新聞広告を見たとき、タイトルに引き寄せられた。『爆弾』が初読の作家であり、その第二弾だから。サブタイトルの「爆弾2」がそれを示している。そして、タイトルの「法廷占拠」という言葉に興味をそそられた。
この第2弾、プロローグという表記はないが、それに相当する導入場面がある。そこに登場するのは、新井啓一と<おれ>。二人は幼馴染の友人関係で20歳。この導入パートは、「いっそ、悪に徹してみないか?」という<おれ>の発言で終わる。
霞ケ関にある東京地方裁判所。東京地裁のもっとも大きい法廷、104号法廷。10月26日火曜日、午前10時開廷の第5回公判。その時刻の少し前の描写から始まる。
爆弾事件の犯人、自称スズキタゴサク。住所不定、無職、本籍地不明。彼に対する裁判である。この第5回公判には、野方署の倖田沙良と伊勢勇気の二人が証言のために出席している。証言の出番は午後なのだが、法廷の空気に慣れておきたいと無理に希望し、倖田は伊勢とともに開廷時点から法廷内に入ることにした。だが、その結果、事件の渦中に投げ込まれる羽目になる。
公判が始まり、しばらく経った時点で、男が「異議あり」と傍聴席の最後尾、被害者遺族が座る位置から声を発する。手に黒い拳銃を握り、もう一度「異議あり」と発し、天井に向けて撃った。その行動が法廷占拠の始まりとなる。
その男は父親を爆弾事件で殺された遺族の一人と名乗る。骨壺を持って法廷に入っていたのだ。拳銃の他に、手製の爆弾を持ち込んでいた。
その男は1発の銃弾を天井に向けて撃ち、もう一方の手にもつ警棒を使うことで、法廷内をコントロールし始めた。その男は、骨壺の中から、爆弾の装置、スマホと二台のタブレットPCを取り出す。
自分の身許を明らかにする。被害者遺族の会に在籍している柴咲奏多だと述べ、アパートの住所も語る。アパートの自室には爆弾が仕掛けてあるとも。捕まることを前提に行動していることを公言する。自分なりの理由と必要があり、この挙に出ているが、できれば人殺しはしたくないとも言う。
午前11時過ぎに東京地裁に着いた警視庁の高東柊作が現場の指揮を執り始める。高東は刑事部捜査第一課特殊捜査第一係。柴咲に対する交渉人の役割を担っていく。
柴咲は、警視庁に命令書を送信していた。
1.柴咲が現住所に設置した爆弾の速やかな確認。
2.104号法廷への踏み入り厳禁。無用なコンタクトはなし。館内を無人に。
3.104号法廷の弁護人席側出入口を封鎖してはならない。
4.指定URLの配信サイトの維持・死守。配信サイトは制限なしで公開。
同時視聴者数は1万人を超えること。
5.指示はビデオ通信によってのみ行う。担当者一人を指定のURLにアクセスさせ
常時待機させること。
等がその内容だった。法廷が占拠された中での高東と柴咲との間の交渉プロセスが公開された状態で進行することになる。
柴咲は、高東に己の計画シナリオに沿って、順次要求を突き付けていく。
高東に課せられた最優先任務は人質の救出である。速やかに救出するために、どのように柴咲と交渉していくか。一番の気がかりは柴咲の手許にある爆弾が本物なのかどうか。
つまり、ネット配信という衆人環視のもとで、困難な交渉ゲームが進展していく。
メイン・ストーリーは、この交渉プロセスの描写ということになる。そこが読ませどころとなる。複数のサブ・ストーリーは、高東の指示を受けて、パラレルに捜査活動に従事する刑事たちの行動となる。
捕まることを前提にしたうえで、周到な計画とシナリオを持つ柴咲の行動。だがその意図と目的が何なのかは全くわからない。そんな中で、高東と柴咲の交渉が始まる。読者はいわばネット配信の内容を見守る視聴者と同じ立ち位置に置かれる。相違点は、警視庁側が事件解決を目指す状況について高東をキーパーソンとして知ることができることである。混迷する警察側の状況を知ることはできる。それは、このストーリーに引き込まれていく周辺情報をふんだんに知りうることを意味する。
勿論、柴咲はこの法廷内で己が逮捕される気はない。では、どうするのか・・・・。読者にとっては、興味津々となる課題である。
ここで一人、特異な男が高東の交渉に関わってくる。爆弾(スズキ)事件以降事実上の謹慎処分として、特殊班係の遊軍となっている五係の類家である。彼は、プロファイリングを命じられたということで、高東が拠点とする指揮車に乗り込んできた。高東は、後輩の類家に反発を抱き邪魔者意識を持つ。だが、類家の思考と分析、その推論と見解を、徐々に考慮に入れる形に意識を変化させていく。類家のキャラクターがおもしろい。
大きな骨壺を被害者遺族が法廷内に持ち込めたということが、この法廷占拠の大前提になっている。この持ち込みが成立しないなら、この法廷占拠のストーリーは全くの絵空事になる。だが、そういうケースがありうるなら・・・・このストーリーは単なるフィクションですまされない側面が可能性として残る。
大前提をひとまず受け入れると、このフィクションのストーリー展開、引き込まれていくこと間違いなしである。
読み終えてから、各所に巧妙な伏線が敷かれていたことに気づいた。後知恵に終わったことが残念である。
少なくとも、爆弾シリーズの第3弾はいずれ刊行されると推測する。期待したい。
これ以上は、ネタバレに連なっていくので、やめておこう。
ご一読ありがとうございます。
こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『白い衝動』 講談社
『爆弾』 講談社
この第2弾、プロローグという表記はないが、それに相当する導入場面がある。そこに登場するのは、新井啓一と<おれ>。二人は幼馴染の友人関係で20歳。この導入パートは、「いっそ、悪に徹してみないか?」という<おれ>の発言で終わる。
霞ケ関にある東京地方裁判所。東京地裁のもっとも大きい法廷、104号法廷。10月26日火曜日、午前10時開廷の第5回公判。その時刻の少し前の描写から始まる。
爆弾事件の犯人、自称スズキタゴサク。住所不定、無職、本籍地不明。彼に対する裁判である。この第5回公判には、野方署の倖田沙良と伊勢勇気の二人が証言のために出席している。証言の出番は午後なのだが、法廷の空気に慣れておきたいと無理に希望し、倖田は伊勢とともに開廷時点から法廷内に入ることにした。だが、その結果、事件の渦中に投げ込まれる羽目になる。
公判が始まり、しばらく経った時点で、男が「異議あり」と傍聴席の最後尾、被害者遺族が座る位置から声を発する。手に黒い拳銃を握り、もう一度「異議あり」と発し、天井に向けて撃った。その行動が法廷占拠の始まりとなる。
その男は父親を爆弾事件で殺された遺族の一人と名乗る。骨壺を持って法廷に入っていたのだ。拳銃の他に、手製の爆弾を持ち込んでいた。
その男は1発の銃弾を天井に向けて撃ち、もう一方の手にもつ警棒を使うことで、法廷内をコントロールし始めた。その男は、骨壺の中から、爆弾の装置、スマホと二台のタブレットPCを取り出す。
自分の身許を明らかにする。被害者遺族の会に在籍している柴咲奏多だと述べ、アパートの住所も語る。アパートの自室には爆弾が仕掛けてあるとも。捕まることを前提に行動していることを公言する。自分なりの理由と必要があり、この挙に出ているが、できれば人殺しはしたくないとも言う。
午前11時過ぎに東京地裁に着いた警視庁の高東柊作が現場の指揮を執り始める。高東は刑事部捜査第一課特殊捜査第一係。柴咲に対する交渉人の役割を担っていく。
柴咲は、警視庁に命令書を送信していた。
1.柴咲が現住所に設置した爆弾の速やかな確認。
2.104号法廷への踏み入り厳禁。無用なコンタクトはなし。館内を無人に。
3.104号法廷の弁護人席側出入口を封鎖してはならない。
4.指定URLの配信サイトの維持・死守。配信サイトは制限なしで公開。
同時視聴者数は1万人を超えること。
5.指示はビデオ通信によってのみ行う。担当者一人を指定のURLにアクセスさせ
常時待機させること。
等がその内容だった。法廷が占拠された中での高東と柴咲との間の交渉プロセスが公開された状態で進行することになる。
柴咲は、高東に己の計画シナリオに沿って、順次要求を突き付けていく。
高東に課せられた最優先任務は人質の救出である。速やかに救出するために、どのように柴咲と交渉していくか。一番の気がかりは柴咲の手許にある爆弾が本物なのかどうか。
つまり、ネット配信という衆人環視のもとで、困難な交渉ゲームが進展していく。
メイン・ストーリーは、この交渉プロセスの描写ということになる。そこが読ませどころとなる。複数のサブ・ストーリーは、高東の指示を受けて、パラレルに捜査活動に従事する刑事たちの行動となる。
捕まることを前提にしたうえで、周到な計画とシナリオを持つ柴咲の行動。だがその意図と目的が何なのかは全くわからない。そんな中で、高東と柴咲の交渉が始まる。読者はいわばネット配信の内容を見守る視聴者と同じ立ち位置に置かれる。相違点は、警視庁側が事件解決を目指す状況について高東をキーパーソンとして知ることができることである。混迷する警察側の状況を知ることはできる。それは、このストーリーに引き込まれていく周辺情報をふんだんに知りうることを意味する。
勿論、柴咲はこの法廷内で己が逮捕される気はない。では、どうするのか・・・・。読者にとっては、興味津々となる課題である。
ここで一人、特異な男が高東の交渉に関わってくる。爆弾(スズキ)事件以降事実上の謹慎処分として、特殊班係の遊軍となっている五係の類家である。彼は、プロファイリングを命じられたということで、高東が拠点とする指揮車に乗り込んできた。高東は、後輩の類家に反発を抱き邪魔者意識を持つ。だが、類家の思考と分析、その推論と見解を、徐々に考慮に入れる形に意識を変化させていく。類家のキャラクターがおもしろい。
大きな骨壺を被害者遺族が法廷内に持ち込めたということが、この法廷占拠の大前提になっている。この持ち込みが成立しないなら、この法廷占拠のストーリーは全くの絵空事になる。だが、そういうケースがありうるなら・・・・このストーリーは単なるフィクションですまされない側面が可能性として残る。
大前提をひとまず受け入れると、このフィクションのストーリー展開、引き込まれていくこと間違いなしである。
読み終えてから、各所に巧妙な伏線が敷かれていたことに気づいた。後知恵に終わったことが残念である。
少なくとも、爆弾シリーズの第3弾はいずれ刊行されると推測する。期待したい。
これ以上は、ネタバレに連なっていくので、やめておこう。
ご一読ありがとうございます。
こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『白い衝動』 講談社
『爆弾』 講談社