知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

セルラー無線電話機審取

2012-03-21 06:53:18 | 最新知財裁判例

セルラー無線電話機審取
平成23年(行ケ)第10220号 審決取消請求事件
請求棄却
本件は拒絶査定不服審判不成立審決について取消しを求めるものです。
争点は、進歩性の有無です。
裁判所の判断は10ページ以下
1 引用発明に対する周知技術の適用
本判決は、「引用発明は,衛星からの電波に基づいて推測される携帯電話機の位置情報を基地局が取得することにより,基地局で他の基地局とのハンドオフを制御できるというものである」と認定する一方、移動体通信の技術分野において,「移動局の位置検出を行って, 移動局の位置が基地局のセルの距離限界より内側のセルの境界付近でハンドオフを行うこと」及び「移動局から境界線までの距離を計算して,基地局間のハンドオフの要否を決定すること」は,周知技術であると認定した上、引用発明と上記各周知技術は,「いずれも移動体通信におけるハンドオフという限られた技術分野に関するものである」ことから,当業者が,引用発明に上記各周知技術を適用して,「携帯電話機からセル境界線までの距離を計算し,計算した距離に基づきハンドオフの要否を決定する(セル境界線の内側でハンドオフする)ようにすることは,容易になし得るものといえる」と判断しました。
また、本判決は、甲8公報に開示された上記周知技術と補正発明との相違について、「甲8公報に開示された上記周知技術は,移動機の位置について,電界強度の測定値から推測し(段落【0008】),移動機とセル境界線との距離についても,電界強度の測定値を用いた強度距離という概念に基づく(段落【0031】~【0041】)点で,補正発明とは異なる」と述べつつ、「そもそも,引用発明は,衛星からの電波に基づいて推測される携帯電話機の位置情報を基地局が取得することにより,基地局で他の基地局とのハンドオフを制御するのであるから,携帯電話機からセル境界線までの距離を計算するに際しては,甲8公報に開示された電界強度の測定値と同等の概念に基づき,地球上の位置間の距離として上記周知技術を適用する程度のことは,当業者にとって設計的事項にすぎない」と判断しました。
2 作用効果の格別性
さらに、本判決は、作用効果の格別性に関し、「甲8公報に開示された周知技術を引用発明に適用する際に,電界強度や強度距離に代えて,衛星からの電波に基づく地球上の位置や距離を用いることは,当業者にとって設計的事項にすぎないから,(衛星信号データを用いて無線電話機の正確な位置を決定することによって)精度が高いという補正発明の効果が格別の効果であるということはできない」と判断しました。
本判決は、引用発明に周知技術を適用して進歩性を否定した一事例として参考になると思われます。


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