今「天上の花」と言う詩人の三好達治を主人公にした映画が上映されている。
原作者は萩原葉子、萩原朔太郎の娘さんだ。
PVを見た限り実に美しい映像で、ネットで見られるようになるのが待ち遠しい。
彼の代表作「太郎を眠らせ〜」を知っている人も多いだろう。
三好達治の「朝菜集」は戦前の日本の詩人達の試行錯誤の歴史が、この一冊に凝縮されているような詩集だ。
(朝菜集 初版 三好達治)
三好達治は若い頃から萩原朔太郎に師事し終生兄とも慕い、また朔太郎の妹に恋をした。
写真の「朝菜集」は朔太郎が亡くなったすぐ後に出され、その中の亡き師を悼む詩がまた朔太郎調の口語自由詩で書かれた絶唱だ。
この詩を悲壮なオルガン曲でも聴きながら読めば、彼らの時代の光が甦って来よう。
あまり目立たないが良く読めば技術的にもかなり高度な物がある。
師弟二人の詩集を銀杏散る庭で読み比べてみた。
(蝶を夢む 初版 萩原朔太郎 花筐 初版 三好達治)
萩原朔太郎の詩集の初版本はみな高価で、「月に吠える」などはとても隠者の手の出せる価格では無い。
この「蝶を夢む」は彼の詩集の中ではやや明るめで読み易く、小品集だからか運良く手頃な価格で入手出来た。
普段の朔太郎は酒に溺れた自堕落な暮らし振りで、雪道の電柱に酔い潰れているのを小さな娘さんが見つけて連れ帰るような事も度々あったそうだ。
一方の三好達治は剣道の段位持ちで常に端然として、三島由紀夫が文壇一の剛の者と褒め称えている。
「花筐」は達治が戦時中に花の習作を試みた1冊で、観念的な口語詩から具象へ戻りその高雅な詩風は戦後すぐの「故郷の花」に続いて行く。
「艸千里」は昔の国語教科書にも載っていた名作。
(艸千里 一點鐘 初版 三好達治)
三好達治は戦中戦後に初期の口語自由詩から文語詩に回帰しており、私は最近遅ればせながらその価値を見直した。
この「艸千里」はその文語回帰の最初の句集だ。
一部口語体も残ってはいるものの、次に出た「一點鍾」以降文語詩の割合は更に高くなって行く。
三好達治こそは戦後昭和の日本文化の衰退と生活の欧米化の中で、格調高い文語を駆使し得た最後の抒情詩人だった。
映画「天上の花」にはスキャンダラスな演出もあると聞いたが、詩から窺える彼の美しき想いを汚していないよう祈るばかりだ。
©️甲士三郎