「臨床にダイレクトにつながる 循環生理」好調です。
Amazonの臨床医学一般部門で第1位。
http://www.amazon.co.jp/gp/bestsellers/books/2442244051/ref=pd_zg_hrsr_b_1_3_last
自治医科大学附属さいたま医療センター麻酔科・循環器科・ICUの合作です。苦労の甲斐が報われます。
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自治医科大学附属さいたま医療センター麻酔科・循環器科・ICUの合作です。苦労の甲斐が報われます。
https://www.yodosha.co.jp/medical/book/9784758117616/index.html
ようやく出ました。翻訳です。
まず原著がきわめて高い評価を得ています(amazonで7人中6人が5つ星)。
解説が丁寧(でときにくどいくらい噛み砕いて説明してくれています)、章末にテストがついていたり、臨床問題があったり、至れり尽くせり、筆者の誠意を感じます。
本来、医学生向けですが、初期研修医、循環生理を復習してみたい臨床医、循環器にどっぷり浸かっている臨床工学技士や看護師にとって、いろいろ学ぶところが多い本です。ただ、最初から読破しようとすると挫折する方もいらっしゃるかもしれませんので、必要なところ、気の向いたところから読むことをお勧めします。
読みやすい日本語にするのに結構苦労しました。読める日本語になっていると思いますが、わかりにくいところは是非ご指摘ください。ご評価お待ちしています。
以下、「監訳を終えて」の一部。
.......。呼吸生理の入門編にはWestのRespiratory Physiologyという定番が存在しますが、循環生理にはそのような入門編の定番が存在せず、十年以上前からずっと探していました。石黒先生から「この本を翻訳したいのですが...」と本書の原著をご紹介いただいたときの第一印象は、まさしくこの本こそが長い間探していた循環生理入門編の定番ではないか、というものでした。丁寧な解説の中に理解を促す症例・練習問題や復習問題が散りばめられた本書の監訳を終え、原著者である Klabunde先生の溢れる誠意を感じ、原著がきわめて高い評価を受けているのも当然のことと思いました。ここまでおつきあい下さった読者も、リズム良く解き明かされる“なぜそうなるか”の連続に、“読んでいて楽しい”と感じたのではないでしょうか。.......
実はまだ現物を見てないのですが、濃そうですよね。
心臓関連は、不整脈といい、心不全といい、いつも売れ行きがよいので、今回も行くでしょう。
香坂先生、伊藤先生、内野先生ご苦労さまでした。
<特集・急性冠症候群(NSTE-ACS)>
循環器第三弾として「急性冠動脈症候群(NSTE-ACS)」を取り上げます。心筋虚血の急性期をめぐる現在の世界観は10年前とは随分異なっています。病棟や救急外来で遭遇する典型的な虚血性心疾患患者はACS,そのなかでも非ST上昇型急性心筋梗塞や不安定狭心症が増えています。これは虚血性心疾患の病態の理解が深まり,診断に必要なバイオマーカーや画像診断の技術が進歩したことによるかと思われます。こうしたACSの理解の拡大に伴い,そのマネジメントは循環器専門医だけでなく,一般内科医や集中治療医がかかわることが多くなってきました。そこで,本特集では,ACS症例の診療の際に,循環器内科医とのディスカッションをスムーズに行うための基礎知識の解説を目的としています。
1. NETE-ACS特集を組むにあたって:STが上昇したACSが特別扱いを受けるのはなぜか?
香坂 俊 慶應義塾大学 循環器内科
“A” is for Acute
2. 非ST上昇型急性冠症候群の初期マネジメント:ステップ ワン・ツー・スリー
伊藤 大樹 あおばクリニック
3. 心電図でどこまでACSを読むか?
