夜の空は、もう夏の空になりつつある。
銀座に居ても流れ星を見ることがあるが、ここで30年も稼業を続けていると、いろんな星空を見て来た。
ガキの頃から山や海で遊び呆けて生きて来ると、どうしても気が付けば空に目が行き、昼間ならば雲を追い、空の色を見て、風を感じる癖がついてしまってるし、宵や明けの東西の空にも目が行き、月灯りの夜は夜でぼんやり空を眺めていることが多い。
多くの子供らを育ててきて、みな山や海でそんな話をしてきてるが、覚えておるのかどうか・・・。
オヤジは、変わらずに空を眺めている。
昨夜は、満月のそばに木星がひときわ明るく輝いておった。
今年一番の明るさか・・・。
ならば明日か明後日の夜には、土星も加えて一列に並んでみせる。
みなそれぞれが動いているが、そんな奇遇なことが毎年起こっているのも、太陽系の愉しみではある。
銀座の幼稚園児なんかを、夜の山歩きに連れて行ったりもしてた。
それぞれの母も一緒だったが、ひとりひとりの可愛い頭にプレゼントのヘッドランプを付けてやって、軽く体操をして、さ~、出発だ。
・・・靴の紐はキチンとしめたか?!
・・・は~い!
・・・手足の爪はキチンと切ってきたか?!
・・・は~い!
・・・トイレには行っておいたか?!
・・・は~い!
・・・お腹はすいてないか?!
・・・は~い!
・・・もう歩くのが嫌になってるママの尻を、一発蹴っ飛ばしておいたか?!
大爆笑になって、それぞれが母親の尻を蹴っ飛ばそうとして揉めている。
大笑いしておっても、夜の暗い山道を一列になって歩いてると、だんだんに不安になってくる。
手袋をした手で、木の枝や岩をつかんで、デコボコの山道を進んで行くと、視界のひらけた大岩に辿り着く。
遠くの街の明かりよりも、夜空の星たちのほうが明るく輝いている。
友達が一緒の幼い子供たちは、休憩したくても・・・疲れた・・・とは言わない。
だからなるべく休憩を多くとってやって、山の話や星の話を楽しくしてやる。
・・・さ~、これからは今夜のメイン・イベントだぞ、目を光らせて歩くんだぞ
みな、好奇心と不安が入り混じった目で、いっせいに俺の顔を見る。
俺の頭には、みなよりも強い光を放つヘッドライトがついている。
月灯りの山道は、慣れてるとライトなどない方がよく見えるんだが、不届きな獣もたまにいるから、みなで賑やかに歩いて行く。
・・・ほ~れ、おいでなすったぞ
俺の強いヘッドライトの明かりの照らしてる方角をみながいっせいに見ると、動く目が6つ? 8つ?
・・・きゃ~、あ~~でた~~~
・・・なんだ、ウンチが出たか?
笑いながらも、みながいっせいに俺にしがみついてくる。
・・・ほれほれ、子供の鹿もいるぞ
慣れてくると、子供は大人よりもずんずんと進んで歩くようになり、競って鹿を探そうとする。
山は危険なとこだ、街では考えられないようないろんなアクシデントが起きて当たり前。
しかもお日様はもういない、真っ暗な夜だ、ありもしない話でも、本当の話に聞こえて来る。
そんな怖い話を大声でしながら歩いていると、またみなキチンと一列になってお行儀がよくなる。
みな、中学生や高校生や成人しても、その時のことを鮮明に覚えている。
地球に生きて居る、それをずっと忘れないで、海や山で豊かに遊んで、生きて行って欲しいね。
オジサンはこんな身体になっても、ま~だ小さな子たちを連れて、山や海で遊び呆けているよ。
楽しく遊んで、大笑いするために、人は生まれてきてる。
それを忘れないで欲しいもんだ。