Dr. 讃井の集中治療のススメ

集中治療+αの話題をつれづれに

集中治療において意識すべき5つのこと #4

2014-03-31 10:00:21 | 集中治療

本日は、「集中治療において意識すべき5つのこと」のつづき、「4.疑問を大切にする」です。

 疑問は大切です。そのままにしないことをお勧めします。なぜそうなったのか考え、(信頼できる文献を)調べ、(信頼できる人物に)聞く。そうすることで自分の臨床力がアップします。

 なぜ尿が出ないのだろう、脈が速いのだろう、血圧が下がったのだろう、酸素飽和度が低いのだろう。すぐには答えが見つからなかったり、原因を一つに絞れないこともしばしばあります。また、一つ原因が見つかってもその上流にさらに根本原因がある場合もあります。この思考過程を放棄して、対症療法に終始すると、いつまでたっても根本原因に目を向けることができず、結果として根本治療の開始が一歩も二歩も遅れ、患者さんに害が及ぶことになります。

 たしかに尿が出なくなれば容量負荷、あるいは利尿剤、脈が速ければベータ遮断薬、血圧が下がればノルアドレナリン、酸素飽和度が低ければ酸素投与、これらの対症療法で表面的に安定させることは治療の第一ステップとして重要です。しかし、対症療法は本質を見抜いて根本治療にたどり着こうというモチベーションを鈍らせる効果を持っています。つまり患者さんが安定したように見えると私たちも安心してしまい、そこから“なぜ〇〇が起こったか”という原因追求の、鑑別診断の、面倒な思考過程を放棄してしまいがちになるからです。

 ICUで研修すると、対症療法がすぐにうまくなります。しかし、それはICU研修のごく一部です。もっと重要なのは今述べた原因追求の思考過程で苦しむことだと思います。明確な答えが出ないことも多いのですが、結果として、除外しておかなければならない重大な問題が除外できたり、その思考過程を繰り返すことで真の臨床力がついてくると思います。

 さらに考えると、いつもの思考パターンの箱から抜け出して、箱の外に出て考えられるか、異なる角度から問題を眺めることができるかも臨床的実力を示すバロメーターと思います。そこにすでにある材料を見て判断することで満足してしまうルーチーンの罠は恐ろしい。その結果、しばしば追加すべき特殊検査を思いつかない状況が生じます。だから、毎日血球分画、アルブミンを含む血液生化学検査、CRP、胸部X線写真などの何十項目におよぶ検査をルーチーンに行い、見落としを防ぐ意義があるんだ、とおっしゃる方もいらっしゃいますが、そのような過大なルーチーン化も過小なルーチーン化とともに思考することを放棄させる力を持っています。

 プロフェッショナルな集中治療スタッフ(ドクター、ナース、CE、理学療法士、薬剤師他)になる道は険しいのです。


集中治療において意識すべき5つのこと #3

2014-03-24 21:54:26 | 集中治療

「集中治療において意識すべき5つのこと」のつづきです。5つとは

1.三つの軸を意識する

2.数値、見た目を正常にすることがゴールではない

3.最終的なゴールは何かを意識する

4.疑問を大切にする

5.よく観察する人の意見は常に正しい

でした。本日は2番目の「数値、見た目を正常にすることがゴールではない」につづく、

3. 最終的なゴールは何かを意識する

です。

数値や見た目を正常にすることを最終的なゴールとすべきでないことは学びました。では究極のゴールは何でしょうか。ICU診療の究極のゴールは、できるだけ早く患者さんが元の生活を送れるようになること(=社会復帰してもらうこと)だと思います。このゴールを意識することは実は重要で、迷ったときに、自分が何をすべきか、何をすべきでないかヒントを与えてくれます。

 例えば、鎮静スケールを用いてできるだけ浅く管理し(RASSで0~-2に維持し)、患者さんに状況の正しい認識を持ってもらい、早期から各種のリハビリを行うと、人工呼吸器時間が短くなるばかりか、精神的、肉体的長期予後まで良くなる可能性があることが示され、近年ではこのような鎮静法が主流になりました。しかし、これは医療スタッフにとって、仕事量が増えるし、ライン抜去の危険も増えるし、ストレスの多い方法ですよね。深い鎮静でベッドにずっと臥床していれば、患者さんはその場では楽そうに見えるかもしれませんが、1年後の患者さんにとっては大きな苦痛になっているかもしれません。呼吸、循環が落ち着きリハビリが可能な状況になったら、心を鬼にして鎮静を減らし、ときに患者さんが苦しそうに見えても叱咤激励してリハビリを行うのが、本当に患者さんを思う、ということなのかもしれませんね。

