【福島原発事故】
プラカードを掲げる避難者たち。ある女性は「私たちは崖っぷちに立たされている」と住宅問題への理解を求めた。
民の声新聞 http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/blog-entry-68.htmlより転載
【自主避難者から住まいを奪うな】20万筆の署名を国会議員に提出。「希望する避難者全員に住まいを」~全国の避難者が永田町で連日の訴え
- 2016/10/27
- 07:43
【「避難者は『国内難民』だ」】
いくつもの段ボール箱に入れられた署名が、参議院会館の講堂に駆け付けた国会議員に手渡された。その数、20万筆。避難者の前には、民進党、共産党、社民党、自由党の国会議員がずらりと並んだ。「あと5カ月しかない。そろそろ本気でこの問題に取り組んでくれ」。避難者たちは、そんな想いを込めて国会議員に頭を下げた。
福島瑞穂参院議員(社民党)は言う。「これは、このような集会には来られないけれど、無償提供打ち切りをやめてくれという多くの避難者の想いが込められた署名だ」。そして「いまだに突破出来ていない(打ち切り撤回を勝ち取れていない)事は本当に申し訳ない。国会で政府に質問すると『福島県が決めた事』と答えられてしまうが、何とか、改めて『住宅の無償提供を延長する』という閣議決定をさせたい」とも。菅直人衆院議員(民進党)、森ゆう子参院議員、山本太郎参院議員(自由党)も「力を合わせて前に進みたい」、「全力を挙げて頑張る」、「打ち切りを食い止める」と語った。時間が無い。避難者たちは、今国会での具体的な動きを求めている。
超党派の「子ども・被災者支援議員連盟」会長を務める荒井聡衆院議員(民進党)は「原発事故の避難者は、国際法的には『国内難民』だ」と語る。しかし、国も福島県も「政府の避難指示が出ていない区域に関しては、もはや避難を要する状況に無い」として、福島への帰還を前提に住宅の無償提供を来春で打ち切り。2年間のみの家賃補助を利用した民間賃貸住宅への転居、自己負担での避難先自治体の公営住宅への入居を促している。漂流する〝難民〟をどう救うのか。今こそ政治の力が試される。
住宅問題に取り組んでいる「避難の協同センター」世話人の瀬戸大作さんは、院内集会で「避難者を受け入れている自治体が支援策を用意しているが不十分。収入要件や世帯要件が厳しくて多くの人が公営住宅への応募すら出来ていない」と指摘。「希望する避難者全員に住宅が提供されるよう、今国会で取り上げて欲しい」と訴えた。
本来は下げなくても良い頭を、避難者たちは深々と下げた。次は、託された政治家たちが具体的に動く番だ。
(上)住宅の無償提供継続を求める署名を提出する避難者(奥)と受け取る野党の国会議員(手前)。
(中)集まった署名は約19万3197筆に達した。福島県が設定した打ち切りまで5カ月。国会の素早い対応が求められている
(下)避難者らは院内集会後、参議院会館前でアピール行動。改めて住宅の無償提供継続を訴えた
【新たな支援策は「穴だらけ」】
避難者とて、何もここに来て急に要請行動を始めた訳では無い。全国から永田町に集まっては各省庁の官僚と交渉をし、福島県庁の職員にも、何度となく無償提供打ち切り撤回を求めて来た。複数の国会議員が国会で質問をした。そのたびに国は主体性を放棄して福島県に責任を転嫁し、福島県側も、現実に存在する被曝リスクからは目を逸らしたまま「空間線量が下がった」、「これ以上の無償提供延長は難しい」と繰り返すばかり。一度も避難者の前に顔を出さない内堀雅雄知事の態度に怒った避難者が、アポ無しで福島県庁の知事室に押しかけた事もあった。しかし「いまだ諸要求は実現されないまま」(「原発事故被害者の救済を求める全国運動」の宇野朗子共同代表)。20万筆の署名には、これまでの悔しさも込められているのだ。
