遊心逍遙記その2

ブログ「遊心逍遙記」から心機一転して、「遊心逍遙記その2」を開設します。主に読後印象記をまとめていきます。

『Dr.インクの星空キネマ』 絵と文 にしのあきひろ   幻冬舎

2023-10-04 09:46:20 | 諸作家作品
 地元の図書館の本紹介コーナーに立てかけた形で置かれていたこの本の表紙が目に止まった。モノクロで細密な描写、かつクラゲ様の物体が大空に昇るシュールな感じの表紙絵に惹かれて手に取った。絵本だった。絵を眺めてみるつもりで借り出した。2009年1月に刊行されている。借りたのは同年2月刊の第4刷。

 「グッドモーニング・ジョー」「赤いはしご」「ドンドコ山のバケモノ」「Dr.インク」の4つの話が収録されている。本書の構成スタイルは見開きの右ページが黒地に白抜き文字で文が記され、左ページ全面に絵が描かれている。モノクロの絵。

 この絵本、ページ一杯にモノクロで非常に細密にシュールな絵が描き込まれている。細部を見ていくと、様々なものが渾然と描き込まれていて、現実的で合理的な解釈はできそうにない。だから非現実的、シュールである。もともと、夢の中の世界を絵にしているようである。非現実であっていっこうに構わない。絵の中の細部の要素から、このお話を聞く子供の思い思いのイメージが膨らんでいくことだろう。
 文中の漢字にはルビが振られている。文は小学生なら高学年向きと思う。低学年の子にはちょっと難しい語彙が含まれている。存在、無愛想、瞬間、開発、天変地異、活躍、作業、退治、確実、脚本、専用、配達、違和感、共通、犯罪、回復、決意など。また、コーディネーターという語句も使われている。親が読み聞かせ、子が絵を眺めながら聞く。子供がそれどういう意味?と親に尋ね、親が子にわかりやすく説明する。そんな中でこの絵本のページが繰られていくなら、繰り返し読まれるうちに絵と文とがつながり、想像の世界が広がっていくことだろう。

 4つの話は独立している。一方で連環している。そんな印象。夢のつながり・・・・。

 「グッドモーニング・ジョー」には、丘の上の古い天文台に住む銀歯のおじいさんが登場する。おじいさんの名がグッドモーニング・ジョー。夜の天文観測にグッドモーニングとはジョークなのか? おもしろいネーミング。そこに少年ケンヂが訪れるというお話。おじいさんは特別な望遠鏡を操り、自由に星を動かせるとやってみせる。星空コーディネーターと自称する。ケンヂはおじいさんと親しくなるが、楽しい日々は長く続かず、グッドモーニング・ジョーは病院に運ばれて息をひきとる。ゲンヂは大空に、銀色の星を見つける。それがジョーだとわかった。
 おじいさんのやることを読んで、絵をみていると、コーディネーターの意味がおのずとわかる。

 「赤いはしご」は「ミル・フィユ」という名の小さな星で長年ハシゴ屋をやっているトキオ・ジェイコブという男が主人公。赤いハシゴを作り続けてきたのだが。リフトが開発されたことで、赤いハシゴが売れなくなる。
 青い星が流れてきて目の前の空で止まった。その青い星に行ってみたいと思ったトキオは、倉の山積みの赤いハシゴを引っ張り出して、つないで組み立て、青い星にハシゴをかけようとするお話。青い星は地球(たぶん)として描かれている
 赤いハシゴは青い星にかけられた。この赤いハシゴ見たさに人が集まり、大きな街ができることに・・・・。トキオの青い星にかけた赤いハシゴは、東京タワー様のイメージで描かれている。これも一つの夢物語。

 「ドンドコ山のバケモノ」は、ある星のある村のはずれにあるドンドコ山に棲む恐ろしいバケモノ「ヤク」が主人公になるお話。そのヤクがある時から太鼓を大きな音でたたくようになり村人が迷惑する。ヤク退治に出かけた人々は、皆ヤクに食べられてしまう。
 ある日、村へ向かうひとりの少女が、あやまってドンドコ山に迷い込んでしまい、ヤクに出会う。少女はヤクを怖がらない。村に届け物があり、日が暮れるまでに村に行きたいと話をする。ヤクは少女を村に行かせるために太鼓をたたくと約束する。少女が村に無事たどり着くまで、ヤクが約束を果たす行動が語られていく。約束を果たしたヤクは死に、村は靜になる。
 
 「Dr.インク」は、世界中の人々が毎晩見る夢を書く脚本家として登場する。
   「眠ると夢が始まります。
    自分の意思とは関係なく、夢の中のお話は進みます。
    では、その夢のお話は、
    いったい誰が作っているのでしょうか」    という文からはじまる。
 つまり、夢を作っているのがDr.インクというわけ。
 このDr.インクには、「マルタ・サンポーニャ」という、たくさんのアシスタントがいて、Dr,インクの書き上げた夢の脚本を眠りに入った人々に運ぶ仕事を担う。
 この絵本を眺めていて気づいた。「ドンドコ山のバケモノ」に出てくる少女はサンポーニャの一人なのだと。
 ある日、Dr.インクが体を壊したことがきっかけとなる。「流れ星に3回お願いしたら、願いがかなうって聞いたことがある」というひとりの発言から、サンポーニャたちは、流れ星に願いをしようとする。流れ星が早すぎて、3回の願いができない。そこで、流れ星を操れる人、星空コーディネーターのグッドモーニング・ジョーにサンポーニャたちは頼みに行くことにする。ひとりのサンポーニャがグッドモーニング・ジョーの棲む星に走る。途中で、赤いハシゴをつなぐトキオに出会い、勇気づけられる。もちろん、グッドモーニング・ジョーは協力を約束した。
 Dr.インクは元気を取り戻し、夢の脚本作りを再開するというお話。

 「星空キネマ」って、たぶん夢をさすのだろう。Dr.インクは夢の脚本家なのだから。
 この4つの話は、サンポーニャを仲介にして、リンクしていく。
 「グッドモーニング・ジョー」のお話のどこかの行間に、「Dr.インク」の話が入る形になるようだ。絵にはケンヂも描かれているから。また夢の脚本をサンポーニャであるひとりの少女が村に「届け物」を届けるという形で登場し、ヤクと関わる。「ドンドコ山のバケモノ」にリンクする。「赤いハシゴ」のトキオは、「Dr.インク」お話自体の中に登場する場面がで既にある。その接点でリンクしている。

 とまあ、連環したお話の絵本である。シュールな絵に満たされた絵本だが、読み進めて行き、絵を眺めていると、そこには、あたたかみとかなしみ、きみょうさとおかしさがあふれている。

 「あとがき」を読むと、著者が子供の頃に毎晩いろんな夢をみたという体験が絵本創作のネタになっているようだ。自分が「そこで見る夢は自分の意思とは関係なく物語が進みます」ということから、「きっと誰かが考えてくれてるんや」と思ったそうだ。著者が出した一つの答えが、この絵本。Dr.インクという主人公を生み出した。

 著者は記す。「子供に質問された時に、素敵な作り話を添えて答えてあげられる大人でありたいと思います」と。

 この絵本を読み終えてから、著者略歴を読んで、えっ!と思った。
 著者にしのあきひろは、梶原雄太さんと漫才コンビ「キングコング」を結成した西野亮廣さんだった。絵本としては今作が初の著書だそうである。知らなかった!!!

 ご一読ありがとうございます。

補遺
西野亮廣の公式ブログ
西野亮廣ブログ by Ameba
西野亮廣   :ウィキペディア
“西野 亮廣”の紙の本一覧 :「honto」

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