小菅 雅美 横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センター
【コラム】バイオマーカーがすべてを変えた:トロポニンは有用だが,問診と心電図診断もおろそかにしてはならない
永井 利幸 国立循環器病研究センター 心臓血管内科部門 冠疾患科 心臓血管系集中治療科
4. ACSにおける血流画像検査の役割:心筋血流イメージングで心筋梗塞の急性期診断のみならず,慢性期のリスク層別化も
松本 直也 駿河台日本大学病院 循環器科
【コラム】心臓MDCTはERでの胸痛患者に対して有用か
伊藤 大樹
【コラム】ACS急性期の心エコー図の役割:その特徴と限界を理解し,非侵襲性という強みを最大限に利用する
武井 康悦 東京医科大学病院 循環器内科
【コラム】MRIで深まったACSの理解:各撮像法の特徴を理解し,適切に組み合わせて検査を行う
奥田 茂男 慶應義塾大学医学部 放射線科学教室
“C” is for Coronary
5. ACSの薬物療法1:抗血小板療法と抗凝固療法
伊藤 大樹
【コラム】本邦未承認の抗血小板薬と抗凝固薬:多種多様な選択肢を有する米国での使用法
小船井 光太郎 東京ベイ・浦安市川医療センター 循環器科
6. ACSの薬物療法2:MONA,β遮断薬,ACE阻害薬/ARB,スタチンによる補助療法
上月 周 大阪府済生会中津病院 循環器内科
平岡 栄治 東京ベイ・浦安市川医療センター 総合内科
7. NSTE-ACSの心カテーテルによる冠動脈造影検査とインターベンション:重症NETE-ACS患者における有用性を考える
酒井 孝裕 小倉記念病院 循環器内科
8. ACSの心カテーテル治療(PCI):テクニカルな話題と手術適応
青木 二郎 三井記念病院 循環器内科
【コラム】ACSの手術適応:外科医の立場から:PCI,CABG,OPCABの評価とその比較
西川 幸作・田端 実 榊原記念病院 心臓血管外科
【コラム】IABP/PCPSの使い方:あくまで“補助装置”であることを念頭に,適応となる症例を的確に判断する
田中 寿一 東京慈恵会医科大学 循環器内科
香坂 俊
“C” is for Complication
【コラム】ACSの急性期合併症1:腎保護の見地から,そして腎症が起こってしまったときの対応
猪原 拓 慶應義塾大学 循環器内科
小松 康宏 聖路加国際病院 腎臓内科
【コラム】ACSの急性期合併症2:出血合併症:出血したときの抗血小板薬や抗凝固薬は?
大野 博司 洛和会音羽病院 ICU/CCU
【コラム】ACSの急性期合併症3:ショック
阿古 潤哉 自治医科大学附属さいたま医療センター 循環器科
村木 浩司 埼玉社会保険病院 循環器内科
【コラム】ACSの急性期合併症4:不整脈
足利 洋志 Cardiac Arrhythmia Service,Division of Cardiology, Johns Hopkins University School of Medicine
“S” is for Syndrome
9. ACS という概念がもたらしたもの
安斉 俊久 国立循環器病研究センター 心臓血管内科
【コラム】ACSの病理学:不安定プラークを基質とする血栓形成メカニズム
水野 篤・西原 崇創 聖路加国際病院 心血管センター 循環器内科
10. ACS with normal coronary:単一の病態ではなく,さまざまな機序によって起こり得る
澤村 匡史 東京ベイ・浦安市川医療センター 集中治療科
11. 包括的心臓リハビリテーション:ACSからの回復をどうサポートするか?
長山 雅俊 榊原記念病院 循環器内科
12. ACSの長期予後を視野に入れた薬物・生活のマネジメント:科学的根拠と最新の知見
島田 悠一 Division of Cardiovascular Medicine, Brigham and Women’s Hospital, Harvard Medical School
香坂 俊
13. 「特集 急性冠症候群」解説:ACSはカテ室から集中治療の現場へ
香坂 俊
【連載】
■Lefor’s Corner
第6回:Ventilator Management:Part II. Ventilator Modes and Settings
Alan T. Lefor Department of Surgery, Jichi Medical University
■ICUフェローからのメッセージ
第18 回:米国の医学シミュレーションセンターの取り組み
鹿瀬 陽一 東京慈恵会医科大学 麻酔科 集中治療部
■呼吸器離脱座談会:
こんなときどうする“もし◯◯患者の人工呼吸器離脱を考えたら”2例目
古川 力丸 日本大学医学部 救急医学系 救急集中治療医学分野
内野 滋彦 東京慈恵会医科大学 麻酔科 集中治療部
大庭 祐二 University of Missouri 呼吸集中治療内科
讃井 將満 東京慈恵会医科大学 麻酔科 集中治療部
■集中治療に関する最新厳選20論文
柳井 真知 聖マリアンナ医科大学 救急医学
藤谷 茂樹 東京ベイ・浦安市川医療センター/聖マリアンナ医科大学 救急医学
■JSEPTIC簡単アンケート
第7回:補液,鎮静,人工呼吸器の設定と離脱
内野 滋彦
