Dr. 讃井の集中治療のススメ

集中治療+αの話題をつれづれに

スティーブ・ジョブス復活

2009-09-22 16:45:10 | 集中治療
Apple社のCEOであるスティーブ・ジョブスがとうとう表舞台にかえってきました。Apple Special Event September 2009で多少やせてはいますが昨年までと同様に素晴らしいプレゼンテーションをおこなっています。

http://events.apple.com.edgesuite.net/0909oijasdv/event/index.html?internal=ijalrmacu。そんなに熱狂的ではないがAppleファンの私としては「カリスマ復帰」を単純に喜んでしまいます。新聞記事http://online.wsj.com/article/SB124546193182433491.htmlによれば膵原発のislet cell neuroendocrine tumorの肝転移のために今年の3月に肝移植を受けたそうです。肝移植を受けたことは本年6月の段階で判明していたらしく、そもそもこの進行の遅い疾患に肝移植の適応があるのか、お金持ちなので最もwaiting listが短いTennesseeを含めていくつものwaiting listに登録したとか、いろいろ批判が出ていたようです(“steve jobs liver transplant”でgoogleしてみてください。山のように記事が出てきます)。

それにしても相変わらずカリスマ性があるというか、彼が立っているだけで魅かれるものがあります。プレゼンテーションの間がうまいというかテンポがよいのです。米国にはプレゼンテーションがうまいひとはゴロゴロしていますが、スティーブ・ジョブスのそれは別に派手でも目新しいものもなく、しゃべる内容が違えば大学教授のようにも見えます。極めつけはスタンフォード大学の卒業式に呼ばれて卒業生に向けてしゃべったものだそうです。これはしゃべり方自体より(原稿を読んでいます)、内容がすばらしいですよね(日本語字幕つきhttp://www.youtube.com/watch?v=qQDBaTIjY3s)。

振り返って自分のプレゼンテーションはどうか。医者になりたての頃は、とりあえず「発表したという事実が大切である」、「自分さえわかっていれば良い」、「わからないのは聴いている方が悪い」という不遜な気持ちがあったような気もします。しかし先輩たちが苦もなくわかりやすく発表している姿をみて、原稿棒読みか、つっかえつっかえの自分の発表があまりに情けなくて、何とかせねばと考え直しました。

発表をうまくなるためにはとりあえず場数だろう、まず公の場で話すのに慣れないと始まらない、と考えて学会発表を良い練習の場に利用しました。一年間で日英あわせてのべ10回以上学会発表した覚えがあります。医者になって確か4年目ぐらいだった思います。誰でもそれだけやれば多少はスムーズになります。
次に自分に足りないものを考えました。工夫です。「何かのメッセージを伝えたい」「聴いている人の役に立つ、楽しんでもらう」姿勢で臨む、そうすると、スライド作りや発表に工夫が少しずつ出てきます。自分には芸術的センスやユーモアのセンスがないので苦労しました。以前このブログでも紹介しましたが、諏訪邦夫先生の「医科学者のための知的活動の技法」(MEDSI)という本も参考になりましたhttp://blog.goo.ne.jp/jseptic/e/4936aa2e857ad13db24cbf2f8faeed19。

しかし、発表にもスライドにも個性が出ます。スライドも語りくちも非常にモノトーンなのだがなんだかメッセージが強く伝わるO先生やU先生のプレゼンテーションを見ると、日本にもうまい方はたくさんいらっしゃるな、と感心し、工夫も大事だけど、やっぱり内容とメッセージの質なんだ、と思い直したりして、奥が深過ぎて大変です。

もう一つ公の場で話すのに慣れる練習法として、学会で質問する、というものがあります。一時期、学会の参加する一つのセッションで必ず一つ以上の質問を自分の義務にしていました。質問の仕方にもコツがあり、まったく本論とずれる質問、聞いてはいけない質問(わざと挑発的にやるときがありますが)、知性を疑われるような質問(これもときにわざとやります)、質問の意図がわからない質問、なども、しなくなります。

現在は、毎日のICUでのプレゼンテーションやカンファレンスでの発表が、昔に比べると圧倒的に多くて、学会以前に内輪で普段から練習できるからいいですよね(ウチの病院だけ?)。だんだん人に教えることが多くなり、自分自身もホント“まだまだ”で、練習は毎日続きます。

いずれにしても最初からできる人はいないので、恥や失敗を恐れてはいけません。「恥を恐れない男性は女性にモテるらしい」と最近どっかで聞きました。「恥を恐れない女性は男性にモテる」かどうかはcontroversialですか? 個人的には「モテる」と思うんですが。