福島県伊達市から北海道に避難中の宍戸隆子さんは、「子どもたちは学校を変わりたくないです。ようやくコミュニティを作り上げたところなんですから」とした上で「例えば雇用促進住宅の入居には家賃の3倍の収入が必要で、生活困窮者ほど入居出来ない。母子避難のお母さんが16万円の月収を得るのは難しいです。福島県が打ち出した激変緩和策は穴だらけ。無償提供が続いて欲しい」と訴えた。宍戸さんは打ち切り撤回を訴える一方、避難先の北海道や札幌市に対し、少しでも避難者の負担が軽くなるような支援策を求めて交渉を続けている。
いわき市から愛知県に避難した松山要さんは「夫の現在の勤務先は、避難してから10回目の就職先です。これでやっと生活が安定すると思ったのに…。今の住まいは家賃が10万円。どうやって家賃をねん出すれば良いのか。とても払えません。やむなく家探しをしています」と話した。いわき市では5匹の愛犬と暮らしていたため一緒に避難。現在は3匹になったが、ペットの存在が住まい選びのネックになってしまっているという。
「公営住宅はペット不可。民間賃貸住宅でようやく良い物件が見つかっても、不動産業者に『ペットは2匹まで』と言われてしまう」と松山さん。何も避難先で新たに飼い始めたわけでは無い。それでも、周囲からは「避難者のくせに犬なんか飼って」と冷たい視線を浴びてしまう。「かといって、幼い子どもを連れていわき市に戻ることは出来ません」と無償提供の継続を求めた。
(上)福島県伊達市から北海道に避難した宍戸隆子さん。日弁連の学習会で「福島県が打ち出した激変緩和策は穴だらけ。無償提供が続いて欲しい」と訴えた
(下)松山要さんは、いわき市から愛知県に愛犬たちと共に避難。「どうやって家賃をねん出すれば良いのか」と話した
【「住まいを何度も奪うな」】
衆議院会館で開かれた日弁連の院内学習会では、今年7月に関東弁護士会連合会が行った「一斉電話相談ウイーク」の結果が報告された。
寄せられた相談は91件。福島県からの相談が37件と最も多かったが、北海道から沖縄県まで広範囲にわたった。相談内容は「住宅打ち切りの問題」が最多で32件。次いで「避難費用」が29件だったが、葦名ゆき弁護士(静岡弁護士会)は「家賃や転居費用など、避難費用も結局は住宅問題と関わっている」と分析。避難者にとって住宅問題がいかに喫緊の課題であるかがうかがえる。さらに、福島県の〝新たな支援策〟を知らない避難者がいたり、避難先の自治体によって独自の支援策を打ち出していないケースもあり「情報格差、地域格差が激しい」と葦名弁護士。「寄せられた相談は氷山の一角だと思っている」と、改めて避難者に対する住宅の無償提供継続を求めた。
席上、いわき市から都内に家族で避難している鴨下祐也さんは「打ち切りは、貧弱なひもがプツンと切れるようなもの。住宅を何度も奪わないで欲しい。日弁連も『避難者を今の住まいから追い出さない』ということに取り組んで欲しい」と訴えた。大阪から何度も永田町に足を運んでいる森松明希子さん(郡山市から避難中)も「誰が好き好んで逃げ出すと思いますか?命や健康よりも優先して守られるべきものなど無い。被曝を直視しないで住宅問題は解決できない。自分の事として考えて欲しい。避難を続けさせてください、というそれだけなんです」と力強く語った。
署名提出を終え、福島県郡山市から静岡県に避難中の長谷川克己さんは「日本政府は、私たちから福島での住み慣れた生活を奪ったことだけでは事足りず、今度は避難先での住まいを奪おうとしている。東京五輪を成功させ、国内外に原発の安全性を訴え再稼働を行うには、原発事故避難者という存在は消えて無くなってもらいたいということなのでしょう」と語った。
原発事故も汚染も避難の合理性も消されてたまるか、と避難者たちは声をあげ続ける。時間は無い。だが「あきらめない」と訴え続ける。被曝リスクを避ける「避難の権利」はイデオロギーでは無い。基本的人権だからだ。