平成24年8月8日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成23年(行ケ)第10360号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成24年7月11日
1 本件は,拒絶不服審判不成立審決の取消を求めた事案です。
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本判決は、容易想到性に関し、「引用発明1及び引用発明2は,いずれも金属薄板状プレートに突出部を設けた上で,金属薄板状プレートを積み重ねることによって,対向する2つのプレート間に熱交換流体の流路を形成するようにした熱交換器の分野に属するものである。 また,引用発明1及び引用発明2は,いずれも金属薄板状プレートに突出部を設けることによって,熱交換効率を向上するという作用を有する。 さらに,一般的に金属は樹脂よりも熱伝導率が高く,熱交換流体に接触する部材の熱伝導率を高めるほど,熱交換器の熱交換効率は向上するものということができるところ,引用例1には,熱交換部分を担う熱伝導率の高い金属により形成すると, 熱交換率が向上する旨が明記されているものである」と認定し、「引用発明1において,熱交換流体に接触する突出部の熱交換効率を向上させるために,引用発明2に基づいて,エッチング技術などを用いて金属薄板状プレートに伝熱フィンを設けるようにすることにより,突出部を金属製とすることは,当業者が容易に想到し得たものであるということができる 」と判断しました。
2-2
また、本判決は、原告の主張に対し、「引用例1には,あらかじめ基材としてシート体に突出部を形成したものを用意できるため,製造コストを抑えるという目的を達成することができる旨が記載されているから,金属製のシート体であっても,あらかじめ突出部を形成することにより,製造コストを抑えるという目的を達成することができるものであって,原告の主張は,その前提自体が誤りである。 引用例1には,「製造コストを抑えることができる熱交換器を提供することを目的とする」「熱交換部分を担う基材は,熱伝導率の高い金属によって形成されている」「流入経路と流出経路とを区画するとともに,熱交換部分を担う基材は,熱伝導率の高い金属によって形成されている。これにより,流入経路を通過する流体と, 流出経路を通過する流体との間での熱交換効率を高めることができ,熱交換率の高い熱交換器を提供することができる」などの記載があり,また,一般に,熱交換器において,圧力損失を増加させずに伝熱特性を向上させるという課題が存在するから,引用発明1において,製造コストを抑え,圧力損失を増加させずに伝熱特性を向上させるという課題は,引用例1に記載されているか,あるいは内在する自明の課題ということができる。 しかも,引用例2には,コンパクトで伝熱性能が良く,かつ,圧力損失の少ない熱交換器及び冷凍空調システムを提供することが目的である旨明記され,また,先に述べたとおり,製造コストの抑制は一般的な課題であるから,引用発明2において,製造コストを抑え,圧力損失を増加させずに伝熱特性を向上させるという課題は,引用例2に記載されているか,あるいは内在する自明の課題ということができる」と認定し、「引用発明1と引用発明2とは,その技術分野が共通する上,引用例1に上記課題が記載されているのであるから,引用発明1に引用発明2を適用することは,当業者にとって容易であるものというほかない」と判断しました。
3 本判決は、動機付けの契機となる引用発明の課題について、明示されたものに限定せず、自明または内在する課題も動機付けの契機になり得ることを示したものとして有益と思われます。
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