職場のハラスメントについて研究してきた神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科の津野香奈美氏らが、
コロナパンデミック下での職場いじめ(workplace bullying)と労働者のメンタルヘルスの実態に関する調査を行なった結果を、
「BMJ Open」誌の11月2日号に発表しました。
分析の対象とされたのは、2020年8~9月にCOVID-19パンデミックの住民の生活・健康・社会・経済活動への影響の実態を把握するために
全国にオンラインで実施された大規模調査「JACSIS(Japan COVID-19 and Society Internet Survey)研究」のデータで、有職者16,384人です。
このうち26.5%の人は在宅勤務を行っており、パンデミックに伴なって開始したのが8.4%、パンデミック前から行なっていたのが18.1%でした。
それによると、2020年4月から半年間で、職場いじめに遭ったと回答した人が14.9%、職場いじめを目撃したと答えた人が17.9%いました。
職場いじめに遭った場合、重度の精神的苦痛に該当する割合が184%、希死念慮を有する割合が113%、それぞれ有意に高くなり、
また職場いじめに遭わなくても、その場面を目撃しただけで、重度の精神的苦痛に該当する割合が90%、希死念慮を有する割合が41%、
それぞれ有意に高くなっています。
8.8%は精神的苦痛が重度と判定され、11.5%は過去半年間に「死にたいと思ったことがある」と希死念慮を伝えています。
職場いじめに遭った人の特徴で、有意な関連因子として浮かび上がったのは、
男性であること、年長者よりも若年者であること、低収入であること、
非正社員やアルバイトよりも正社員、さらには管理職、さらには経営者であることと、
むしろ職位の高い人たちに集まる傾向が見られる(従来にはない)特徴があります。
身体的負荷の増加や心理的負荷の増加ももちろん欠かせません。
在宅勤務の開始は、職場いじめに遭う確率を下げるとはいえ、
パンデミックに伴なって「身体的負荷が増えた」と答えた人は20.7%、「心理的負荷が増えた」と答えた人は33.1%あり、
とくに男性では、パンデミック後に在宅勤務を開始したことが、重度の精神的苦痛や希死念慮に関連する有意な関連因子の1つとして抽出されており
(重度の精神的苦痛は+20%、希死念慮は+23%)、女性ではこの関連は非有意とのことです。
ハンデミックが職場の環境に、従来の定説では説明のつかない変化をもたらしている可能性が伺えます。
<原著文献>
Tsuno, K. & Tabuchi, T., 2022 Risk factors for workplace bullying, severe psychological distress and suicidal ideation during the COVID-19 pandemic among the general working population in Japan: a large-scale cross-sectional study, in BMJ open, vol.12, no.11;e059860. doi: 10.1136/bmjopen-2021-059860.