<福島民報ニュースより>
金じゃない古里返せ 石原環境相発言に住民怒りの声
「最後は金目(かねめ)でしょ」。東京電力福島第一原発事故に伴う中間貯蔵施設建設をめぐる石原伸晃環境相の16日の発言に、建設候補地がある大熊、双葉両町の住民は「故郷を追われる人の気持ちが分からないのか」と批判の声を上げた。施設受け入れに向けた政府と地元との交渉は難航している。避難住民は、古里への愛着と施設の必要性とのはざまで揺れ続ける。
「お金なんか要らない。古里を元に戻してほしい」
会津若松市で避難生活を続ける大熊町農業委員会長根本友子さん(66)は、インターネットで石原環境相の発言を知り、怒りが込み上げてきたという。
根本さん宅は中間貯蔵施設の建設予定地にあり、いわき市と会津若松市で開かれた住民説明会に出席した。「3年余り、帰る日を待っていた。中間貯蔵施設建設で追い出される者の気持ちを踏みにじる発言だ」と憤った。
大熊町から新潟県柏崎市に避難している主婦森口須美枝さん(71)は、2日に同市で開かれた住民説明会に参加した。遠い古里を思い、「先祖代々の土地を泣く泣く手放すつらさを分かっていない。金なんて要らない。家に帰りたいという人がほとんどだ」と避難住民の気持ちを代弁した。
いわき市に避難している大熊町の仮設住宅自治会長を務める出羽秀一さん(56)は中間貯蔵施設が将来、最終処分場になるのを懸念する。「古里の将来に不安を抱いている。金銭問題を前面に出すこと自体、住民の思いを理解していない証拠だ」と突き放した。
白河市にある双葉町県南借り上げ住宅自治会長を務める舘林孝男さん(59)は「金で中間貯蔵施設の問題が解決するのか」とあきれた様子。白河市で開かれた住民説明会では、避難住民が子孫のために、いかに町の将来を考えているかを伝えようとした。「私の声は国に届いてなかったようだ」と落胆した。
いわき市の南台仮設住宅で暮らす双葉町のパート山田史子(ちかこ)さん(56)は「本当は震災前の双葉町を返してほしいという町民の気持ちを何も分かっていない。信用できない」と政府に対する不信感を一層募らせた。
■説明会16回石原氏出席せず
石原環境相は5月31日から6月15日まで計16回開かれた中間貯蔵施設の住民説明会に一度も出席しなかった。
各会場では大熊、双葉両町民から「なぜ大臣が直接説明しないのか」などと批判が相次いだ。
( 2014/06/17 08:28カテゴリー:主要 )
<福島民報論説より>
【「最後は金目」発言】これが国の本音か(6月17日)
福島県民をばかにしているのか。石原伸晃環境相が16日、東京電力福島第一原発事故で発生した除染廃棄物を保管する中間貯蔵施設の建設をめぐり、「最後は金目[かねめ]でしょ」と発言した。金で解決するとの見方を示したものだ。古里の未来と本県の復興を見据えながら建設について思い悩み、懸命に答えを探っている大熊、双葉両町民を冒涜[ぼうとく]するものだ。断じて許すことはできない。
政府は中間貯蔵施設の建設に向け、先月31日から今月15日にかけて県内外で16回にわたり住民説明会を開いた。参加した住民からは用地補償、地域振興の具体的内容、県外最終処分の実現性、風評被害対策などについて多くの質問が出された。古里への深い思いを抱きながらも、目の前に突き付けられた施設建設問題に向き合わざるを得ない苦悩がやりとりから伝わってきた。
損失補償や交付金が、建設受け入れに当たっての判断材料の一つであることは確かだろう。しかし、絶対に忘れてならないのは、何の落ち度もないのに突然、古里を追われ、今また、切ない決断を迫られようとしている人たちの気持ちだ。「金など要らない。古里を返せ、元の暮らしを返せ」との心の叫びが国には聞こえないのか。
佐藤雄平知事は「住民の古里を思う気持ちを踏みにじる発言だ」と不快感を示し、大熊、双葉両町の関係者も怒りをあらわにしている。県民も同じ思いだろう。
石原環境相は16回の住民説明会に1回も出席していない。参加者からは大臣が来て直接説明しないことに疑問の声が出ていた。事務方が「大臣の命を受けた実務担当者がしっかりと説明する」と取り繕ってはいたが、根底に環境相の説明会軽視の姿勢があったのではないか。もっとも、平然とこのような発言をする大臣が来たところで、議論が深まったとは思えない。
中間貯蔵施設建設については、国の本気度を疑わせる対応が続いている。施設の管理・運営を国の特殊会社に委託し、「廃棄物の30年以内の県外最終処分」明記については特殊会社の関連法の改正で対処するという。国の責任の所在をうやむやにしかねない。今回の住民説明会では「検討中」「今後の課題」などあいまいな回答が目立った。
政府は中間貯蔵施設への搬入開始目標を平成27年1月としている。石原発言で見通しは不透明になった。安倍晋三首相自らが足を運んで住民に向き合うぐらいの誠意を示すべきだ。(佐藤 研一)
( 2014/06/17 08:24カテゴリー:論説 )