2016.10.23
コスタリカ大使に聴く会
「我が国が原発を使うなどありえない」
「平和憲法を捨てるなんて考えられない」
こう話したのはコスタリカから日本に赴任している女性大使です。ラウラ・エスキベルさん。昨日、彼女を招いてざっくばらんに聴く会を都内で開きました。...
彼女は外交官には珍しいコーヒーの専門家です。最初に彼女がコスタリカ・コーヒーをはじめ、平和憲法などコスタリカの特色を語りました。
「平和憲法を作ったとき『武器をバイオリンに替えよう』と言いました。完全に軍隊をなくしたので、私は生まれてからずっと自分の国で兵士を見たことがありません。コスタリカは九州と四国を合わせたくらいの小さな国ですが、人口480万人の22%、100万人以上が移民です」
僕が少し解説しました。コスタリカ憲法では亡命者は誰でも受け入れると規定していること、隣のニカラグアからやってくる100万人近い経済難民をすべて受け入れていること、難民の子どもたちもコスタリカの税金で教育していることなどです。
そのあと僕が彼女に1時間、質問しました。
――コロンビアやグアテマラなどと比べてコスタリカのコーヒーの質は?
「コーヒーは土壌や気候などで質が決まり、上質のコーヒーはどの国も上質です。でも、平均的なコーヒーとなると断然、コスタリカが上です。それは栽培する人々の質が高いからです。生産する労働者の人権が守られ、賃金がきちんと支払われているからです。みなさんが様々なコーヒーの中でコスタリカのコーヒーを選んで買うことは、人権に連帯することを意味します。日ごろ何を買うかは、その物産の背後にある何を支援するか、につながってくるのです」
おお、早くも含蓄が深い言葉が出てきました。
――エネルギー政策は?
「水力、地熱など自然エネルギーをやっています。2021年には100%、再生可能エネルギーにする計画です。地熱発電では日本の丸紅が協力してくれています」
(僕は1984年にコスタリカを初めて訪れて取材しましたが、すでに地熱発電をしていました。その技術は日本の技術だったのです。日本は、自分の国では自然エネルギーに見向きもしなかったのに、よその国にはずいぶん早くから輸出してきたのです)
――原発に手を出す可能性はありますか?
「我が国が原発を利用するなど、まったくありえません」
――環境政策は?
「森の樹は5年たたないと切ってはならないという法律があります。近く中南米の国で初めて人工衛星を打ちあげますが、その目的の一つは宇宙から森の樹の生態を観察し、どんな種類の樹を植えるのがいいかを知ることです」
――中国の軍拡を理由に日本も軍備増強をしようという声がありますが?
「コスタリカの隣のニカラグアにロシアが戦車を30両送りました。そんな金があれば子どもの教育に回すべきです。ニカラグア軍がつい数年前、コスタリカの国境を侵そうとして紛争になりました。私たちは国際司法裁判所に訴え、つい最近、勝訴の判決を得ました。武器を持っていないことが最も強いのです。武器を持たないからこそ、国際世論は私たちを支持し守ったのです」
ここでまた僕が注釈をしました。ノーベル平和賞を受賞したコスタリカのアリアス元大統領は日本に来てこう語ったのです。「最も良い防衛手段は、防衛手段を持たないことだ」。いい言葉ではありませんか。
――高校の教育の公民の授業で、憲法などはどう習いましたか?
「大切なのは民主主義の教育です。我が国では3歳で投票します。大統領選のたびに小さな子どもが模擬投票をするのです。誰を選ぶべきかを3歳から考えるのです。自分で支持政党を選ぶと選挙運動期間はその政党のカラーのシャツを着て自ら選挙運動に加わります。公民の授業で盛んに行われたのは地域社会に出かけてボランティアをすることでした。こうして政治や社会参加を小さいころから体で学ぶのです」
その後は、会場の皆さんからの質問に答えました。
――コスタリカではトンネルが一つしかなく、山があれば迂回すればいいという考えだそうですが?
「わざわざトンネルを掘って自然を壊す必要はありません。ブラウリオ・カリジョという国立公園に、車で走ると10秒で通過するトンネルがありますが、それがコスタリカにある唯一のトンネルです」
――大使はどうしてコーヒー産業にかかわったのですか?
「大学は法学部でしたが、コーヒー農家の立法を卒論に選びました。それが縁で弁護士になった際にコーヒー生産者の弁護をするようになり、この世界にかかわるようになったのです。コスタリカ・コーヒーへの愛です」
――すべての国がコスタリカのようになってほしい。
「小さな蚊が一匹いるだけでうるさくて夜、眠れないことがあります。コスタリカは小さな国です。小さいからと言って価値がないわけではありません。私たちは小さな蚊になって世界に平和を広めたいと思っています」
ざっと、こんなことで2時間半があっという間に過ぎました。僕はちょっとしゃべりすぎるくらいにしゃべってしまい、反省しています。大使には常識でも、日本では信じられないことが多く、解説を加えないとわかってもらえないと思ったからです。みなさん、もっともっと質問したかったようですが、ともあれ喜んでいただけました。大使が持参してみなさんにふるまったコーヒーもおいしかったし。また、やりたいなあ・・・。
みなさんの地域でも、コスタリカ大使に聴く会を催してはいかがですか。時間があれば行ってくれますよ(たぶん)。来年にはコスタリカ大統領が来日して広島と長崎も訪れるということです。