ーーー薔薇垣を高く巡らせ家古ぶーーー
鎌倉の我が谷戸には昔から外国人も多く住んでいた影響か、近所のあちこちに薔薇垣の家がある。
今は壊されて少なくなった明治大正頃の洋館の庭は、この時期薔薇の花盛りだったろう。
キリスト教文化圏での薔薇園は神話の失楽園のイメージが重なり、特に英国人のローズガーデンへの憧れは王室から庶民まで強いものがある。

(旧前田侯爵邸の庭園)
鎌倉文学館の薔薇園を鈴木清順調の沈鬱な大正浪漫色に撮ってみた。
100年前はここが文士達のサロンとなっていて、花季の茶会などではさぞ耽美な文芸論が弾んだ事だろう。
子供の頃に読んだ「秘密の花園」は一少女が荒廃した楽園を再建するファンタジーだ。
ミルトンの失楽園と続けて読めば、このファンタジーの価値がわかるだろう。
この初版本を聖遺物として祀るために何とか入手したいのだが、なかなか良いのが見つからない。

(フランシス バーネット 秘密の花園 ターシャ テューダー挿画の英語版と日本語訳本)
人類が楽園追放された後の現代世界でも、美しい花園の夢を見る事が出来るのはこの物語のお陰でもある。
またターシャの作ったガーデンはまさにこの物語を具現した楽園だ。
こちらは現世的で明るい御近所の薔薇垣。

我が谷戸の路地には家屋は立て替えても、蔓薔薇や花木の垣根は昔ながらの物が多く残っている。
薔薇垣の小径を辿って行けば、その奥に失われた洋館が幻視できる気がする。
鎌倉も古く美しい佇まいの家がどんどん壊され、広かった庭も細分化され売られて行く。
我が谷戸の楽園も散歩道もやがて失われ、現代的な普通の住宅地となるのだろうか。
©️甲士三郎