鏡台の前に座って、サクラに変わっていく作業が始まった。
まずスティックファンデーションで髭の剃り後を消した。カバー力の高い油性ファンデーションを毛穴の中まで入り込ませるようにパッテイングをして下地を作っておくのだ。そしてその下地の上にクリームファンデーションを重ねて上品な艶肌に仕上げる。次にパウダリーファンデーションを優しく丁寧にはたいていく。変身中の自分を鏡の中に見ながら無心にファンデーションを塗る瞬間はなんとも言えない幸福感なのだ。しかし、さすがに厚化粧だと自分でも思ってしまう。しかしこれでいいのだ。桔梗の間の中でしかお客と会わないわけで、そして部屋の中は枕元のスタンドライトだけの薄暗さなのだから。
お化粧がここまでくると鏡台の前には佐倉という男はいない。サクラという女に替わっている。
メーキャップパレットを出し、まずは目から仕上げにかかる。アイシャドーとアイラインは濃すぎるくらいにするが、そうしないと暗い照明の下では表情がでない。そしてチークはピンク系を使うことにした。そして口紅もすこし派手めのレッドだ。レッドという色は、化粧品を買ったことのない親父が空港の免税店で娘にお土産で口紅を買うときの定番の色だ。しかし娘は「こんな派手な色なんて、キャバクラ嬢しかつけないわよ」といって全然使わない。
しかし私はキャバクラ嬢よりも堕ちた女装の売春婦に変身しているのだ。こんな自分には派手な赤の口紅がお似合いだ。
リップブラシで唇の形を整え終わったころ、階下からおかあさんの呼ぶ声がした。
「サクラ、いつまでもお化粧しているんだい? もうできたかい。お客さんがお待ちかねよ」
「はーい、すみません」
化粧を終えた私は声までも女の声になっている。私は慌ててウィッグをかぶると、黒のブラとショーツとスリップをつけた。今日はランジェリーは黒と決めていたのだ。ガーターベルトで黒のシーム・ストッキングを吊るした。そして先月、上海に出張した時に買った黒のチャイナドレスに身を包んだ。こういうときは、自分が163cmという小柄なのが役に立っている。女性の9号がぴったりだ。
鏡台のなかにはやり手のエリート役員はいなかった。そこにいるのはこれから男に買われる年増の娼婦だった。
階段を上がってくる音が聞こえると、私は部屋の入り口に正座して、指を畳みにつけてお辞儀の姿勢をとった。
桔梗の間の襖が開いた。
「サクラちゃん、お客さまだよ」
「いらっしゃいませ。サクラと申します」
私はお辞儀をしたまま、ご挨拶をした。
「なんだあ、おばさんじゃねえか。若い子はいねえのかよ」
「ごめんなさいね、今日は金曜日でしょ。若い子はみんな売れちゃってるのよ」
「しかたねぇなぁ」
「その代わりね、この子はね、まだまだおぼこいの。年はそれなりだけど、女装はつい最近だからね。初々しいよ。それに締まりも最高なの」
「そうかあ、締まりがいいのか、このねえちゃんは..」
「それはもう、もちろん。ねっ、サクラちゃん。一生懸命サービスするんだよ」
「は、はい...」
買われるとはこういうこと。私はこの屈辱に身体の奥底がジーンとしてしまった。
まずスティックファンデーションで髭の剃り後を消した。カバー力の高い油性ファンデーションを毛穴の中まで入り込ませるようにパッテイングをして下地を作っておくのだ。そしてその下地の上にクリームファンデーションを重ねて上品な艶肌に仕上げる。次にパウダリーファンデーションを優しく丁寧にはたいていく。変身中の自分を鏡の中に見ながら無心にファンデーションを塗る瞬間はなんとも言えない幸福感なのだ。しかし、さすがに厚化粧だと自分でも思ってしまう。しかしこれでいいのだ。桔梗の間の中でしかお客と会わないわけで、そして部屋の中は枕元のスタンドライトだけの薄暗さなのだから。
お化粧がここまでくると鏡台の前には佐倉という男はいない。サクラという女に替わっている。
メーキャップパレットを出し、まずは目から仕上げにかかる。アイシャドーとアイラインは濃すぎるくらいにするが、そうしないと暗い照明の下では表情がでない。そしてチークはピンク系を使うことにした。そして口紅もすこし派手めのレッドだ。レッドという色は、化粧品を買ったことのない親父が空港の免税店で娘にお土産で口紅を買うときの定番の色だ。しかし娘は「こんな派手な色なんて、キャバクラ嬢しかつけないわよ」といって全然使わない。
しかし私はキャバクラ嬢よりも堕ちた女装の売春婦に変身しているのだ。こんな自分には派手な赤の口紅がお似合いだ。
リップブラシで唇の形を整え終わったころ、階下からおかあさんの呼ぶ声がした。
「サクラ、いつまでもお化粧しているんだい? もうできたかい。お客さんがお待ちかねよ」
「はーい、すみません」
化粧を終えた私は声までも女の声になっている。私は慌ててウィッグをかぶると、黒のブラとショーツとスリップをつけた。今日はランジェリーは黒と決めていたのだ。ガーターベルトで黒のシーム・ストッキングを吊るした。そして先月、上海に出張した時に買った黒のチャイナドレスに身を包んだ。こういうときは、自分が163cmという小柄なのが役に立っている。女性の9号がぴったりだ。
鏡台のなかにはやり手のエリート役員はいなかった。そこにいるのはこれから男に買われる年増の娼婦だった。
階段を上がってくる音が聞こえると、私は部屋の入り口に正座して、指を畳みにつけてお辞儀の姿勢をとった。
桔梗の間の襖が開いた。
「サクラちゃん、お客さまだよ」
「いらっしゃいませ。サクラと申します」
私はお辞儀をしたまま、ご挨拶をした。
「なんだあ、おばさんじゃねえか。若い子はいねえのかよ」
「ごめんなさいね、今日は金曜日でしょ。若い子はみんな売れちゃってるのよ」
「しかたねぇなぁ」
「その代わりね、この子はね、まだまだおぼこいの。年はそれなりだけど、女装はつい最近だからね。初々しいよ。それに締まりも最高なの」
「そうかあ、締まりがいいのか、このねえちゃんは..」
「それはもう、もちろん。ねっ、サクラちゃん。一生懸命サービスするんだよ」
「は、はい...」
買われるとはこういうこと。私はこの屈辱に身体の奥底がジーンとしてしまった。