1 事件番号
平成26年(行ケ)第10112号
平成26年12月08日
2 主たる争点
本件は、商標登録無効審決の取消訴訟である。争点は、原告の有する本件商標と被告らの業務に係る商品との混同を生じるおそれの有無(商標法4条1項15号)である。
3 判旨
3-1 商標の類似性の程度
ア 本件商標について
本件商標は、指定商品をビール類として、「軽井沢浅間高原ビール」の文字を標準文字により表してなるものであるところ、その構成中の「ビール」は指定商品そのものであって自他商品識別力を全く有しないから、「軽井沢浅間高原」の部分が自他商品識別機能を独立して発揮し得る部分となる。
「軽井沢」と「浅間」が地名であることは明らかであるところ、「軽井沢浅間」が固有の地域、地名等を指称する語であるとする証拠はないから、「軽井沢浅間高原」の語順・語義に従った自然な読み方としては、「軽井沢」と「浅間高原」とに分けられるものといえる。しかるに、〈1〉「軽井沢」は、長野県東部、北佐久郡にある著名な避暑地を想起させるところ、その中心である軽井沢町の町域が、浅間山の南麓・南東斜面に広がる高原地域となっていることは公知の事実であること、〈2〉「浅間」の語は、長野県北佐久郡軽井沢町・同郡御代田町と群馬県吾妻郡嬬恋村にまたがる著名な浅間山を想起させること、〈3〉「浅間高原」が固有の地域、地名等を指称する語であるとする証拠はないから、「浅間高原」は、〈2〉からみて、浅間山山麓一帯の高原地域程度の意味合いを有するといえる。
そうすると、「軽井沢」と「浅間高原」とは地理的に隣接又は重複するのであるから、「軽井沢浅間高原」のごく自然な理解とすれば、一定の地域を異なる語で連記して場所の特定を強調するとの例に依ったものとして、「軽井沢及びその周辺の浅間山山麓に位置する高原地域」ほどの意味合いを認識させるものと認められる。
したがって、本件商標からは、「軽井沢及びその周辺の浅間山麓に位置する高原地域で製造又は販売されるビール」ほどの意味合いが認識され、「カルイザワアサマコウゲンビール」の称呼を生ずる。
イ 引用商標2について
引用商標2は、前記2(2)に認定のとおり、「軽井沢高原ビール」の文字を要部とするものであるところ、その構成中の「ビール」は商品名そのものであって自他商品識別力を全く有しないから、「軽井沢高原」の部分が自他商品識別機能を独立して発揮し得る部分となる。
「軽井沢高原」が固有の地域、地名等を指称する語であるとする証拠はないところ(甲29には、「軽井沢高原」が固有の地域を指称する旨の記載があるが、そのような呼称が固有名として一般化しているとまでは認めるに足りない。)、「軽井沢高原」は、「軽井沢及びその周辺の高原地域」ほどの意味合いを認識させるものと認められる。
したがって、引用商標2からは、「軽井沢及びその周辺の高原地域で製造又は販売されるビール」ほどの意味合いが認識され、「カルイザワコウゲンビール」の称呼を生ずる
3-2 本件商標と引用商標2との対比
(ア) 外観
引用商標2の書体は、その表示自体から文字以外の特定の観念を想起させるほどに図案化されているものではなく、専ら「軽井沢高原ビール」との文字が認識され得るにすぎない。しかるに、本件商標と引用商標2とを対比すると、両商標は、いずれも横文字で表記され(引用商標2は2段に並記)、その構成中の「軽井沢」「高原」「ビール」の文字を共通にし、中間に位置する「浅間」の文字の有無のみに差異を有するものである。そして、本件商標は、10文字という比較的冗長な構成を有する上に、「軽井沢」と「浅間高原」という重複する地域を連記するものである。そうすると、本件商標中の中間に位置する「浅間」の文字が看者に強い印象を与えるとはいえず、離隔的観察の下においては、両商標の外観は、少なくも、看者に近似した印象を与える。
原告は、「浅間」の文字があることを重視すべき旨を主張するが、中間部の「浅間」の文字の有無の相違のみにより、全体の近似する印象が覆されるとはいえない。
(イ) 称呼
本件商標から生ずる「カルイザワアサマコウゲンビール」の称呼と引用商標2から生ずる「カルイザワコウゲンビール」の称呼とを対比すると、両商標は、その構成音の「カルイザワ」「コウゲン」「ビール」の音を共通にし、中間に位置する「アサマ」の音の有無のみに差異を有するものである。そして、本件商標は、15音という比較的冗長な音数で構成されており、本件商標中の中間に位置する「アサマ」の音が看者に強い印象を与えるとはいえず、離隔的観察の下においては、両商標の称呼は、少なくても、看者に近似した印象を与える。
原告は、「アサマ」の音があることを重視すべき旨を主張するが、中間部の「アサマ」の音の有無の相違のみにより、全体の近似する印象が覆されるとはいえない。
