≪囲碁の布石~武宮正樹氏の場合≫
(2024年12月27日投稿)
今回も引き続き、囲碁の布石について、次の著作を参考にして、考えてみたい。
〇武宮正樹『初段を突破する武宮囲碁教室3 序盤の打ちかた30手』筑摩書房、1993年[1996年版]
著者の武宮正樹九段は、プロフィールにあるように、辺や隅より中央を重視する独特の棋風で、「宇宙流」といわれ、人気が高い棋士である。
そして、多くの俊英のプロ棋士を輩出した木谷実門下である。石田芳夫氏、加藤正夫氏と共に「木谷門の三羽烏」といわれた。
さて、その武宮正樹九段の著した布石の本の1冊が本書である。
本書の中で強調しておられるのは、序盤の30手こそ、パワーの源泉なのであり、序盤の正しい考えかたを身につけるのが、中盤の戦いに勝つための要諦であるとする。
そして、序盤で一番大切なことは、碁盤を大きく見る目、つまり大局観をもつことだと主張している。
【武宮正樹氏のプロフィール】
・昭和26年、東京都に生まれる。
・昭和40年、木谷実九段に入門。同門には多くの俊英がおり、石田芳夫・加藤正夫と共に「木谷門の三羽烏」といわれた。
・昭和40年入段。昭和52年九段。
・昭和51年、初の本因坊位を獲得
以後、本因坊通算六期など、多数のタイトルを獲得している。
※辺や隅より中央を重視する独特の棋風で、「宇宙流」といわれ、人気が高い。
【武宮正樹『序盤の打ちかた30手』(筑摩書房)はこちらから】
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
・「布石なんて関係ないよ。要は中盤の戦闘力で決着がつくのさ」と、うそぶいている力自慢がいないだろうか。
たしかに、中盤の戦いは大事である。相手の大石を殺したり、攻めあいに勝てば、そこで勝負がつくケースが多いから。
しかし、中盤の戦いに勝つためには、その前段階である序盤でリードしておくべき。
序盤で主導権を手中におさめ、優位の態勢にしてこそ、中盤の戦いに勝てる確率がより高くなっていく。
・こう考えていくと、序盤の30手こそ、パワーの源泉なのである。
序盤の正しい考えかたを身につけるのが、中盤の戦いに勝つための要諦。
・序盤で一番大切なことは、碁盤を大きく見る目、つまり大局観。
大筋の大本線のつかみかた。
・本書では、実戦でたびたび出現する序盤を採りあげ、誤った考えかたを手直ししながら、どこに注意すればよいか、具体的に説明したという。
本書によって、部分より全体が見えるようになり、「序盤の30手はこんなに大事なのか」が理解できるはず。
そして、有段者から高段者への道がひらけてくるだろう。
(武宮正樹『序盤の打ちかた30手』筑摩書房、1993年[1996年版]、3頁)
〇本書の構成は、第Ⅰ章以下、
Ⅱ ヒラキの基本
Ⅲ 布石の要点
Ⅳ 布石の攻防・次の一手
となっている。
〇「第Ⅱ章 ヒラキの基本」は、ヒラキかたの原則を説明したものである。
二間ビラキが基本である。三間ビラキは悪いのか。また、一間ビラキはどうなのか。
四間ビラキはなぜ許されるのか。
実戦でしばしば打っている布石を採りあげながら、なぜそう打つのか、なぜそう打ってはいけないのかを具体的に説明していく。
〇「第Ⅲ章 布石の要点」は、布石の応用編である。
皆さんは石音のした方ばかりに目がいきがち。
応用編といった意味は、石音のした方を見ながら、なおかつ、碁盤全体を見渡す姿勢と、どこに視点のポイントをおけばよいのか、理解できるように構成した。
いわば、「部分より全体」を見る大局観が身につくように構成した。
皆さんの実戦でよくできる形を採りあげながら、布石の要点がどこにあるのか、わかりやすく説明していく。
・布石はテクニックも大切であるが、それ以上に考えかたが肝心。
・要は、布石とは石の方向である。
布石の要点では、全局を見て正しい石の方向が身につくように構成してある。
〇「第Ⅳ章 布石の攻防・次の一手」は、全局の中で部分をどう見ていくかがテーマ。
