1 平成24年(行ケ)第10147号審決取消請求事件
2 本件は、拒絶査定不服審判不成立審決の取消を求めるものです。
3 本件の争点は進歩性の有無です。
4 本判決は、当裁判所は,原告主張の4つの取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消されるべき違法はないものと判断しました。
4-1 取消事由1(相違点1に係る判断の誤り)について
本判決は、「機械装置の分野における部材の小型化,軽量化は一般的な技術課題」であると述べた上、「刊行物2ないし4には,トラクションシーブ式エレベータにおいて,部材を小型化,軽量化することが一般的な技術課題として記載されているところ,刊行物1の上記記載,及び,刊行物1に記載された発明が刊行物2ないし4に記載された発明と同じ技術分野に属するものであることから判断すると,刊行物1に記載された発明においても,トラクションシーブ式エレベータの部材を小型化,軽量化することが技術的課題とされているものと認められる」と判断し、さらに、「 D/dの比を著しく3 0より減らすと,しばしばロープの耐用年数を急激に縮めることとなる」との部分に着目すれば,D/d=
30という数値に何らかの意義があるよう見えなくもない」としつつ、「しかし,上記部分を前後の記載と併せて読めば,D/d= 30の例は,D/d=40以下の一例として記載されていること, 40以下の D/dの比としては,3 0でも,2 5でも,2 0でもよく,いずれの数値も,特別な構造のロープを使用しさえすれば適宜選択可能であることが明らかである」から、「D/d=30という数値に臨界的意義があるとは認められないと判断しました。
以上の判断を前提として、本判決は、「刊行物1に記載された発明において,トラクションシーブ式エレベータの部材を小型化,軽量化することは技術課題とされている」、「トラクションシーブの外径」を「最大でも240㎜」とすることについて技術的意義や臨界的意義を認めることはできない」ことから、「刊行物1に記載された発明においても,当業者であれば,トラクションシーブの外径をできるだけ小さくなるようにして,最大でも240㎜とすることは,容易に想到できたことであるといえる」と結論づけました。
4-2 取消事由2(相違点3に係る判断の誤り)について
本判決は、本件明細書の記載を引用し、「エレベータの懸垂比については,当業者が必要に応じて様々な比を採り得るものと認められる。そして,技術常識である滑車の原理によれば,懸垂比の如何により,転向プーリの数が異なることは明らかである」ところ、。刊行物1に記載された発明は,懸垂比が1:1でないものを採用することを排除していない(甲1の段落【0030】)から,刊行物1に記載された発明において,懸垂比が1:1でないものを採用することは,当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。懸垂比が1:1でないものを採用すれば,結果として,複数の転向プーリを用いるものとなることは自明である」ことから、「刊行物1に記載された発明において,複数の転向プーリを用いることは,当業者が必要に応じて適宜なし得るものといえる」と判断しました。
4-3 取消事由3(相違点4に係る判断の誤り)について
本判決は、「懸垂比が1:1でないものを採用すれば,結果として,複数の転向プーリの一部がエレベータの吊下げ機構内の上側に設置される態様が得られることがあるのは明らかである」ことから、「刊行物1に記載された発明において,転向プーリのいくつかをエレベータシャフトの上部に取り付けることは,当業者が必要に応じて適宜なし得るものといえる」と判断しました。
4-4 取消事由4(本件発明の効果に係る判断の誤り)について
本判決は、原告の「①本件発明と刊行物1に記載された発明との相違点のうち,特に相違点3及び4に係る発明特定事項は容易に想到し得るものではない。したがって,それぞれの発明特定事項を採用したことによって得られる本件発明に特有な効果も予測できないものである。②仮に,審決がいうように,刊行物1(甲1)に記載された発明に,甲第2号証ないし同第7号証の各公報に記載の技術を適用することにより,本件発明に想到することが不可能ではないとしても,これほどまで多くの技術を適用しなければ本件発明に想到できないというのは,通常の能力を有する当業者にとっては想到が著しく困難であることにほかならない」との主張に対し、「原告の上記 ①の主張については,前示のとおり,相違点3及び4に係る発明特定事項は容易に想到し得るものであり,そうである以上,相違点3及び4に係る発明特定事項を採用したことによって得られる効果もまた,当業者の予測の範囲内のものというべきである」と述べ、「上記 ②の主張については,そもそも,容易想到性の判断は,相違点の数や適用すべき技術の数に左右されるものではない」と結論づけました。
以上
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