(ウ) 観念
本件商標からは「軽井沢及びその周辺の浅間山山麓に位置する高原地域で製造又は販売されるビール」との観念を生じ、引用商標2からは、「軽井沢及びその周辺の高原地域で製造又は販売されるビール」との観念を生じる。
そうすると、両商標は、いずれも、軽井沢一帯の高原地域で製造又は販売されるビールを想起させるものであるから、両商標の観念は、少なくとも、看者に近似した印象を与える。
エ 小括
以上ア~ウによれば、本件商標と引用商標2とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても近似すると認められる。
3-3 引用商標2の周知著名性及び独創性の程度
ア 周知著名性
平成9年に発売を開始した被告商品は、〈1〉少なくとも、新聞の地方紙又は全国紙地方版にたびたび取り上げられたこと、〈2〉地域雑誌や全国を販域とする雑誌にもたびたび紹介されていたこと、〈3〉平成18年時点で、軽井沢を訪れた観光客の77%に認知されており、その観光客の29%が雑誌から被告商品を知ったこと、〈4〉地ビールとしては相当量の販売実績があり、長野県内のみならず主として関東地方を中心に相応の販売実績があったことが認められる(なお、前記2(2)に認定のとおり、引用商標2は専ら文字として識別される商標であるから、刊行物に被告商品の名称のみが引用されている場合であっても、称呼のみならず、外観も直ちに引用商標2が想起される関係にあるといえる。)。
そうすると、被告商品に付された引用商標2は、被告ヤッホーの業務に係るビールを表示するものとして、遅くとも、本件商標登録出願前には、長野県内及び関東地方の取引者、需要者の間に広く認識されていたものといえ、その周知性は、本件商標の登録査定時においても継続していたものといえる。
イ 独創性
引用商標2は、広く知られた地名である「軽井沢」と、地勢を示す「高原」を組み合わせたものであり、軽井沢がもとより高原地域にあることにかんがみれば、独創性はかなり低いものといえる。
3-4 取引の実情
ア 商品の関連性及び取引者・需要者の共通性
(ア) 商品の関連性
本件商標の指定商品は、「エールビール、ラガービール、黒ビール、スタウトビール、ドラフトビール、その他のビール」であるから、被告商品と同一である。
(イ) 取引者・需要者の共通性
原告商品は、全国で店頭販売されているものであるから、当然の結果、被告商品の主たる販売地域である軽井沢町及びその周辺地域において、取引者・需要者を共通にする。
のみならず、軽井沢は、関東地方からを中心に(約7~8割)毎年800万人近くもの観光客が全国から訪れている日本有数の観光地であり、〈1〉被告商品が長野県内で広く取り扱われていること、〈2〉被告商品が1kl以上出荷された長野県外の業者の所在地が、福島県、群馬県、茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県にわたっていること、〈3〉被告ヤッホーが、被告商品をインターネットを利用して宣伝し、インターネットを通じて被告商品を販売していることなどにかんがみると、少なくとも、長野県内及び関東地方において、原告商品と被告商品とは、取引者・需要者を共通にしているといえる。
イ その他
ビールは嗜好品飲料であり、主としてその味覚により差別化が図られるものであるから、その内容物を特定し、品質保証の役目を果たす名称について、取引者・需要者は一定の注意を払うものといえる。一方で、同一名称でありながら、缶全体のデザインを異にするシリーズ商品が存在することは、ごく自然にあり得ることである。そうすると、缶全体のデザインが異なることは、名称が近似することにより生じた特定商品間の混同のおそれを減じる要素として重視できるものではない。
3-5 混同のおそれ
以上のとおり、〈1〉本件商標と引用商標2とは、外観、称呼及び観念のいずれにおいても近似し、また、〈2〉引用商標2は、被告ヤッホーの業務に係るビールを表示するものとして、長野県内及び関東地方の取引者・需要者の間に広く認識されていたものといえ、さらに、〈3〉本件商標の指定商品と被告商品とは同一であって、〈4〉長野県内及び関東地方において、本件商標の指定商品と被告商品とは取引者・需要者を共通としているといえる。
以上の事情に照らせば、本件商標をその指定商品に使用するときは、その取引者・需要者において、同商品が被告ヤッホーの業務に係る商品と混同を生じるおそれがあるというべきである。
4 コメント
相当多くの証拠が提出されたようですが、結論は穏当という他ないですね。
以上
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