生前、おやじの口癖。
「一流を持て、二流で妥協するな。二流しか持てないなら持つな。二流を持てば二流どまりの人間になる。」
太平洋戦争で死線をさまよい高度経済成長で死に物狂いに働いた人だ。
競争、競争。生きるか死ぬか、勝つか負けるかの世界で、もがいて生きもがいて死んだ。
ただ、自分の人生観を周囲に押し付けてもらっては困る。僕はずっと思っていた。
「俺は二流でも三流でもいいよ。指図するな。」と。
ところが、環境のせいか遺伝のせいか。ぼくは、無意識に妥協を嫌う性格に育った。しかも僕は吝嗇である。
要するにケチであるから、一枚の半纏も30年着た。
福岡県南部に羽犬塚(はいぬづか、発音はハインツカ)という町がある。小さいころおやじのバイクに乗せられてこの町を通った。
「あそこの宮田織物ちゃあよか工場ぞ。(宮田織物は優れた工場だ)」と言っていた。
今回ついに限界が来て買い替えたのが宮田織物の半纏(はんてん)。福岡では丹前(たんぜん)という。
最初に買うときは決心が要った。貧血を起こしそうに高かったから。だが、昨日買い替えるときは迷わず買った。30年間綿がよれることなく、縫製が痛むこともなかった。が、さすがに生地がうすくなった。
冬が楽しみな綿入れ丹前。
一流だ。
宮田織物が全国ブランドになってとても気分がよい。10年着ないと本当の違いは分からない。ちゃんと見分ける目を持った人がいるということ。さすが日本。
一流品はメーカーだけでは存在できない。ちゃんと買う人がいて成り立つ。
十倍の価格だが、百倍素敵だ。メーカーの良心と信念、顧客の満足と信頼。両者はガッチリ手を組んでいる。中華が付け入るスキは全くない。