知的財産研究室

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特許法104条の4に関する政令案検討

2011-10-30 08:01:48 | 特許法改正

 

1 政令案の内容

改正法第104条の4第1号及び第2号において,「当該特許を無効にすべき旨の審決」及び「当該特許権の存続期間の延長登録を無効にすべき旨の審決」(以下「無効審決」)の確定を,再審の訴えでは主張できない(以下「主張制限」)ものとしている。これに対し,同条第3号の「当該特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正をすべき旨の審決」(以下「訂正審決」)は,「政令で定めるもの」としている。

今般、これを受けた政令案が公表された。その第13条の4は,主張制限する審決に関し、以下の場合分けをしている。

① 特許権者側の勝訴判決確定後

「当該訂正が当該訴訟において立証された事実以外の事実を根拠として当該特許が特許無効審判により無効にされないようにするためのものである審決」

② 特許権者側の敗訴判決確定後

「当該訂正が当該訴訟において立証された事実を根拠として当該特許が特許無効審判により無効にされないようにするためのものである審決」

ここにいう「当該訴訟において立証された事実」とは無効理由を意味すると解される。

2 コメント

2-1 原則の重視と法形式

そもそも、改正法の趣旨は、紛争の一回的解決を図るために侵害訴訟の確定後における審決の確定を理由とする紛争の蒸し返しを防止することにある。改正法は、これを、現行民事訴訟法に規定する再審事由を限定するのではなく、再審の訴えにおいて、審決の確定を主張できない(主張制限)という方式を採用し、無効審決に関しては、主張制限の適用外となるものを明文では認めていない。

これに対し、政令案は、訂正審決に関しては、主張制限の適用となるものを限定しているようにみえる。

この点、そもそも、改正法の趣旨に照らせば、主張制限の適用が原則であるから、主張制限の適用外となる訂正審決を明示する方式で規定すべきである。すなわち、主張制限の適用外となる訂正審決をAとすると、政令で定める審決として、「A以外の訂正審決」のように規定すべきである。

2-2 主張制限の適用外となる審決

(1)特許権者側の勝訴判決確定後

この場合には、侵害訴訟において立証された無効理由に基づく無効審決を回避するための訂正審決は主張制限の適用外となるようにみえる。しかし、ここで想定しているのは、侵害訴訟において無効理由が立証された場合において対抗主張が立証された結果、特許権者側が勝訴した場合であり、侵害訴訟において立証された無効理由に基づく無効審決を回避するための訂正審決は、それが対抗主張の内容と同一である場合等には、侵害者による紛争の蒸し返しそのものであり、主張制限が適用されるべきものと思われる。なお、侵害訴訟において立証された無効理由以外の無効理由に基づく無効審決を回避するための訂正審決については、無効審決について明文上の限定無く主張制限を適用していることとのバランス(侵害者は侵害訴訟において全ての無効理由を主張すべきであるとの考え)から、無効審決と同様に扱うべきであり、この点においては政令案に賛成である。

(2)特許権者側の敗訴判決確定後

この場合には、侵害訴訟において立証された無効理由以外の無効理由に基づく無効審決を回避するための訂正審決は主張制限の適用外となるようにみえる。この点においては、特許権者に対して、侵害訴訟において立証された無効理由以外の無効理由に関する対抗主張をすべきことは期待できないのが通例であろうから、政令案に賛成である。もっとも、当職は、訂正審決については、特許権者側の主導によりなされるものであり、そもそも、再審事由に該当しない場合があるとの見解を「知財ぷりずむ」において示したことがある。

2-3 信義則による柔軟な解釈

そもそも、侵害訴訟確定後の審決について主張制限するか否かは、一律に決定できるものではなく、信義則に基づいて決すべきことであり、改正法を適用する場合にも、信義則に基づく柔軟な解釈が必要である。

 


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