酷暑の最中、我が幽居に合う花がなかなか無い。
向日葵などは明る過ぎて最も隠者に似合わない花だろう。
他家の夏花の咲く庭が羨ましい。
ーーー藪枯し朽戸に絡む捨庭に 蛍袋は夜通し灯るーーー
近くの廃屋の庭に蛍袋が咲いていて、良い花だと思うものの我家には無い。
蛍袋や笹百合は我が荒庭にも植えてあったのだが、家人がばんばん切って駄目にしてしまった。
私にはその怨みが残っていて、今では涼しげな花の対極として生命力旺盛な藪枯しこそ、隠者に相応しい真夏の花と思うようになった。
写真では見え難いが右手前に藪枯しの蔓が盛大に茂り、左には鉄砲百合が咲いている。
真夏の夜の詩は涼趣漂うこの名作。
西條八十の詩集「砂金」に載ったカナリアの歌だ。
この直筆書には展覧会出品作の裏書きがあり、西條八十にしてはかなり丁寧に書いている。
「象牙の舟に金の櫂 月夜の海に〜」と涼しげな調べで、熱帯夜でも飾れる詩歌は希少品だ。
奏楽天は西條八十が生きていた時代の中国の石湾人形。
この詩と夏向きのオルゴールの音色があれば、寝苦しい夜でも安息を得られる。
朝方の散歩路では今、山百合鬼百合があちこちに咲いている。
我が庭には鉄砲百合しか無いが、鬼百合は山際や空地などに自生している。
この写真もまた別の廃屋から溢れ出して咲く鬼百合だ。
何となく坂東武士の魂の色に見えて、向日葵より余程鎌倉の夏に似合っていると思う。
ーーー荒魂を剥きて鬼百合反り返るーーー
「カクヨム」に連載していたライトノベルが完結した。
介護で画業に籠れぬ間に台所で書いた鎌倉文士達の小説で、夏休みにでも御笑覧あれ!
「神聖鎌倉文士伝」 探神院作
https://kakuyomu.jp/works/16817330662945081308
©️甲士三郎