山桜に少し遅れて、染井吉野が一斉に咲き出した。
隠者が長年探していた木花咲耶姫の像が最近やっと入手出来たので、桜に間に合うようにお祀りした次の日に開花だ。
この姫神と共に暮せる春は、幸福感が数段高まる。

(古備前木花咲耶姫像 幕末〜明治時代 土佐派花鳥小屏風 江戸後期)
手に花の枝を抱えているのが木花咲耶姫の特徴である。
姫神が佇む足元に画中の木から花びらが散って、木花咲耶姫の聖なる庭のようだ。
昔から仏像の制作数に比べて神像は1/1000も作られていないので、姫神像を探すのは大変難儀した。
翌朝は2階の窓から見える山の端の桜も咲き揃った。

我が谷戸は花の女神降臨で一夜にして春色が広がり、輝くばかりの楽土に変わった。
窓を開ければ春風が入り込み、鶯や蛾眉鳥が遠近(おちこち)交互に囀っている。
今朝の開花が全て木花咲耶姫の力とは言わないが、姫神と共にこの景を味わえる事で隠者の喜びはより大きくなるのだ。
猫神様も花の女神の庭で嬉々として遊んでいる。

(木彫猫神像 安南? 江戸時代)
本朝には八百万もの神々がいるのだから、猫神様も居るに違いない。
古びた木の彫像は自然の中が良く似合う。
蒲公英は花時も絮になっても、猫が寄り添って絵になる花だ。
今週は桜の取材で句歌に絵に忙しく飛び回る予定で、その計画を考えるだけでもわくわくする。
出来ればその時も、鞄の中で姫神様も御一緒願えれば幸いだ。
©️甲士三郎