今日の午後1時過ぎから、中央自動車道「笹子トンネル」は、
下り線を対面通行にして仮復旧したと云う。
中央道が仮復旧 笹子トンネル内を対面通行に
(朝日新聞) - 2012年12月29日(土)13:18
「笹子トンネル」内の強化コンクリート(PC)製の天井板が大規模に
落下した原因は、主として中央部のアンカーボルト部分が脱落した ことに
あることは、ほぼ解っている。
そして、そのアンカーボルトの定着方法は、接着剤 とか 樹脂製 とか
報道されている。
接着剤と言えば、随分と不安の残る工法のように聞こえるのであるが、
これは、業界では 「ケミカル・アンカーボルト」 と云うものであり、
後施工アンカーとしては、従来の メカニカル・アンカーボルト よりは
はるかに信頼性が高いものとされてきたので広範囲に使用されている。
メカニカル・アンカーボルト は、穴に対して事実上点接触なのに対して、
「ケミカル・アンカーボルト」 は、ボルトにたいしてもコンクリート(RC)
に対しても面接触となり、保持範囲が遥かに広くなるので、定着能力が
高いと言われてきた。
しかしその歴史は数十年と短く、経年劣化については実際の現場と
同様の環境ではエイジング検査は行われておらず、謂わば現場施工が
実験場となっていた。
私は、樹脂部分の経年劣化について不安があったので、自ら設計した
ものでは、できる限りメカニカル・アンカーを使用してきた。
しかし、客先(設計事務所やゼネコン等)がケミカルアンカーを指定する
場合も少なくなく(新しい物好きだった?)、使用されている例も少なくない。
どちらの方式を使った場合にも、コンクリート(RC)側が劣化すれば
定着強度を維持できないので落下する可能性がある。
これを防ぐ方法が、「埋設アンカーボルト」 である。
トンネルや床板の構造鉄筋や鉄骨に直接定着させる方法であり、この方法によれ
ば、RCが劣化した場合でも鉄筋や鉄骨に保持されているので落ちることは無い。
この点を指摘した報道機関が唯一 【しんぶん赤旗】 であり、
現場監督経験者に直接聞き取り、重要なポイントを記事にしている。
後に、当該のWeb記事全文を引用するが、要点は以下である。
* ケミカルアンカーボルトは、あくまでもトンネルの内部で、重い荷物を移動させるために、天井にフックを取り付ける際など、「仮に」使用するものです。
(「仮に」使用するもの という断定には疑義がある;引用者)
* 通常、アンカーボルトは、トンネル天井部のコンクリートを打設する前に、中の鉄筋と溶接して一体化し、コンクリートの中に「埋め込む」もので絶対抜けません。
* 環境的にも厳しい条件の中で「ケミカルアンカーボルト」を使い、「3・11」大震災が起きても目視点検しかしていないのはおかしい。
* 2000年以降、天井部の打音検査をしていないのは信じられません。
* たたいて見て回るのが現場の常識です。高いところは目視だけして手の届く範囲しか打音検査をしていなかったのは怠慢といわざるをえません。
* 人材派遣で技師を募集して、施工管理を任せていることが業界ではまかり通っています。
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中央道が仮復旧 笹子トンネル内を対面通行に
(朝日新聞) - 2012年12月29日(土)13:18
笹子トンネル(山梨県)の天井崩落事故で通行止めになっていた中央自動車道の大月ジャンクション―勝沼インターチェンジ(IC)間は29日午後1時、下り線を対面通行にして仮復旧した。
中日本高速道路は下り線トンネルの天井板7500枚と隔壁板3600枚をすべて撤去。対面通行は笹子トンネルを含む約8キロで、この区間の制限速度はトンネル内で時速40キロ、外では時速50キロとしている。
笹子トンネル事故 常識外れの中日本高速
大震災後も目視点検のみ 「仮設」用ボルトを本設に
現場監督経験者語る
しんぶん「赤旗」 - 2012年12月26日(水)
安全を下請け任せにして、中日本高速道路は何をやっているのか―。9人が死亡した中央自動車道「笹子トンネル」(山梨県)天井板崩落事故。全国二十数本のトンネル工事に携わり現場をよく知る元現場監督者(51)が見た異常事態とは…。(遠藤寿人)
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今回抜け落ちた天井のつり金具を最上部で支えるアンカーボルトが、トンネル天井部のコンクリート壁に穴をあけ、接着剤で固着した「ケミカルアンカーボルト」だったと聞いて、度肝を抜かれました。