皆さんが普段打っている布石を採りあげながら、どんな大局観で臨み、どこに目をつけるかを説明する。
第Ⅳ章は、すべて問題形式で構成した。アマの実戦を採りあげ、考えてもらおうというわけである。
部分的な基本定石の選択を考えることによって、全局の方向感覚が身についてくる。
※強調しておきたいのは、すでに打った石を働かせるため、「自分はこうしたい、その目的のためにこう打つんだ」という、自分の考えを持つのが大切。
失敗するのは仕方がない。でも早く上達するためには、着手の意図が中途はんぱになるのが一番よくない。
(武宮正樹『序盤の打ちかた30手』筑摩書房、1993年[1996年版]、16頁~30頁)
〇布石の原則は石と石の連絡の仕方である。
・小目や星のシマリ、辺のヒラキなどは、すべてが石と石の連絡の仕方である。
・「隅に先着、シマリとカカリ」という布石の順序のあと、こんどは辺にヒラいていくのが原則である。
・そのヒラキの基本は二間である。
(二間ビラキが石の連絡の基本で、一応の安定をえられる)
⇒一間ビラキは窮屈で、三間ビラキは広すぎる。
☆三間ビラキはヒラキかたが広すぎることを証明してみよう。
【三間ビラキは打ち込みがきびしい】
≪棋譜≫(35頁の7図)
・三間ビラキは、一見、働いているような気もする。
・しかし、連絡に不備があるので、黒a(17, 八)の打ち込みがきびしい。
【黒はすぐ打ち込む】
≪棋譜≫(35頁の8図)
・こんな配石なら、よほどの大場や急場がないかぎり、すぐ黒1と打ち込む。
【白の上ツケはポン抜き30目で不成功】
≪棋譜≫(35頁の9図)
・ここで、白1の上ツケは黒2から6までポン抜かれる。
⇒白の不成功は明らか。
【白の上ツケの変化図:白は逃げた場合黒好調】
≪棋譜≫(36頁の10図)
・白1と逃げるのはどうか?
・黒2、白3のゲタという進行になる。
※やはり、三角印の白(17, 十)一子が腐ってしまって、白がよくない。
【下ツケるほかない】
≪棋譜≫(37頁の12図)
・打ち込まれれば、白1と下ツケするほかない。
・黒2のハネ出しから、8とワタる。
【進行図:ワカレは黒有利】
≪棋譜≫(37頁の13図)
・つづいて、白1、3と整形することになる。
※このワカレは白地をエグりながら黒を固めているので、黒有利。
結論として、三間ビラキはヒラキかたが広すぎるといえる。
(武宮正樹『序盤の打ちかた30手』筑摩書房、1993年[1996年版]、32頁~37頁)
・「二立三析」は、実戦の中で、さまざまな形で応用されている。
【1図】(三連星の定型)
・三連星の内側に、白1と打ち込んでくるケースは多い。
・ここで、黒2のコスミツケから4の一間トビが定型になっている。
※この場合は、黒▲がジャマをして白aと三間ビラキできない。
※白5と「二立一析」にしかヒラけないので、黒2とコスミツケ。
【2図】(白はゆとりあり)
・黒2と一間に受けると、白3のスベリから5とヒラかれ、ゆとりのある形。
※黒の勢力圏内の戦いなのに、白を十分の格好にしては黒の失敗。
【3図】(中国流の定型)
・中国流の布陣に、白1と侵入してきた。
・ここでも、黒2のコスミツケから4が定型。
・白5とヒラいて、「二立二析」のコリ形にして、攻めの態勢を整える。
・つぎに白aのスベリが、根拠確保と右下を荒らす一石二鳥の絶好点
・そこで黒6と追撃する一手。
※黒2で4は白b、黒c、白5となり、もう攻めが利かない。
【4図】(コスミツケからハサむ)
・こんな配石なら、黒1とコスミツケてから3とハサんで攻める。
※1図や3図や4図はコスミツケることによって、白の形を重くして、進退を不自由
にさせている。
【5図】(ツメの方向が悪い)
・黒▲の割り打ちに、白1のツメは方向がよくない。
・黒2が白二子をハサんで絶好になるから。
【6図】(次の一手・白番)
・したがって、白1の方からツメる一手で、黒2となる。
・ここで白Aか、白Bか。
<次の一手・解答>
【7図】(失敗)
