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ホルト中佐は部下を引き連れ森に捜索に入った。
その際、テープレコーダーを携帯して出動したが、それで現場の状況を録音していたという噂は以前からあった。
記者らの取材に対し、ホルト中佐は「確かに録音はした。しかしテープは既に消去しており、この世に存在しない」と言い張った。
イギリスの弁護士、ハリー・ハリス氏はUFO研究家からの依頼で極秘にこの調査を進め、このテープをサム・モーガン大佐という人物が所有している事を突き止めた。
モーガン大佐は、このテープはホルト中佐から貰ったと言い、快くハリス氏に提供したという。
モーガン大佐は、「UFO」なるものや、レンデルシャムの森で起きた事件など、ハッキリ言って興味が無かったのかもしれない。
更に言えば、このテープの内容は、国防上なんの脅威もないと判断し、無用のものだとして譲った可能性もある。
消去され存在しないと言われていたテープが出てきたのだ。
※ここからは、『UFO あなたは否定できるか』(ヘルムート・ラマー/オリヴァー・ジドラ著、畔上司訳、文藝春秋)第七章より。
ではここで、ホルト中佐のテープ録音から少し抜粋してみよう。
なお、この記録はまだ全部が公開されているわけではない。
ホルト氏によると、テープは10分しか録音できないため、重要と思われる部分のみ録音したという。
「ただいま13時48分。農家の家畜小屋で動物が妙な音をたてている。えらく動いて大騒ぎしている」
「あっ、色が」
「光を見たのか? どこだ? 待て、ゆっくり降ろして。どこだ?」
「右手です。ちょうど樹木のあいだで浮いてます。ほら、また現れた」
「私の信号灯の真上です。ほら、サー、あそこにいます」
「ああ、私にも見える。何だろう?」
「分かりません、サー」
「あっ、小さくて赤い光。奇妙です。肉眼ではまるで半マイル先にあるように見えます。光が消えた。ここから120度のところにあったんですが」
「また現れた」
「ええ、サー」
「おい、みんな、信号灯を小さくしろ。さっきの空き地まで戻るぞ。あそこのほうがよく見えるだろう。望遠鏡を合わせられるか? 見てみろ」
各種の測定をした結果、星でないことが判明。
「はい、サー、星ではありません」
「星じゃない?」
「きっと地面から浮かんで移動できる物体でしょう。最初に見た光は135ないし180メートル離れてました。シーンと静かです。まちがいなくあります、赤く輝く奇妙な光が前方にあります」
「ああ、でも黄色だぞ」
「ええ、黄色っぽいところも見えました。不気味です。こっちに動いてくるようです。前より明るくなりました。こっちへ来ます。いくつか小さなものが飛び出しました。まちがいなくあります。不気味です」
「光は二つです、一つは右側、一つは左側」
「オーケー、明かりを消せ。いまとても、とても奇妙なことが起こっている」
その後、再び各種の測定。そして不意に、
「小さいのがいくつか飛び出したぞ」
「いま、本体が右に移動してます」
「ああ、妙だ。森のきわへ行こう。明かりがなくても大丈夫か? 慎重に歩け。ほら、行くぞ。オーケー、あれを見るんだ。ここから2~300メートル離れてる。
まるで目くばせしているみたいだ。場所を次々に移動している。望遠鏡の照準を合わせると、あれの中心はからっぽみたいだ、まん中が暗くなっている。瞳でこっちを見つめているみたいだ。点滅してる。望遠鏡で見ると、まぶしすぎて目が痛い」
あの農家の、二つ目の畑だ。いま再び約110度にあれが見える。今度は川の手前にいるみたいだ。地上すれすれをちょっとだけ動いて、ときどきパッと赤くきらめく。畑のまん中では何も感知できなかったが、いまは四つから五つ、かすかなシグナルが入っている」
「ただいま3時05分。奇妙な閃光が見える。あちこちに点在している。何かがあることはまちがいない」
