Dr. 讃井の集中治療のススメ

集中治療+αの話題をつれづれに

学会はどう変わる?

2020-09-28 09:11:34 | 集中治療

ヒューモニー 別連載 第18回 コロナ下で開催された集中治療医学会

今までの学術集会の果たしてきた役割(学ぶ、情報共有、仲間との触れ合い、息抜き、など)、アフターコロナ時代の学術集会のあり方(ウェブ参加のメリットとデメリット)を考える良いきっかけになりました。

JB press https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62196

Yahooニュース https://news.yahoo.co.jp/articles/bff78519f20e830749a8ee6e054e9863c17a8109

図らずもコロナ禍により、学会という組織の強み、弱みを思い知ることになったわけですが(これについては、いずれアップしたいと思います)、今後、社会の中でどのような役割を果たすべきか、考えるヒントを得ることもできました。


コロナの「重症患者」、実は定義がバラバラだった

2020-09-12 14:55:06 | 集中治療
ヒューモニー 特別連載 第16回 "重症”新型コロナウイルス感染症患者とは何か?
 

厚労省 vs. 東京都の"重症”定義論争から、診療報酬制度、病院経営、国民医療費の問題があぶり出されてきました。

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/62037

https://humonyinter.com/column/med/med-16/

 

病院のハードウェアの余裕、ポリシー、マンパワー、通常診療への影響などにより、重症新型コロナ感染症患者さんが、通常ICUでなく、一般病棟に作られた専用病棟に入室するケースがあります。逆に、診療報酬の要件(診断名行われる処置)が満たされれば、人工呼吸やECMO(人工心肺)治療を受けなくてもICUに入室可能です(注1)。すなわち、“重症患者” と “ICU患者” が完全に一致するわけではないのです

 

 

 

加えて、通常診療を縮小しながら新型コロナ感染症を受け入れてきた病院の経営は苦しく、診療報酬空床補償などを最大限取得しようとするインセンティブが働きます。また、算定できる診療報酬加算は、新型コロナ感染症の場合、通常の3倍で期間も長くなります診療報酬加算は「行われる処置の密度」ベースで算定する仕組みなので、診療はどうしても密な方向へと向かいます(注2)。

 

 

 

重症患者専用ベッドの使用率を把握したいのであれば「ICUに入室する患者」という定義でよいが、重症患者の発生状況を把握したいのであれば「気管挿管して人工呼吸器を使用する」レベル以上を “重症”と定義するほうが正確でしょう。新型コロナウイルス感染症患者の重症度は、酸素療法、人工呼吸、ECMOという介入の必要度と一致しており、上記のような医療者の動機が作用しにくいのが、"人工呼吸"という介入だからです(注3)。

発生する医療費は、最終的には我々国民1人1人が負担する限られた財源から支出されています。医師は、日々、病院経営を守る立場と、医療費を負担する1人の国民という立場のジレンマに悩まされながら、治療を選択しています。少なくとも、私自身は、「選択に迷った時には、医療的、社会的に正しい診療を行う」ことを心がけていますし、若い人にはそのように教えています。

 

注1:例えば、新型コロナウイルス感染症の場合、診断名が「イ 急性呼吸不全」に該当し、”重症度・医療・看護必要度評価票”に則ってA項目(モニタリング及び処置など)4つ以上、B項目(患者の状況)3つ以上満たせば、加算が算定可能になります。またその額は、新型コロナウイルス感染症の場合、通常の3倍で期間も長くなります(重症集中治療管理加算額:通常 1日約14万円 x 14日間 → 新型コロナウイルス感染症でECMOが必要 約42万円 x 35日間 [1点10円])。

注2:例えば、A項目としてモニタリング(心電図モニター)や処置(動脈圧測定)を行うか否か判断に迷う場合、”行う”という判断になりやすい。

注3:酸素療法を行う患者の重症度はさまさまで、重症度に応じて各種の酸素療法があり、医療従事者間で使い方にも差が出やすいし、ECMOの適応にも差が出やすいのです。実際、日本のECMO患者の成績が良い理由の一つとして、海外に比べて重症度が低い段階で適応できるという点が指摘されています。唯一、「人工呼吸器が必要」という判断には、医療従事者間で差が出にくいのです。


加藤友朗コロンビア大学医学部外科学教授 「ニューヨークで行われているPCR検査の意味」

2020-09-04 16:43:11 | 集中治療

ヒューモニー 特別連載 第15回 特別対談 加藤友朗コロンビア大学医学部外科学教授 「ニューヨークで行われているPCR検査の意味」

https://humonyinter.com/column/med/med-15/

古くからの友人、恩人である加藤友朗先生との対談パート2。

PCR検査の使い方、その目的を明確にしよう、という話。

「景気の気は気持ちの気」。経済活動に”安心感”は極めて大切な要素だと思います。安心感、すなわち不安がないことは、医療現場で陽性患者さんや疑い患者さんを診療する医療従事者にとっても、そして患者さん自身にとっても重要な要素です。

もちろん、これからも社会の標準予防策、すなわち三密回避、マスク、手指消毒を続けていかなければなりませんが、PCR検査を疫学的な目的で広く行い感染率を把握し、ある地域の陽性率が一定以下に低下していることがわかれば(基準を決める必要があります)、活動再開許可の基準としてわかりやすい。

「食べに、飲みに、見に、旅行に出かけてみよう」という人を、今よりも安心して増やせるのではないでしょうか。また自分が陰性だとわかれば、自分の周囲も安心して活動に参加できるでしょう。

現在用いられている、例えば新規感染者数や実行再生産数はどうしてもわかりにくいし、安心感が得られにくい。なぜなら、検査数がまだ不十分だとみんな知っているからです。

もちろん不安を完全にゼロにはできませんが、経済活動拡大にはやはり「気持ちの気」が大事。

ただ、医療現場でもまだ検査アクセスが完全ではない、という声を聞く状況では、戦略的に拡大していく必要があると思います。そんなことはお前に言われなくても考えて、実行している、という声が聞こえてきそうですが。。。