朝7時のレジデントインターアクティブ講義をしている最中に、何かの拍子で周術期にしばしば予防的に用いる冠血管拡張薬の静脈内持続投与の話になりました。そこで、本邦の冠動脈疾患急性期や周術期冠動脈イベントリスク患者に対し、ときに“免罪符”的に予防的に投与されるニトログリセリンやニコランジルに [注1] 、その使用をサポートする強い根拠はないのではないか、という主旨の話をしたいと思います。
<ニコランジルについて>
ニコランジルに関しては二編の大きなRCTが有名ですが、いずれも周術期の心筋虚血予防効果についての研究ではありません。また、対象、エンドポイントともヘテロジニアスです。
ちなみにその一つは、IONA トライアル [文献1]。 5126人の慢性期安定狭心症患者に対して標準的治療に加えてニコランジルの経口投与を行うとプラセボに比べ、冠動脈死亡、非致死的な心筋梗塞、胸痛による入院などのコンポジットアウトカムの発生を減らし( 13.1% vs 15.5%; HR 0.83, 95% CI 0.72-0.97, p=0·014)、ACSの発生率を減らし( 6·1% vs 7·6%; HR 0·79, CI 0·64–0·9, p=0·028)、総心血管イベント率を減らしました(14·7% vs. 17·0%; HR 0·86, CI 0·75–0·98, p=0·027)。
もう一つは、本邦の国立循環器病センターから提出されたJ-WIND-KATP で [文献2]、プラセボに比べて急性心筋梗塞後の梗塞サイズ、慢性期EFを減らさなかったというネガティブスタディです。
いずれにしても“周術期におけるニコランジルの予防投与は有効か”というクリニカルクエスチョンに解答を出すための材料にはなりません。
周術期のニコランジルに関しては、CABG関連でニコランジルの静脈内投与による術後の心筋逸脱酵素の改善などの生理学的アウトカムを改善する小さいRCTは見つかりますが[文献3] 、心血管イベントなどの臨床的に重要なアウトカムの改善を示すものは見つかりませんでした。
非心臓手術患者では、術中ニコランジルを投与した前向きコホート研究 [文献4] が見つかりましたが、術中のみのニコランジル投与でなぜ術後のイベントが減るのか(イベントのリスクが高いのはむしろ術後24~48時間)、他の周術期血行動態管理はどうなっていたのか?、他の薬剤などの因子の関与は?、などの疑問が浮かびました。
これら以外「ニコランジル vs 周術期心筋虚血」のトピックで、Journal of AnesthesiaやMasuiなどで発表されている症例報告以外でPubMedで引っかかる臨床研究は皆無と言ってよいと思います。
<ニトログリセリンについて>
一方、ニトログリセリンにも周術期心筋虚血予防効果はないと考えてよいでしょう。泣く子も黙るかどうかはわかりませんが、世界のエキスパートの総意として尊重すべき、ACCF/AHA非心臓手術のための周術期評価およびケアのガイドライン2009 [文献5] には、予防的投与はClass IIb(考慮してもよい)エビデンスレベルC(エキスパートオピニオンレベル)で、
「術中の予防的ニトログリセリンの効果は不明確で、用いるとしても、心臓前負荷を下げ(反射性に頻脈などを誘発し)かえって有害な可能性があるので、麻酔、血管内容量の状態による低血圧に十分配慮する必要がある」
“The usefulness of intraoperative nitroglycerin as a prophylactic agent to prevent myocardial ischemia and cardiac morbidity is unclear for high-risk patients undergoing noncardiac surgery, particularly those who have required nitrate therapy to control angina. The recommendation for prophylactic use of nitroglycerin must take into account the anesthetic plan and patient hemodynamics and must recognize that vasodilation and hypovolemia can readily occur during anesthesia and surgery.”
とされています。
ただし、心筋虚血発作、すなわち狭心症発作におけるニトログリセリンの抗狭心症作用は失われているわけではありません(AHAのERにおける不安定狭心症およびNSTEMIのガイドライン2005) [文献6]、心不全における静脈拡張薬 [文献7]、冠動脈疾患患者で降圧薬を使用したい場合の選択肢 [文献7] としての役割は失われたわけではないでしょう。
薬理的にニトログリセリンは耐性が生じやすい薬剤で、「ニトログリセリン軟膏も効果を取り戻すためには“少なくとも一日に8時間は休薬すべき”である」と、臨床薬理学の古典“グッドマン・ギルマン”に記載されています [文献8]。臨床的にも持続投与中にだんだん効かなくなる(血圧や肺動脈圧が下がらなくなる)ことを経験します。そもそも持続投与(やテープ)という投与法に向かない(か時間を決めて中断して用いる)薬剤なのかもしれません。
