鎌倉の山の辺には放置されている空地や荒地が結構ある。
我が谷戸の奥の登山道手前の荒地は、殊に隠者の散歩には欠かせない小さな楽園だ。
ここは元々結構な御屋敷だったのが、相続問題で数十年も放置されているようだ。
半分山林に飲み込まれたような庭園跡の花々が盛んな生命力で生い茂り、壮絶な景が見られる。
長い不況の為か最近は他にもこんな空地が結構多い。
鎌倉は建設の際に発掘調査が義務付けられていて数年かかる事もあり、その間に草木が茂って空地と言うより荒地の様相を呈する。
元の住人が植えていた花などが乱れ咲き、隠者好みの美しき荒廃を見せてくれるのだ。
程よく荒れ果てて、異世界への入口と言った趣きのある石段だ。
夏の終りの光が廃れゆく現世を気怠げに照らしている。
この上に建っていた明治〜大正頃の旧家も取り壊されてから十年以上経ち、自然のまま草木が荒れ放題になっている。
私有地なので奥までは入らないが、こういった風情は廃都らしくて良い。
最近は廃墟の美や哀惜の感が世界中で理解されて廃墟写真集も人気だと聞くので、私も同好の士が増えて嬉しく思う。
石段を上がった先にあった建物は跡形も無く山野草に覆われている。
かろうじて残っている旧庭の小径に、百合の精が通せんぼするように咲いている。
私有地なのでこの先には行かないが、奥は茂みが山へ連なっているだけのようだ。
こんな場所こそ隠者が幻視に入るに格好の景である。
ここが古代文明の廃れた暗黒の中世の森で、唯一隠者だけが高度な精神文化を継承して…………
と言った物語がこの荒廃した楽園から始まるかもしれない。
©️甲士三郎