知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

礼金・更新料判決

2011-03-13 17:06:52 | 不動産法

当職がもらった礼金判決の礼金部分の判断は以下のとおり。

「礼金支払条項は、契約締結に対する謝礼金を原告に贈与することを義務づけるもので、被告は礼金の支払いによって何らの対価も取得しないことが認められるから、かかる金員の贈与を契約締結の条件とする旨の礼金支払条項は、本件賃貸借契約の成立において、民法による場合に比べて被告の義務を一方的に加重するものと認めるのが相当」。

これは、礼金一般に妥当する論旨です。

「礼金支払条項は、本件賃貸借の締結にあたって賃貸人たる原告から金額を定めて提示された条件であると認められるところ、被告は、同条項に合意しなければ本件建物を賃借することを断念せざるを得ず、あるいは、契約締結後の関係悪化を慮ってその免除ないし減額の交渉を強硬に主張し難い立場にあるといえるから、原告と被告との間には交渉力の格差が存したものというべきであり、前記礼金支払条項は、信義則に照らして被告の利益を一方的に害するものというべきである」。

この部分は、「交渉力の格差」のみを根拠にして、信義則違反を認定したことに意義があります。つまり、被告は弁護士なので、法的知識は十分で有り、「情報の格差」は存在しなかったのですが、判決はこの点を重視しませんでした。

これに対して、更新料支払条項については、「賃貸人による更新拒絶権の放棄や契約期間中の賃借人の安定という利益の対価にあたるものであるから、賃借人たる被告の義務のみを一方的に加重したものとは認められず、それが新賃料の1ヶ月分にとどまることに照らせば暴利にあたるとは認められず、同条項は無効とは認められないというべきである」と判断しています。

この点は、賃貸人による更新拒絶権については、信頼関係破壊の法理によりそれが認められることが殆どないことに照らせば、「利益の対価」にあたるとはいえないと解されます。本判決は、更新料の金額が新賃料の1ヶ月分であることを重視したものと思われます。

なお、本判決は、更新料支払条項は有効としつつも、被告が法定更新を選択したことを理由として更新料支払義務を否定していますが、妥当な判断といえます。

もっとも、同時に、更新料不払いを理由として賃料増額請求が認められる可能性を示唆していますが、更新料の不払いが賃料の増額要因になるとしても更新料の金額が1ヶ月分の金額である以上微々たる金額ですし、他方、更新料の金額が、その不払いが賃料を大きく増額させるようなものであれば、むしろ、更新料支払条項自体が無効と判断されるでしょうから、賃借人の賃料増額リスクは小さいと思われます。さらに、仮に、更新料の不払いが賃料増額の要因となるとすれば、仲介業には、その点を説明する義務が生じるように想われます。この点は今後の検討課題です。

今後は、東京においては、礼金なしの物件が増えていくと想われます。さらに、不毛な争いを防ぐためにも、更新料の授受も行わず、その代わりに、適正な賃料を設定していくというプラクティスが形成されることが期待されます。

 

 


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