K君の痕跡。
ベットから起きられなくなってから、身の回りの物を全部自分の手の届く範囲に置けるようにしたK君。
いつの間にか、壁掛けポケットは3つになっていた。
ティッシュ、ゴミ袋、絆創膏、耳かき、綿棒、携帯、充電器、ラジオ、イヤホン、ツボ押し、孫の手、懐中電灯、オムツ、ビニール手袋、目薬、肩こりの薬、トローチ、お茶、お菓子、お気に入りの万年筆、お気に入りの手帳、お財布、ゲーム機、アイマスク、ウェットティッシュ、消毒のアルコールスプレー、私が入院中に買ってあげた万華鏡、電卓、物差し、筆記用具、いつも料理番組を見てレシピをメモしていたノート、ハサミ、扇子。
よくベッドの下に物を落として、私に「取って~」と言っていたけど、あまりに何回も落とすから「また?」なんてめんどくさがったことがあったから…
いつの日からか、ハサミとか孫の手とか、よく使って落とすものには、洗濯ばさみでロープがくっつけてあって、寝たまま自分で拾えるようにしてあった。
まわりに迷惑かけないように、出来る限り自分で何でもしようとしていたK君。
トイレも歯磨きもひげそりもがんばってがんばってがんばって…。
そんながんばっていたK君の痕跡。
何でもこのベッドの横の壁にうまくおさまっているから、「新幹線の車内販売のワゴンみたいだね~」なんて笑ったね。
クラフトホリックのいぬ君のティッシュケースの足の手触りが気持ちいいって、いつも牛の乳搾りみたいに触っていたね。
いぬ君の背中にトイレットペーパーを背負わせるみたいにして「見てみて、二宮金次郎!」なんて笑っていたね。
トナカイくんのマスコットも、いつもポケットからのぞいてたんだよね。
いつもいつも、ふたりで笑っていようとしてたよね。
だからわたし、今もK君の写真にばかみたいなこと言って、ひとりで笑っているよ。
K君は笑っているのが好きなんだもんね。
1か月以上、大事にしてきたこのK君の痕跡も、引越のために少しずつ、外していかないといけない時がきたよ。
でも引っ越したらまたベッドの横にこのポケットつけようかと思っているよ。