稲葉先生の会社法に対する熱い思いが伝わってきます。
以下、若干のコメント
1 譲渡制限株式
稲葉先生は、譲渡制限種類株式について、定款に規定がある限り、種類株主総会の決議は不要(199④、200④)とされていることについて、これまでの制度(譲渡制限株式について新株引き受権を保証)を特段の理由を示すことなく根幹から変更しているとして批判されます(43)。しかし、今般の会社法改正は、定款自治の範囲を広げることを全体としての基本方針としているので、個別の制度については、個別的な理由は不要と思われます。
議決権制限株式の発行割合制限(115条)について、少数支配の回避という趣旨が達成できず、無意味な規定と批判されています(98)。
さらに、ある種類株式を議決権制限株式にとすることが、通常の定款変更で可能とする立法担当者の見解に異を唱えられています(109)。
2 組織変更と株主総会
稲葉先生は、組織変更についての株主総会決議に瑕疵があった場合には、総会決議取消訴訟による救済は時期を逸することがあり得ることを根拠として、決議の執行を止める仮処分を仮の地位を定める仮処分として強要すべきとされており、これは支持できるものと思われますが、濫用的な仮処分申立てに対する手当が必要に思われます(58)。
3 社債
金融庁と共同所管の特別法にて規制すべきとされています(66)。賛成です。
4 1株当たり純資産額
141条2項にて、「1株当たり純資産額」の算定が法務省令に委任され、さらに、その定義が、他の条項(167条3項2号、796条3項1号イ)にも適用されることが批判的に指摘されています(77)。定義条項を設けておきながら、本文中にさらに定義を設けるのは、不親切な立法といえましょう。
5 競業取引
非取締役会設置会社の場合、競業取引の事前承認は株主総会の権能ですが(356条)、事後報告規定がないことが、取締役会設置会社の場合(365条)との平仄がとれないと指摘されています(103)。改正までは、定款に事後報告義務を規定することにより対応する他ないようです。
6 自己株式の取得
自己株式の取得には原則として財源規制がかかりますが、組織再編成の場合の反対株主の株式の買取請求の場合は、財源規制はなく、業務執行者の責任も生じません(464)。稲葉先生は、剰余金規制に抵触するような株式買取請求権の行使がなされる場合は、定款変更も組織再編成も強行すべきではないとされています(104)。
また、財源規制違反の自己株式取得の効力が否定されないことに対しても、その理由付けが説得的でないとして、反対されています(106)
7 内部統制
金商法上は、内部統制についての監視は、公認会計士の任務です(金商法24条の4の4)。これに対し、会社法上は、監査役の任務になっています。稲葉先生は、これが、会社法が他の法律と平仄がとれていない例としてあげておられます(105)。
8 会社分割
会社分割の対象となる権利・義務の範囲を会社が任意に設定できること(2条」29号、30号)を批判されています(106)。
9 定款の相対的記載事項
定款の相対的記載事項を全て書ききっているような29条の規定はおかしいと批判されています(108)
10 監査役の権限
436条1項と施行規則129条2項の矛盾を指摘されています(118)。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます