名古屋市南東部の区役所から、一通の封書が届きました。差出人は「区民生活部まちづくり推進室生涯学習担当」とあります。
入っていたのは、この秋の区美術展で僕の絵画に寄せられた「鑑賞者からの応援メッセージ」です。作品への感想や批評、心温まることば、励まし・・・。
ひと足早いクリスマスプレゼントです。
この区のこうした取り組みは、数年前から行われています。
展覧会場に冒頭に掲載したようなタテ10センチ、ヨコ20センチほどの用紙が置いてあり、訪れた人が作品の感想などを書いて帰りに受付で投函します。取り上げた作品名と出品者の氏名は書入れますが、投稿者の名前は必要ありません。
書く、書かないは自由。日本画・洋画・彫刻・工芸・書・写真など、どの部門の、どの作品に対してでも、何枚書いてもかまいません。また、メッセージが審査に影響を及ぼすものではないのは当然です。
投函されたメッセージは、区役所が応募段階で送付を希望していた出品者宛に後日送ってくれるのです。
名古屋市内の16区のうち、どれだけの区がやっているかは知りません。ただ、僕が見に出かける他の区や近郊の市町村展では、この催しを何で知ったかとか、会場で気づいたことを書く用紙を受付で手渡されますが、個々の作品の感想や評価を書く用紙は手にしたことはありません。
入賞者や市長賞の作品に審査員の評が添えられている区美術展はよく見かけます。でも、一般の鑑賞者が賞の有無には関係なく、全作品を対象にして出品者に感想を伝えることは楽しいことだし、出品者にとっても見知らぬ鑑賞者からのメッセージは大変うれしいものです。まさに宝物です。
僕も見知らぬ方の作品を前に、感想を書いて投函しています。
これまでに頂いたメッセージも含めて読み返すと、色合いとか光と陰、塗り重ねなど創作に気を使った部分をほめられ、自信が湧いたのを思い出します。
具象画の僕に、抽象画を試みてはどうか、といった言葉もいただいたことがあります。抽象画は果たせていませんが、構図や彩色が僕にしては随分大胆にできるようになったと思っています。
とはいえ、区役所の担当者とっては展覧会の広報から作品募集・搬入・審査・主な受賞者への連絡・展示・表彰式・展覧会・搬出など一連の作業の他に、このような「鑑賞者からの応援メッセージ」の仕事を加えるのは大変なことだと思います。
会場での用紙の配布や筆記用具の用意、できるだけ座って書けるような配慮。閉幕後には、一番手間がかかるだろう投函されたメッセージの出品者への送付が待っています。展覧会が終われば、その年の展覧会関係の仕事は全て終わり、というわけではないのです。
全部門で200点ほどある作品の出品者宛にメッセージを振り分け、応募の際に送付を希望していた出品者かどうかの照合や、書かれた内容に誹謗・中傷などはないかなども慎重に見なければならないでしょう。
届いたメッセージを拝読しながら、展覧会を区民に少しでも親しまれる催しにしようという区の施策に「これこそ市長賞」と思いました。