趣味人にとっては、垂涎のとか、幻のとか、究極のとか、…とにかくその趣味の世界の中でも逸品というものが存在する。その趣味人、通常の反論のたぐいは聞き飽きてまともにとりあおうとはしない。
「どうせおまいらには分からんよ。」
どうしてこんな古臭いもの、実用にならないもの、大きくて重たくてダサくて…、とにかく信じられない、どこがいいのか、しかも気絶しそうな価格。しかもそんなガラクタ、一個二個なら我慢してやるが、どうして何個も買いあさるんだ。…と、とくに女房達には信じられないことのようだ。
「そんな言うなよ。これはコールマンのビンテージモノなんだ。」
「だから一個あればいいでしょ。とにかく部屋の中で火を扱わないで。ガソリンの臭いがいつまでも残るから。」
好きに理由はないと言いつつも、人の楽しみに対し無理解な発言が続くとつい、うんちくを語りたくなる。
それがまた女房にはイラっと来るのだ。
「じゃあ鏡台の化粧品の山は何だ。」と反論したくなるが言わない。我慢。
なぜ我慢して、罵詈雑言に耐えるのか。なぜ我慢? 反論しても勝ち目はないから。
ランタン大好きの本人も本当のところはよくわからない。「とにかく素敵じゃないか。この明かりの色を、揺らぎを、音を、聞けよ。」なあんてこと、言っても相手に通じるはずはない。
じゃなぜLEDじゃあだめなのか、電池じゃダメなの、と反論されても、
「せいぜい譲歩してもLPGだな。」これも言ったらおしまい。じっと心でつぶやく。
ぼくは、このごろ一人キャンプに凝りだしてコールマン、スベア、ホエブス、ラジュース、プリムス…のコレクターの気分がわかりだした。
ぼくも我慢の子でいなければならない。
カネをためてGSを買ったとき、190Eに乗ったとき、4万の月給で18万のF2を買いシャッターを押したとき、人生を登っている実感がした。そしてぼくのGSは、F2は、確実にぼくを上品なやさしさで包んでくれた。
そんな仲間を集めないわけにはいかないだろ。