もう一つ、トリビア的に知っておいてよい事実は、ニトログリセリンの抗狭心症作用は冠血管拡張作用によるものではなく、左室前負荷および後負荷軽減による心仕事量の軽減、心筋酸素消費量の低下によるということです [注2]。実際、「心臓カテーテル検査室で生じた狭心症発作に、冠動脈に直接ニトログリセリンを投与しても症状は軽快しなかったが、舌下投与したら軽快したという報告さえ存在する」と、前述の “グッドマン・ギルマン”に記載されています [文献8]。臨床的に静脈内投与で使用する量で、冠動脈を開く効果を得るのは難しいであろうと言うことも想像に難くないでしょう。
ちなみに筆者が米国で麻酔科医、集中治療医として研修した6年間で、ニトログリセリンを含む硝酸薬、ジルチアゼム、ニコランジルなどの冠動脈拡張薬を周術期に予防的に静脈内持続投与(テープや軟膏も含む)した経験は、OPCABGでジルチアゼムを使用した一回だけでした(ニコランジルは米国未発売なので使用した経験がないのは当たり前ですね)。なぜ投与しないのか指導医に聞いたら、「もともと飲んでいる人は朝飲ませればいいじゃないか」、「有効であるというエビデンスがない」、「s◯◯p◯d」などと反論され、それよりずっと重要なのは、心筋の酸素供給を保ち、酸素需要を抑える血圧、心拍数、血管内容量の管理だよ、と叩き込まれました(当時は周術期高リスク患者におけるβ遮断薬の適応、使用法が今ほど厳格に定められていなかったので [文献5]、“術当日朝からのβ遮断薬の内服”なども行われていたのも事実ですけれどもねー)。
以下、脱線的結論。
・ルーチンでやっているから、
・先輩に言われたから、
・コンサルタントの指示だから、
・やらないと不安だから、
・やっておかないと誰かに何か言われたときに言い訳が立たないから、
など「自分の不安症候群」を治療するのではなく、本当に患者のためになる有効な治療法なのか、という疑問を常に自分に発してみることが重要です。率直に、全国で行われているはずの“予防的な周術期冠血管拡張薬の使用”を止めるだけでいくら医療費が浮くんだろう、と思います。その一方で医療者は、自分に対する直接の影響がなく、患者に良いことをしているという“自分のココロのなぐさめ”になるなら「四の五の言わずに使っておけばいいじゃん」と思う人はなかなか減らないであろうという懸念は消えません。
<注です>
注1:以下、昔書いた文章(LiSA 2008; 15:606-610)の“冠動脈バイパス術周術期における冠血管拡張薬の役割”の引用改変になりますが、以下。
本邦では、冠動脈バイパス術や心血管リスクをもつ非心臓手術におけるニトログリセリン、ジルチアゼム、ニコランジルなどの周術期持続投与が、あたかも虚血に対する“免罪符”のように一人歩きをしている。冠動脈疾患の既往歴のある患者の胃切除術中に硝酸薬の予防投与を行い、血管内容量が低下して血圧85/42mmHg、心拍数102/分になった場合でも「冠動脈発作予防のために中止すべきでない(あるいはテープの場合ならはがすな)」と考える人も多いのではないか。“冠動脈を開くから”、“使っておけば安心”という無思慮な使用になっていないだろうか。ニトログリセリンがなぜ狭心症発作を解除するかを知っていれば少しはこのような使用法が減るのではないだろうか(上記)。
筆者が危惧するのは、若い麻酔科医や将来外科医や内科医になる麻酔ローテーターが、冠動脈疾患患者の周術期には、このような免罪符さえ投与しておけば安心と、勘違いすることである。一番重要なのは、冠動脈疾患患者の循環管理の基本、すなわち心筋の酸素需給バランスの理解にもとづいた管理を教えることではないか。
注2:麻酔科専門医レベルで知っておくべき“ニトログリセリンのトリビア”は、「ニトログリセリンがどのレベルの冠動脈を開くか」ですよね。わかりやすい解説は以下。
1. 冠動脈病変を含む虚血領域の末梢の“細い”心内膜下の冠動脈は、自己調節能により冠血流を増やそうとして最大限に拡張している
2. ジピリダモールやイソフルレンは、自己調節能を無効にして正常、異常領域に関わらず“細い”冠動脈を一様に拡張させるので、相対的に正常部領域の血流が増え、虚血領域の血流が減る(冠動脈盗血現象: コロナリー・スティール)
3. 一方、ニトログリセリンは心外膜側の比較的太い冠動脈を拡張し、自己調節能を温存するので コロナリー・スティール は起こさないので、虚血性心疾患患者に有利である
<文献>
文献1:PMID: 11965271
文献2:PMID: 17964349
文献3:PMID 18662629、PMID: 15454860など
文献4:PMID: 17321926
文献5:PMID: 19884473
文献6:PMID: 15911720
文献7:PMID: 20937981
文献8:Michel T. Treatment of myocardial ischemia. In: Brunton LL, Lazo JS, Parker KL. Goodman and Gilman’s the pharmacological basis of therapeutics. 11th ed. New York: McGraw-Hill, 2005