(庭の花摘みに使っている花籠 清朝時代)
駅前の書店をふらついていて、「小屋」と言う雑誌が目についた。
他にも「男の隠れ家」とか「小さな家」とか、昔で言えば草庵の隠棲に近いような本が各種並んでいる。
スローライフも田舎暮しも以前からあるが、それより一層コンパクトな暮し方だ。
小屋の一人かせいぜい二人しか入れない空間は、敢えて世俗から孤絶したい時の隠棲所と言った趣きだ。
ただ残念ながらそれらは深い哲理がある物ではなく、いずれもレジャー感覚の手軽さを免れていない。
(客間に置いている明治時代の茶箪笥)
コンパクトな暮しを極限まで突き詰めたのが、我が国では侘茶の茶室だろう。
2〜3畳の茶室と水屋だけの草庵に日本の美意識を凝縮した空間は、日本の気候風土の中で研ぎ澄まされて来た深さと重みがある。
私も今の生活の諸々を切り捨ててそんな庵で暮らしたいと思う。
現代の生活様式や先述の雑誌類に欠けているのは、伝統的な暮しの中で研ぎ澄まされて来た重厚な美意識だろう。
父祖重代に及ぶ風土に適した生活の中での、思想哲学の蓄積と言い換えても良い。
残念ながら現代日本人は戦後の生活の洋風化で、その殆どを棄ててしまった。
(画室の絵具をしまっている水屋箪笥 江戸時代)
明治大正頃までの古美術品とまでは行かない古道具類や和装の装飾品などはどんどん捨てられ、ヨーロッパのアンティークは喜んで買い込むのが今の日本人だ。
我家は古い家具や道具を色々使っているが、例によってネットのお陰で明治時代以降の物なら安価で容易に手に入る。
若い人達も洋風の家の中の一角でも良いから、日本の風土と伝統の美意識に則した家具調度品を据えて、暮しの哲理を考え直して見るのも良いと思う。
上記の小屋作りもスローライフも大いに賛成するが、そこに精神的な重厚さを加えたいなら断固古道具をおすすめする。
©️甲士三郎