・白1の一間受けは黒2とスベられ、白3となる。
※この黒は実に余裕のある形。
ということは、この黒を攻めるねらいがもうなくなっている。
【8図】(正解)
・白1のコスミツケから3の一間は定石のようなもの。
※黒は「二立二析」のコリ形。
寸が詰まっているので、窮屈な形。
こうして、つぎの攻めをねらう。
(武宮正樹『序盤の打ちかた30手』筑摩書房、1993年[1996年版]、55頁~58頁)
「Ⅲ布石の要点」において、ヒラキヅメについて解説している。
一般的にヒラキヅメは、第一級の大場である場合が多い。
この点について、考えてみよう。
【ヒラキヅメは第一級の大場】
≪棋譜≫(106頁の11図)
・黒1は「ヒラキ」と「ツメ」を兼ね備えているので、ヒラキヅメという。
※ヒラキヅメの場合は、つぎに打ち込みが残っている。
⇒黒1は「ねらいのある大場」なのである。
【打ち込みがきびしい】
≪棋譜≫(106頁の12図)
・三角印の黒(17, 七)のヒラキヅメのねらいは黒1である。
(ヒラキヅメ後の打ち込みの攻防は後述)
※ところで、黒(17, 七)のヒラキヅメは隅のシマリやカカリと同じ程度の大きさである。
たった二間のヒラキヅメなのに、超特級の大場である。
次のプロの実戦例を紹介している。
【プロの実戦例:カカリの場合】
≪棋譜≫(107頁の13図)
・黒1のカカリに、すぐ白2とヒラいた。
※白2か黒a(17, 七)のヒラキヅメか、その差はきわめて大きく、白2も超特級の大場である。
もし、黒1のカカリで、ヒラキヅメを打った場合は、どうなるか?
【プロの実戦例:ヒラキヅメの場合】
≪棋譜≫(107頁の14図)
・黒1とヒラキヅメを打って、白2とシマった実戦もある。
(武宮正樹『序盤の打ちかた30手』筑摩書房、1993年[1996年版]、106頁~107頁)
・武宮正樹氏は、「Ⅲ布石の要点」の「4 ヒラキヅメ」(158頁~172頁)において、ヒラキヅメについて解説している。
〇ヒラキヅメは、「ヒラキ」と「ツメ」を兼ね備えた着点なので、大場の中でも特に重視される。
⇒つぎに、打ち込みをねらっている。
【超一級のヒラキヅメ】
≪棋譜≫(158頁の1図)
・黒8のヒラキヅメは、実戦でよくできる形。
※黒8は超一級の大場で、シマリやカカリと同じくらいの大きさである。
むしろ、黒8で、カカリもある。
【一局の碁】
≪棋譜≫(158頁の2図)
・黒1のカカリも一局の碁。
・こんどは白2が超一級の大場。
※このように、1図の黒8のヒラキヅメは皆さんが考える以上に大場なのであると、武宮正樹氏は強調している。
【非常手段のコウ】
≪棋譜≫(159頁の3図)
・三角印の白(17, 六)があっても、黒1から7のコウが成立。
※黒がコウに強いとき有力であるが、一般的には非常手段。
【ヒラキヅメの第1型】
≪棋譜≫(159頁の第1型図)
・黒1のヒラキヅメは、つぎに黒a(17, 十二)の打ち込みをねらっている。
⇒強力な打ち込みである。
・そこで、白2のトビが本手。
※白2は布石の早い時期に打つケースが多い。
まず、初めに打ち込みの着点について考えてみよう。
【打ち込む場所】
≪棋譜≫(160頁の第1図)
・ふつうは三角印の白(16, 十三)(17, 九)の大々ゲイマの場合、中間の黒1に打ち込む。
・ところが、ツケヒキ基本定石の場合、白2のコスミが強手になる。
【黒は抵抗できず】
≪棋譜≫(160頁の2図)
・つづいて、黒1、3と出切って抵抗する形。
・しかし、白4とアテられて6とヒカれて、黒に応手がなくなっている。
(手順中、黒3で6は白a(16, 十二))
【打ち込みの正着カド】
≪棋譜≫(161頁の3図)
・ツケヒキ定石の打ち込みは、黒1のカドにかぎる。
⇒黒1が正しい着点。
・つぎに黒a(18, 十四)とワタられてはあまい。
・当然、白2と反撃する。
※ここで、黒はb(16, 十)とc(18, 十)、二通りの打ちかたがある。
前図b(16, 十)の肩つきの場合は、どうなるか?