ケミカルアンカーボルトは、あくまでもトンネルの内部で、重い荷物を移動させるために、天井にフックを取り付ける際など、「仮に」使用するものです。
通常、アンカーボルトは、トンネル天井部のコンクリートを打設する前に、中の鉄筋と溶接して一体化し、コンクリートの中に「埋め込む」もので絶対抜けません。自分が工事を担当したJR新幹線のトンネルではすべて「埋め込み式」でした。
施工した後でコンクリートに穴をあけ、それも重力と反対の上向きで長期にケミカルアンカーボルトを使用するのは、強度の点できわめて不安があります。「仮設」としてではなく、永久構造物に近い「本設」に使用していたことは驚きであり信じられません。
環境的に厳しい
中央自動車道の小仏トンネルや笹子トンネルの一帯は、破砕帯の層があります。この付近の発電所トンネル工事で異常出水した経験があります。
今回の事故もトンネルの出口に近いところでしたが、出入り口は一番崩れやすい場所です。雨や湧き水によってクラック(ひび割れ)が入ることなど容易に考えられます。
環境的にも厳しい条件の中で「ケミカルアンカーボルト」を使い、「3・11」大震災が起きても目視点検しかしていないのはおかしい。2000年以降、天井部の打音検査をしていないのは信じられません。
トンネルを掘っている時は、震度4以上の地震がきたら掘るのを止めて全部点検し、安全を確認するのが決まりになっています。もし地震で生き埋めにでもなったら大変だから必ず点検します。
現場で真剣に携わっている人なら、クラックはないか、水の流れは変わっていないか、隅々まで点検し「不安だからみんなでたたこう」という。だれも「たたこう」といわなかったのだろうか。
アンカーボルトはたたけば違いが100%分かります。音が全然違う。コンクリートにきちっと固まっていれば“キンキン”と音がする。浮いていると“ボコボコ”と鈍い音がします。小学生でも違いが分かります。10本に1本でもいい、100本に1本でもいい、たたいて見て回るのが現場の常識です。高いところは目視だけして手の届く範囲しか打音検査をしていなかったのは怠慢といわざるをえません。
点検下請け任せ
点検は下請けに任せ本体はいったい何をやっていたのか。サービスエリアなどを立派にして金もうけに走っています。人材派遣で技師を募集して、施工管理を任せていることが業界ではまかり通っています。人材派遣できた人が責任感をもってできるか。自前でお金をかけて若い人を育てていかないと、これからも同じことを繰り返すでしょう。
1000メートル以上のプロジェクトは国土交通大臣の許可が必要です。大動脈のインフラを預かるものとして、中日本はじめ各高速会社は、利益第一、人命軽視では困ります。
笹子トンネルが対面通行で仮復旧
=「ちょっと怖い」と利用客―山梨
(時事通信) - 2012年12月29日(土)18:51
天井板崩落事故が起きた中央自動車道笹子トンネル上り線は29日午後1時、下り線(4.7キロ)を対面通行にし大月ジャンクション(JCT)―勝沼インターチェンジ(IC)間を、上り線も一宮御坂IC―大月JCT間の通行止めを解除した。事故発生から27日ぶりに、全線が通行可能になった。
通行開始から約20分後、上下線とも山梨県警のパトカーに先導され、車が次々と笹子トンネル内に入った。対面通行区間は約8キロで、制限速度はトンネル内が時速40キロ、その他は50キロ。中日本高速道路(名古屋市)によると、対面通行区間の下り線では開通直後から徐々に渋滞が発生した。
東京都八王子市の会社員佐々木理さん(46)は、家族と長野県諏訪市のスキー場に向かうため天井板が撤去された笹子トンネルを通過。「9人も亡くなったので、正直ちょっと怖い。トンネル内では天井が気になった」と不安そうな様子。ただ、「子どももいるので、サービスエリアがありトイレに行きやすい中央道の復旧はありがたい」と話した。
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ボルトが埋め込み方式なら落下が無いだろう程度の知識は素人の私でも知っています。
永久的な構造物なのですから『あとから天井に穴を開けてボルトを差込んで固定する』など時間の経過と共に安定性が落ちてくる。しかもボルトの一つに不具合が生じると次々と連鎖反応的に不具合が拡大していく正のフィードバックが今回は働いている。
これでは大事故は当然だった。
平家物語の『祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす』ではないが、若者も何時かは年老いて死に、立派な建物も老朽化する、
ましてや天井に差し込んだボルトなら、時間の経過とともに必ず抜ける。