知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

根菜切削切断装置事件判決

2021-09-08 17:05:27 | 審決取消請求事件

根菜切削切断装置事件判決

 

第1 書誌情報

1 事件名:根菜切削切断装置事件

2 事件番号等:令和元年(行ケ)第10168号 審決取消請求事件

3 判決日:令和2年8月12日

4 担当部;2部

5 担当裁判官:森 義之

          眞鍋 美穂子

          熊谷 大輔

 

第2 検討

1 事案の概要等

1-1 事案の概要

拒絶査定不服審判不成立審決の取消しを求めるものである。

 

1-2 発明の内容

人参,牛蒡の根菜類を切削切断する切削切断部と,この根菜類を固定する固定部と,この固定部を直線運動させ,前記切削切断部に送込む送り部と,を備えており,

前記切削切断部は,この根菜類の表面から切削対象部位を削り出す切削手段,及び根菜類の切削対象部位を二片,又は多片の形状に切断するための切断手段を備え

ており,前記切削手段,及び前記切断手段により,前記根菜類に,角(RC)を備えた切削切断片(KS)を形成可能とし,前記根菜類を,前記固定部に設けた昇降する軸(33)の固定機構(34)の固定針(35)に,固定可能とし,前記切断手段の刃物ユニット(BU)は,複数枚の切断刃(BC)と,この切断刃(BC)を支持する多数枚のスペーサ(BU1),(BU2)と,この切断刃(BC),及びスペーサ(BU1),(BU2)を固定する固定具とで構成したこと

を特徴とする前記根菜類のささがきを生成する根菜類切削切断装置。

 

2 検討する争点

取消事由3(容易想到性の認定判断の誤り)について

 

3 判旨

原告は,本願発明は,(ⅰ)切削手段による切削の工程と,(ⅰⅰ)切断手段による切断の工程とをその順に行うことが可能な「切削切断部」を備えることにより,根菜類の旨みを醸成させるという効果を奏することができる旨主張する。

しかし,本願発明が(ⅰ)切削手段による切削の工程と,(ⅰⅰ)切断手段による切断の工程とをその順に行うものに限られるものではないことは,前記のとおりである。

また,本願明細書の段落【0047】には,人間が刻むささがきsh形状は,「裏面は略平坦で,表面は,小山から,裾野に向かって,緩やかな傾斜となり,全体視して,小高い山形形状と考えられる。この小山が,歯応えと,根菜類の旨みを醸成すると考えられる。」とされ,この「山」を形成するために,実施例1として,「切削手段で,・・・切削片KSを切削し,この切削片KSの長手方向に切断手段で二つに切離す(二条の切断線SSを形成する)」という工程が記載されているが,段落【0048】には,「切断工程の切断手段1aが先で,切断線を備えた人参に,切削工程の切削手段1Aが担当する他の例もあり得る」と記載されており,また,段落【0052】には,実施例1の根菜類切断装置Nにおいて,切削片KS(切削対象部位)が切断手段1aで完全でない切断がされた後に切削手段1Aで切削されて切削切断片KS1,KS2,KS3となることが記載されているから,本願発明の目的である「人間が包丁で刻むささがき(ささがき形状)」に近づけ,歯ごたえと根菜類の旨みを醸成することは,原告が主張する順序によらなければならないとは認められず,(ⅰⅰ)切断手段による切断の工程と,(ⅰ)切削手段による切削の工程とをその順に行う場合も含むと認められる。

したがって,本願発明が甲1発明と比べて顕著な効果を有すると認めることはできない。

4 コメント

当職の進歩性判断モデルによれば、顕著な効果は、それが予測不能であってはじめて独立した進歩性を基礎付ける要件となり得る上、それは、対象発明の構成から予測される効果と対象発明が現に生じる効果との対比により判断されるものである。

この点について、本判決は、「本願発明が甲1発明と比べて顕著な効果を有すると認めることはできない」と述べているが、対象発明が現に生じる効果と対比するべき対象が、引用発明の効果である点において疑問があるものの、これは、原告の主張が「本願発明が甲1発明と比べて顕著な効果を有する」というものであったことに起因するものと推測される。

また、本判決は、原告の主張する限定解釈を退けているが、リパーゼ判決を前提にする限り、切削工程と切断工程の順序をクレームに読み込むことには無理がある。一般論としては、クレームドラフティングにおいては、実施例及びその均等物をカバーする狭いクレームとそれを基礎として拡張した広いクレームとを記載することが重要であり、本判決もそのことを示している好例と思われる。

 

以上