開業60周年を迎えた名古屋の地下鉄。文中の駅とは関係ありません
名古屋市の市営地下鉄が開業60周年を迎え、さまざまなイベントが催されています。
現役時代の通勤だけでなく、現在も週に3~4回は利用する僕。車内広告に目をやり、スマホ族のひとりになるひとときですが、時にはハプニングにも出くわします。もう何年か前のひとコマです。
朝のラッシュが終わり、座席が8割ほど埋まった車内でした。途中から乗ってきた5~6人の大学生グループが、立ったままスポーツバッグを床に置いて談笑しています。
でかくて長身。ひと目で体育会系と分かります。「多分、○○大だな」沿線にある大学を想像しているうちに、僕の乗換駅。座席を立ちドアに向かった時でした。
突然、バタンと音がしました。通路に乗客の1人が倒れています。高齢の女性のようです。
「どうされたのですか?」「大丈夫ですか」。駆け寄り、しゃがみ込んで声を掛ける大学生たち。
「こんな時は、体を動かしたらダメだよ」。中年の女性の声が聞こえます。
大学生たちなら患者をプラットホームへ運び出せそうですが、患者は女性の言葉通りの状態なのでしょう。
電車が止まりました。「自分はどうすればいいのだろう?」
ホームに駅員の姿は確認できません。
同様の思いの人たちでしょう。何人かがドアから出ると、最後尾の車両からホームを見ている車掌に向かって声を上げたり、両手を上げて×印をつくったり・・・。
「電車から離れてください」「危ないですから離れてください」
アナウンスが響きます。でも、誰ひとりホームから離れません。患者は一刻も早い処置が必要なはず。ここは乗換駅なので駅員も比較的多く、手早く対応できる。離れてしまえば動き出すのでは、と思ったからでしょう。
車掌も異変に気付いてくれたようです。
駅長室も画面のホームの様子に事態を判断したのでしょう。アナウンスも止みました。
比較的近かった先頭車両から運転士が走ってきて、患者がいる車両に乗り込みました。「後は私どもでやりますから」。そんな声が聞こえ、僕もその場を離れました。
居合わせた乗客にとって、駅員が見つからなかった場合、他のことができるでしょうか。ホームには緊急連絡の電話もありますが、その時は目に入りませんでした。
車内やホームの非常ボタンを押す方法は、かえって混乱するかも知れません。スマホでの連絡も意外と手間取りそうです。
集改札口の駅員や駅長室に知らせに走るのは――。平常時に探した経験だと、小さな駅では集改札口の駅員が不在のことも。集改札口のマイクに声を掛ける手もありますが、大きな駅で駅長室を探すのは結構大変です。
エスカーターや階段の上り下りなど、モタモタしていれば、患者が救急処置を受けられるのは何駅か先になるでしょう――。
ハプニングのあと、駅員を見つけられなかったことが気になりました。
ラッシュ時を過ぎると、ホーム全体でもあまり見かけないのは限られた駅員ではやむをえないでしょうが、駅員の制服が工夫できないかと思います。
とりわけ夏場の服装。白いワイシャツ姿では、ホームだけでなく階上のコンコースでも、少し離れると大勢の乗客らと見分けるのは容易ではありません。帽子も含めて色やデザインが一目で「あっ、駅員さんだ」と分かるようにすれば、乗客の安心感や親しみも一層増すことでしょう。
「不審物を見かけられましたら・・・」。テロ対策の車内アナウンスを耳にしますが、今回のような時の乗客の対応への呼びかけはありません。
でも、言い換えれば乗客はマニュアルなどなくても、今回のように行動したのです。
大学生たちの素早い動きや、「体を動かしてはダメだよ」と呼びかけた女性の冷静な知識と判断、車掌らに異変を知らせようと行動した人々。
これらのシーンを振り返りながら、乗り換え線ホームへ向かう僕の足取りが軽かったことがよみがえります。