【打ち込みの正着カド】
≪棋譜≫(161頁の4図)
・黒1の肩つきには、白2、4とワタるほかない。
・黒5、7を決めて9とオサエる。
【定型】
≪棋譜≫(161頁の5図)
・ついで白1、3までが定型。
※ここで、いますぐ黒a(15, 十一)は利かされ。
ほかの大場などに回り、のちに黒aとカケツグ時期を見るのがふつう。
(武宮正樹『序盤の打ちかた30手』筑摩書房、1993年[1996年版]、158頁~161頁)
【第5型】
・第4型とちがって、黒▲のケイマに形が変化している。
・こんな場合も第4型と同様、白1に黒2は急場。
・「大場より急場」なので、黒2と一手入れておくべき。
・黒2は絶対の一手と思うぐらいの気持で受けとめるべきだ、と強調しておく。
・黒2で、
【1図】(白2がきつい)
・黒1の大場は白2がきつい。
【2図】(一方的に攻められる)
・ついで、黒1に白2が急所のオキ。
・黒3は白4、6で根拠がなくなり、一方的に攻め立てられる。
・黒3で、
【3図】(一応の抵抗)
・黒1のコスミツケは抵抗する場合の筋。
※白のワタリを止めているから。
・そして、白2に黒3とサガリ。
・白4、6が最善。
・白6で、
【4図】(オイオトシ)
・白1、3でもよさそうにみえる。
・しかし、黒4、6のオイオトシ。
・黒6に白ツギは黒a。
※というわけで、3図の白6の一手。
【5図】(シチョウ関係)
〇3図の白6につづいて、
・黒1と打つしかない。
・ここで、白シチョウ有利なら白2、4が成立する。
・つぎに白6のシチョウと白5のツギが見合いで、黒ツブレ。
※ただし、この配石は白6のシチョウが成立しない。
【6図】(白満足)
・そこで、黒1に白2とツギ。
・黒3に白4と封鎖するワカレになり、つぎに白aとbが利きなので、白も厚い。
※第5型の黒2は本手。
ただし、6図の白4までを正しくヨメる/皆さんは、白4に黒5と打つのも魅力的。
(武宮正樹『序盤の打ちかた30手』筑摩書房、1993年[1996年版]、128頁~130頁)
【第Ⅳ章 第10題】(黒番)
・アマ有段者の実戦。
・ここは二通りの大場がある。
まず黒Aとコスんで、右上方面を守る。
もうひとつは黒Bの打ち込み。
皆さんは黒AかBか。
〇正解は絶好の打ち込み
【1図】(失敗)
・右上隅から上辺は黒1のコスミによって、黒地になる公算が大きい。
・その意味で、黒1は一級の大場。
・しかし、白2のトビ(あるいは白a)はそれ以上。
【2図】(正解)
・黒1の打ち込みが絶好。
・以下、黒7まで白地をエグリながら、黒▲三子を安定させ、白8のあともまだ攻めをねらう。
※一石二鳥にも三鳥にもなっている急場。
(武宮正樹『序盤の打ちかた30手』筑摩書房、1993年[1996年版]、203頁~204頁)
(2024年12月27日投稿)
【はじめに】
今回も引き続き、囲碁の布石について、次の著作を参考にして、考えてみたい。
〇武宮正樹『初段を突破する武宮囲碁教室3 序盤の打ちかた30手』筑摩書房、1993年[1996年版]
著者の武宮正樹九段は、プロフィールにあるように、辺や隅より中央を重視する独特の棋風で、「宇宙流」といわれ、人気が高い棋士である。
そして、多くの俊英のプロ棋士を輩出した木谷実門下である。石田芳夫氏、加藤正夫氏と共に「木谷門の三羽烏」といわれた。
さて、その武宮正樹九段の著した布石の本の1冊が本書である。
本書の中で強調しておられるのは、序盤の30手こそ、パワーの源泉なのであり、序盤の正しい考えかたを身につけるのが、中盤の戦いに勝つための要諦であるとする。
そして、序盤で一番大切なことは、碁盤を大きく見る目、つまり大局観をもつことだと主張している。
