哀愁を帯びた音色がホールに響きます。
「夜空のトランペット」。吹奏している楽器は、トランペットではありません。ハーモニカです。しかも88歳になった老奏者の独奏。会場は温かい拍手に包まれました。
岡崎市シビックセンターのコンサートホール「コロネット」で14日開かれた第14回三河ハーモニカ演奏会。僕の現役時代、同業他社の大先輩でとして何かと指導してくれた元NHK記者の早川伸さん(岡崎市在住)が、今年も元気に米寿の独奏を聞かせてくれました。
奥さんを現役時代に亡くされた早川さんは、メシより酒、力士の後援会にも入るほどの大相撲ファン。もう一つのトレードマークだったタバコの「ピー缶」は、75歳になってハーモニカを趣味に選んだことと引き換えに手放しましたが、何事も徹底する姿勢は今も変わりません。
「病気はない。薬などには一切、世話になっていない。でもね・・・」と早川さんは話し、続けます。
「80歳になった時は何も感じなかったが、最近は疲れがたまるようになった。それにハーモニカが一向に上達しなくてね」
そんなことを言いながら、今回は「夜空のトランペット」を独奏すると知ってびっくり。イタリアのトランペット奏者で作曲家だったニニ・ロッソの名曲を、ハーモニカで吹奏するなんて大丈夫だろうかと思ったものです。
でも、独奏が始まると、そんな思いはたちまち消えました。
透明感と哀愁を感じさせる音色と旋律が力強く広がります。自分なりの夜空を描き、見上げる思いを込めて吹奏しているのが伝わってきます。
背筋を伸ばし、一礼し、年齢を感じさせない足運びで退場する姿に聴衆の温かい拍手が続きました。
「100歳までハーモニカを吹けたら、チゴイネルワイゼンを吹きたい」と話す早川さんらしいと思ったものでした。
演奏会のあとは、お互い仲間同士で今年も演奏会を一緒に聞いた元豊田市長の鈴木公平さんと3人で、いつも通り「かるく1杯」に直行。談笑につぐ談笑。4杯そして5杯・・・。これまた、いつも通りでした。