大好きな劇場、三越劇場へ前進座の新作を観に行く。床の傾斜が少なくて、決して観やすい劇場ではないのだが、レトロな昭和の雰囲気がいい。柱、照明、天井、すべてに古雅な品位がある。キャパの大きな劇場ではないから、役者と観客の距離が近いのもいい。
ドラマは宮部みゆき原作の時代物ミステリー。墓地の跡地に建てられた料亭で、成仏できない怨霊たちがいろいろと騒動を起こす。
内容と設定自体は別に時代物にしなくてもいいようなものだが、歌舞伎仕立てにすることによって前進座ならではの味が出る。この劇団は、伝統的様式美と近代リアリズムを共存させることに成功した、唯一無二の存在なのだ。この舞台も女形は出演せず、女性の役をすべて女優が演じるが、違和感はない。
といっても、二日目の午後の回に観たせいか、第1幕はちょっと緊張を欠いてダルかった。この時期の舞台は、どうしても初日の緊張の反動を避けられない。
しかし第2幕、板前の島次が正体を顕す段になって俄然、面白くなった。演じる中嶋宏太郎丈は、オレの推しである。それまで無口だった島次が突如、怨霊の口調でドスを利かすところなど、実にあざやか。宏太郎さん、ステキ。
「おどろ髪」など、イマイチ存在理由のはっきりしないキャラが出てきたりはするが、宮部らしい入り組んだプロットと前進座らしい端役まで均質な演技が楽しめるステージだった。
帰路、渋谷のエル・スールに寄って店主の原田氏と久しぶりにおしゃべり。アーティストの名前がすぐには出てこないトシになったことを確認。