【武宮正樹氏のプロフィール】
・昭和26年、東京都に生まれる。
・昭和40年、木谷実九段に入門。同門には多くの俊英がおり、石田芳夫・加藤正夫と共に「木谷門の三羽烏」といわれた。
・昭和40年入段。昭和52年九段。
・昭和51年、初の本因坊位を獲得
以後、本因坊通算六期など、多数のタイトルを獲得している。
※辺や隅より中央を重視する独特の棋風で、「宇宙流」といわれ、人気が高い。
【武宮正樹『序盤の打ちかた30手』(筑摩書房)はこちらから】
〇武宮正樹『序盤の打ちかた30手』筑摩書房、1993年[1996年版]
本書の目次は次のようになっている。
【もくじ】
はじめに
Ⅰ 布石とはどんなものか
1 布石の順序
2 本書の構成
Ⅱ ヒラキの基本
1 ヒラキの基本は二間
2 二立三析
3 二立三析の応用
4 三立四析
5 利きをみたヒラキ
6 ヒラキのバランス
Ⅲ 布石の要点
1 大場
2 急場
3 割り打ち
4 ヒラキヅメ
5 厚みに近よるな
Ⅳ 布石の攻防・次の一手
天王山を見逃すな
侵略の仕方
天王山
アマ初段対二段
大場の選択
定石の選択
オサエの方向
カカリの方向
判断の岐路
大ブロシキ大作戦
大場の選択
定石後の急所
判断のわかれ道
基本定石後の打ちかた
黒優勢
石の方向
決まりのつけかた
迷うところ
模様拡大の方向
さて、今回の執筆項目は次のようになる。
・氏のプロフィール
・「はじめに」の要点
・本書の構成
・布石の原則と三間ビラキ
・二立三析の応用(Ⅱヒラキの基本より)
・大場とヒラキヅメ
・ヒラキヅメの解説(Ⅲ布石の要点より)
・Ⅲ布石の要点 第5型
・Ⅳ布石の攻防・次の一手 第10題 大場の選択
「はじめに」の要点
・「布石なんて関係ないよ。要は中盤の戦闘力で決着がつくのさ」と、うそぶいている力自慢がいないだろうか。
たしかに、中盤の戦いは大事である。相手の大石を殺したり、攻めあいに勝てば、そこで勝負がつくケースが多いから。
しかし、中盤の戦いに勝つためには、その前段階である序盤でリードしておくべき。
序盤で主導権を手中におさめ、優位の態勢にしてこそ、中盤の戦いに勝てる確率がより高くなっていく。
・こう考えていくと、序盤の30手こそ、パワーの源泉なのである。
序盤の正しい考えかたを身につけるのが、中盤の戦いに勝つための要諦。
・序盤で一番大切なことは、碁盤を大きく見る目、つまり大局観。
大筋の大本線のつかみかた。
・本書では、実戦でたびたび出現する序盤を採りあげ、誤った考えかたを手直ししながら、どこに注意すればよいか、具体的に説明したという。
本書によって、部分より全体が見えるようになり、「序盤の30手はこんなに大事なのか」が理解できるはず。
そして、有段者から高段者への道がひらけてくるだろう。
(武宮正樹『序盤の打ちかた30手』筑摩書房、1993年[1996年版]、3頁)
本書の構成
〇本書の構成は、第Ⅰ章以下、
Ⅱ ヒラキの基本
Ⅲ 布石の要点
Ⅳ 布石の攻防・次の一手
となっている。
〇「第Ⅱ章 ヒラキの基本」は、ヒラキかたの原則を説明したものである。
二間ビラキが基本である。三間ビラキは悪いのか。また、一間ビラキはどうなのか。
四間ビラキはなぜ許されるのか。
実戦でしばしば打っている布石を採りあげながら、なぜそう打つのか、なぜそう打ってはいけないのかを具体的に説明していく。
〇「第Ⅲ章 布石の要点」は、布石の応用編である。
皆さんは石音のした方ばかりに目がいきがち。
応用編といった意味は、石音のした方を見ながら、なおかつ、碁盤全体を見渡す姿勢と、どこに視点のポイントをおけばよいのか、理解できるように構成した。
いわば、「部分より全体」を見る大局観が身につくように構成した。