「ただいま3時05分。さっきから奇妙な物体二つが、北約10度の地平線上に見えている。半月形で、揺れている。まわりにいろいろな色の光が見える。たぶんここから8~10キロの地点だ。いま半月形から輪に変わった。楕円形に見える。1~2分で変わった」
「ただいま3時15分。物体一つを南の方角、地平線から0度上、距離16キロの地点に発見。北に向かって動いている。離れていく。高速で離れていく」
「右側の一つも離れていきます」
「ええ、二つとも北へ向かっています。あっ、南からやってきます。まっすぐこっちへ向かってきます」
「クソ!」
「一本の光線が地面に向けて放たれているようです。とても現実とは思えません!」
「ただいま3時30分。物体がまだいくつか浮いている。南にいるヤツは落ちてきそうに見える。これから基地に引き返す。あれが、南のヤツがまだ光線を地面に放っている」
「ただいま4時00分。一つの物体がまだウッドブリッジ基地の上空に浮かんでいる。地平線から約5~6度だ。あいかわらず信じがたい動きをしている。前と似た光を下方に放っている」
「われわれはいま農家の近くを通りすぎています。形の似た光が五つ見えます。いまはじっとしているようです。点滅もしませんし、赤くきらめきもしません。われわれはいま小川を渡っています。シグナルを3つ、はっきり受信しました。奇妙な光がいくつか浮いています」
「ただいま2時44分。われわれはいま、農家から遠く離れたところに来た・・・」
ホルト中佐のテープにききとれる感情の起伏は残念ながら文章では表現しにくいが、ともあれ、彼と部下たちがしばしショックを受けていることは分かる。
軍はこのセンセーショナルなUFO事件のもみ消しを図ったが、幸運にもそれは成功しなかった。
UFO研究家ブレンダ・バトラーとドット・ストリートの二人は、事件の数日後に警備兵の一人から連絡を受け、1981年1月に彼から詳細な情報をききだした。
またイギリスのUFO研究家ジェニー・ランドルスは、あるレーダー係員からこの事件をきいた。その係員はランドルスにこう言った。
「アメリカ空軍基地の職員たちは、レーダー記録を調べていました。私は彼らから事件をきいたのです」
そしてランドルスは、バトラーとストリートが警備兵から連絡を受けたと知った。
三人は事件を共同で解明する決心をする。
ほどなくして民間人の目撃者数人から連絡があった。
うち一人はタクシー運転手で、「パニック状態のウシをひきそうになった」と語った。ある農家の人はそのUFOが同日、明るい光を帯びて空に消えていったとき、隣人の助けを借りてウシをつかまえて、なだめる羽目になった。
だがその人は後日、「そんな事件なんてぜんぜん知らないし、何も見なかった」と言い、その直後に、数百キロ離れたところに新たな農場を買い求めて引っ越していった。
研究家数人が1984年に訪問したところ、彼が当時、口止め料をもらったことが判明した。
1982年2月、バトラーとストリートはベントウォーターズ空軍基地にドナルド・モアランド少佐を訪問した。少佐は二人に「自分は大臣の許可がなければあの事件については話せない」と言った。
その後バトラーとストリートは事件をさらに究明すべく、イギリスの大臣数人に電話をしたが、いつも決まって「そんな事件など知らない」と言われた。
その後二人は国防大臣宛に質問状を送る。回答はこうだった。
「今回のご質問につきましては、今後とも助力を惜しみません」
つまりは暖簾に腕押し。
アメリカとちがってイギリスに情報公開法はない。イギリス国防省からの助力は期待できないと判断した二人はその後、関係者の軍人たちから徐々に情報を得ていく。
1983年2月、二人はアメリカで情報公開法に基づく申請をおこない、アメリカ空軍のホルト中佐が書いた注目すべきメモランダムを閲覧する。
『UFO あなたは否定できるか』(ヘルムート・ラマー/オリヴァー・ジドラ著、畔上司訳、文藝春秋)第七章より。