知的財産研究室

弁護士高橋淳のブロクです。最高裁HPに掲載される最新判例等の知財に関する話題を取り上げます。

逆転洗濯審取

2011-12-12 05:05:43 | 最新知財裁判例

 

逆転洗濯審取

平成22(行ケ)10298

請求認容

裁判所の判断は16ページ以下

本判決は、まず、手続違背の点について、「拒絶査定不服審判を請求するとともにした特許請求の範囲の減縮を内容とする本件補正につき、拒絶理由を通知することなく、審決で、従前引用された文献や周知技術とは異なる刊行物2を審尋書で示しただけのままで進歩性欠如の理由として本件補正を却下したのについては、特許出願審査手続の適正を貫くための基本的な理念が欠けたものとして適正手続違反があるとせざるを得ないものである。本件においては、審判においても、減縮的に補正された歯車の具体的構成に対し、その構成を示す新たな公知技術に基づいて進歩性を否定するについては、この新たな公知技術を根拠に含めて提示する拒絶理由を通知して更なる補正及び意見書の提出の機会を与えるべきであったというべく、この手続を経ることなく行われた審決には瑕疵があり、当該手続上の瑕疵は審決の結論に影響を及ぼすべき違法なものであるから、原告主張の取消事由1には理由がある」と判断しました。

次に、相違点2についての進歩性判断の誤りに関し、「刊行物1発明は、衣類の洗浄力の向上を課題とした技術であるのに対して、刊行物2発明は、船舶等の姿勢の安定化を本来的な課題とした船舶等に固有の技術である点で、両者の解決課題は大きく隔たっている」と述べた上、「刊行物1発明の洗濯機の動力伝達機構と、刊行物2発明の船舶等の二重反転プロペラの動力伝達機構とは、技術分野が相違し、その設計思想も大きく異なることから、洗濯機の技術分野に関する当業者が、船舶の技術に精通しているとはいえず、洗濯機の動力伝達機構を開発・改良する際に、船舶等の分野における固有の技術である二重反転プロペラに類似の技術を求めることは、困難であるというべきである。また、洗濯機は、通常、床面上に設置して安定な状態で使用されるから、撹拌機や内槽の回転によって生じる反トルクの問題を考慮する必要がないことが一般的であると解される」ことから、「当業者が、洗濯機の分野では本来的に要求されない二重反転プロペラに関する刊行物2の記載事項を、刊行物1発明に適用することは困難であり、この点を主張する取消事由4には理由がある」と判断しました。

さらに、被告の反論に対し、「解決課題が大きく隔たっている公知技術を組み合わせるに当たって、両者が動力伝達機構という汎用性の高い一般的技術分野に属するとしてその容易性の有無を判断することは慎重でなければなら」ないと述べ、また、「明細書において当該発明を適用する技術分野が例示であると記載されているからといって、すべての技術分野の他の技術が適用容易となるものでないことは明らかであり、本件のように複数の発明を組み合わせて出願された発明の進歩性を否定しようとする場合には、それぞれの発明の技術分野、解決課題、組合せの動機付け等を具体的に検討しなければならない。刊行物1発明と刊行物2発明とは、前記のとおり、技術分野が異なるだけでなく、その解決課題も大きく隔たり、組合せの動機付けも明確でないから、被告の主張は採用することができない」と判断しました。

汎用性の高い一般的技術分野に属する技術事項を進歩性否定の決め手とする場合があり得ますが、その場合には、組み合わせる公知技術の解決課題の距離も考慮することを示す裁判例といえます。

 

 


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