そのような自分たちにとってもつらい選択をするには、究極のゴールは何かということを明確に意識する必要があるのです。



集中治療において意識すべき5つのこと #2

2014-03-15 20:25:28 | 集中治療

集中治療において意識すべき5つのこと」のつづきです。5つとは

1.三つの軸を意識する

2.数値、見た目を正常にすることがゴールではない

3.最終的なゴールは何かを意識する

4.疑問を大切にする

5.よく観察する人の意見は常に正しい

でした。本日は、「1.三つの軸を意識する」につづく2番目の

2. 数値、見た目を正常にすることがゴールではない

です。いくつか例を考えてみましょう。

症例1 自発呼吸トライアル中でTピースの患者さん。「先生、PaCO2が45 mmHgから55 mmHgに上昇しました。どうしましょう。人工呼吸器に戻しますか」という質問を受けることがあります。しかし、pHは7.45、BE+8で、患者さんの意識レベルは変わらず、呼吸数18 回/分、楽そうに呼吸しています。FiO235%でSpO2は97%、脈拍数、血圧にも変化はありません。

症例2 ICUに14日間滞在中の脳梗塞、遷延性意識障害の患者さん。手足の浮腫がひどい。「手足の浮腫がひどいので、利尿薬ですっきりしてもらいますか」と指示するドクターがいました。ちなみに、ついさきほど体位変換で血圧低下が見られました。

 症例1ではPaCO2という数値が異常になり、どうすべきか判断しなければならない場面です。考え方は

(1) なぜその異常が起こったか

(2) その異常は患者さんにどのような影響を与えているか

(3) 治療することによって患者さんが得をするか(良いことはあるか)

(4) 治療することによって患者さんが損をしないか(悪いことはないか)

を考える必要があります。

 症例1に関してこの4つを考えてみましょう。

(1) なぜ起こったか:pHは7.45、BE+8という代謝性アルカローシスを代償してPaCO2が上昇しつつあるようです。CO2が溜まるべくして溜まる状態ですね。

(2) どのような影響を与えるか:PaCO2の上昇はどのような生理学的な変化を起こすでしょうか。呼吸回数、頻脈、高血圧、肺動脈圧上昇などの交感神経刺激症状が出現するかもしれません。このような負荷に心臓が耐えられない場合には問題となります。さらに、ICUスタッフとしてPaCO2上昇による脳血管の拡張作用も知っておかなければなりません。頭蓋内圧亢進患者さんでPaCO2の上昇を避ける理由です。

(3) 治療によって得をするか:換気量を増やして上昇したPaCO2を正常化させると何か良いことはあるでしょうか。この患者さんは頭蓋内圧も正常ですし、頻脈、高血圧で心臓がへばってしまうこともないようです。明らかな得はなさそうですね。

(4) 治療によって損をしないか:逆にこの患者さんの換気量を増やすとさらにアルカローシスが進んで、ヘモグロビンの酸素親和性が増加し(ヘモグロビン酸素解離曲線の左方移動)、抹消で酸素を離しにくくなり、酸素運搬上不利になるかもしれません。

 まとめると、ある数値が異常だからといっていつでもその正常化を目指すのではなく、数値を正常化することに意味があるのか、弊害はないのか考えて介入を行う必要があるということです。

 手足の浮腫の患者さんでも同様です。手足の浮腫によって患者さんが直接死ぬことはありませんが、逆に不適切な利尿薬の使用で患者さんの腎機能が悪化するかもしれませんね。見た目をよくすること自体を目標にすべき場面は多くありません(例外はすでに回復の見込みがなくなった終末期。このときは見た目を意識する必要があると個人的に思います)。

 


最新文献厳選41のレジュメが学会HPからダウンロードできます

2014-03-08 10:40:15 | 集中治療

日本集中治療医学会第41回学術集会お疲れさまでした。大盛況でしたね。

氏家 良人 会長のご厚意により、ワークショップ集中治療最新文献厳選41のレジュメ(PDF)が学術集会HPからダウンロードできるようになりました。1年間のこの分野の最重要文献の復習リストとしてご利用ください。

http://www2.convention.co.jp/41icm/index.html

左側の一番下のタブ「ワークショップ集中治療最新文献厳選41当日配布資料」をクリックください。あるいは、

http://www2.convention.co.jp/41icm/images/pdf/journal41.pdf

からDLできます。

レジュメ作成(ならびに演者)をご担当していただいた

大阪大学医学部附属病院 集中治療部 滝本 浩平 先生
東京ベイ・浦安市川医療センター 呼吸集中治療科 則末 泰博 先生
University Health Network & Mount Sinai Hospital, Interdepartment Division of Critical Care Medicine, University of Tronto 塩塚 潤二 先生
東京慈恵会医科大学葛飾医療センター 麻酔科・集中治療部 岩井 健一 先生
徳島大学病院 救急集中治療部 板垣 大雅 先生
Mahidol-Oxford Tropical Medicine Research Unit, Faculty of Tropical Medicine, Mahidol University 石岡 春彦 先生
京都府立医科大学附属病院 集中治療部 橋本 壮志 先生
自治医科大学とちぎ子ども医療センター 小児集中治療部 多賀 直行 先生
日本医科大学千葉北総病院 救命救急センター 斎藤 伸行 先生

この場を借りてあらためて御礼申し上げます。みなさま素晴らしい発表でした(年々進化していますね)。