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「国防省はその事件にはまったく関心がない」
もし本当に英国防省が無関心だとするなら、テロリストとか敵のスパイは心置きなく(スタジアムで使うような)人工照明を使って軍事施設を脅かせることになる。
また別な回答にはこうあった。
「ホルト中佐のメモランダム以外には何も所持していない。だからそれ以外のことは知らない」
だが興味深いことに、これを回答したまさにその同じ部署が、中佐のメモランダム公表以前の約三年間は、そのメモランダム報告書の存在すら否定していたのだ。
中佐のメモランダムが公表されると、英米の新聞に反応が現れた。
大半の記事は、その間に広まった噂、つまり「軍関係者はレンドルシャムの森で、小柄でグレイの地球外生命体とコンタクトしていた」とする噂を掲載していた。
1995年8月、イギリスUFO研究協会(BUFORA)の第8回国際会議がシェフィールドで開かれて、その席上、UFO研究家のピーター・ロビンズが軍側の証人ラリー・ウォーレン(当初、仮名アート・ウォーレス)を紹介した。
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その場でウォーレンは、自分をはじめとして兵隊たちが森のなかへ入っていった模様を報告した。
要約するとこうなる。
「われわれは一つの球体が爆発しているのを見た。またそれとは別に、一つの円盤が森のなかの空き地の上空に浮かんでいて、周囲を軍人たちが取り巻いていた。私は気絶した。意識が回復してみると、私は汚れたブーツを履いて、板張り寝台に横になっていた」
ウォーレンはそののち逆行催眠を受けて、こう述べた。
「その円盤から出ている一本の光線を伝って、小柄でグレイの生命体が何人も出てきて、基地司令官ウィリアムズ将軍に近づいていった。将軍もコンタクトを希望していたのだ」
ひどく不気味なこの第三種UFO近距離遭遇の噂は、すぐさまUFO否定論者たちの耳に入り、分析が始まった。
イギリスのUFO否定論者で宇宙ジャーナリストのイアン・リドパースはテレビ・ドキュメンタリー番組のなかでこう主張した。
「兵士たちはオーフォード岬の灯台の明かりをUFOと見まちがえたのだ。地面の圧迫痕はウサギがつけたのだろう。そして放射能値は、ふだんでもその一帯は数値が高いのだろう。樹木の傷は木こりの目印だろう。また、その後何日か続いた光の現象は隕石だろう」
だがリドパースは、森のなかに表面が金属的な物体があったとするホルト中佐のメモランダムには詳しく触れなかった。
タイムズ紙などの新聞は、このリドパースの説明に満足の意を表明した。
一方、アメリカのUFO否定論者フィリップ・クラスは、こう主張した。
「兵士たちが目撃したのは、一九八〇年一二月二六日にイギリス上空で燃えながら墜落していったソ連の衛星、コスモス746号の破片だ」
またほかにもF-117ステルス戦闘機が緊急着陸したとか、無人の原子力推進の試験機が墜落したとか、空軍がUFO目
撃をでっち上げて、それまでの飛行機関連の失敗をもみ消そうとしたとかいう説も浮上した。
だがこうした解釈はどれもこれも、ホルト中佐のメモランダムに記載の事実を十分解明してはくれない。
UFO事件の場合には往々にして、「ありえないことは、あってはならない。したがってそれは自然現象でなければならない!」という結論になりがちだ。
事件調査はまだ終了したとは言えない。
1984年1月、UFO研究家ランドルスはドナルド・モアランド少佐の口から「ホルト中佐のその録音テープは1981年以降、存在していた」ときいたが、イギリス国防省はもちろん、そうした録音テープの存在を否定した。
しかし1984年7月、ベントウォーターズ基地の元司令官サム・モーガン大佐が、アメリカ国内の基地に転任になり、みずからテープ所持を肯定しただけでなく、そのテープをダビングしてランドルスとストリートに送付してきたのである。
同テープに録音されていた時間はトータルで約18分だったが、録音開始から終了までに3時間以上が経過していた。テープの3分の2は着陸痕の調査、残り3分の1は兵士たちの証言だったが、目撃者の何人かは「あの夜間捜索ではもっと長い間録音がおこなわれた」と言っている。
UFO研究センター(CUFOS)からの依頼でテープ分析をおこなった無線技師のロバート・H・コディントンは、「最後の3分の1の録音は、前のほうと質的に差がある。
ダビングの際に何らかの操作がなされたのかもしれない」と言った。
いずれにせよ、そのダビングテープが当夜の目撃全体をカバーしてはいないことは確かである。
事件に関与した兵士のうち何人かは、UFO撮影はムービービデオと写真カメラでおこなわれたと主張しているし、ホルト中佐もその双方でなされたと言っている。だがそうした重要な証拠は、もし存在しているとしても、アメリカ政府からまだ存在を確認されていない。
証人の大半は、フィルム一本が撮影されたことを否定していないが、真相究明に多大な貢献をするにちがいないそのフィルムが、いまどこにあるのか、そしてなぜ隠されているのかは疑問のままである。
※『UFO あなたは否定できるか』(ヘルムート・ラマー/オリヴァー・ジドラ著、畔上司訳、文藝春秋)第七章より抜粋