことが求められている。