皆さんの実戦でよくできる形を採りあげながら、布石の要点がどこにあるのか、わかりやすく説明していく。
・布石はテクニックも大切であるが、それ以上に考えかたが肝心。
・要は、布石とは石の方向である。
布石の要点では、全局を見て正しい石の方向が身につくように構成してある。
〇「第Ⅳ章 布石の攻防・次の一手」は、全局の中で部分をどう見ていくかがテーマ。
皆さんが普段打っている布石を採りあげながら、どんな大局観で臨み、どこに目をつけるかを説明する。
第Ⅳ章は、すべて問題形式で構成した。アマの実戦を採りあげ、考えてもらおうというわけである。
部分的な基本定石の選択を考えることによって、全局の方向感覚が身についてくる。
※強調しておきたいのは、すでに打った石を働かせるため、「自分はこうしたい、その目的のためにこう打つんだ」という、自分の考えを持つのが大切。
失敗するのは仕方がない。でも早く上達するためには、着手の意図が中途はんぱになるのが一番よくない。
(武宮正樹『序盤の打ちかた30手』筑摩書房、1993年[1996年版]、16頁~30頁)
布石の原則と三間ビラキ
〇布石の原則は石と石の連絡の仕方である。
・小目や星のシマリ、辺のヒラキなどは、すべてが石と石の連絡の仕方である。
・「隅に先着、シマリとカカリ」という布石の順序のあと、こんどは辺にヒラいていくのが原則である。
・そのヒラキの基本は二間である。
(二間ビラキが石の連絡の基本で、一応の安定をえられる)
⇒一間ビラキは窮屈で、三間ビラキは広すぎる。
三間ビラキはヒラキかたが広すぎることの証明
☆三間ビラキはヒラキかたが広すぎることを証明してみよう。
【三間ビラキは打ち込みがきびしい】
≪棋譜≫(35頁の7図)
・三間ビラキは、一見、働いているような気もする。
・しかし、連絡に不備があるので、黒a(17, 八)の打ち込みがきびしい。
【黒はすぐ打ち込む】
≪棋譜≫(35頁の8図)
・こんな配石なら、よほどの大場や急場がないかぎり、すぐ黒1と打ち込む。
【白の上ツケはポン抜き30目で不成功】
≪棋譜≫(35頁の9図)
・ここで、白1の上ツケは黒2から6までポン抜かれる。
⇒白の不成功は明らか。
【白の上ツケの変化図:白は逃げた場合黒好調】
≪棋譜≫(36頁の10図)
・白1と逃げるのはどうか?
・黒2、白3のゲタという進行になる。
※やはり、三角印の白(17, 十)一子が腐ってしまって、白がよくない。
【下ツケるほかない】
≪棋譜≫(37頁の12図)
・打ち込まれれば、白1と下ツケするほかない。
・黒2のハネ出しから、8とワタる。
【進行図:ワカレは黒有利】
≪棋譜≫(37頁の13図)
・つづいて、白1、3と整形することになる。
※このワカレは白地をエグりながら黒を固めているので、黒有利。
結論として、三間ビラキはヒラキかたが広すぎるといえる。
(武宮正樹『序盤の打ちかた30手』筑摩書房、1993年[1996年版]、32頁~37頁)
二立三析の応用(Ⅱヒラキの基本より)
・「二立三析」は、実戦の中で、さまざまな形で応用されている。
【1図】(三連星の定型)
・三連星の内側に、白1と打ち込んでくるケースは多い。
・ここで、黒2のコスミツケから4の一間トビが定型になっている。
※この場合は、黒▲がジャマをして白aと三間ビラキできない。
※白5と「二立一析」にしかヒラけないので、黒2とコスミツケ。
【2図】(白はゆとりあり)
・黒2と一間に受けると、白3のスベリから5とヒラかれ、ゆとりのある形。
※黒の勢力圏内の戦いなのに、白を十分の格好にしては黒の失敗。
【3図】(中国流の定型)
・中国流の布陣に、白1と侵入してきた。
・ここでも、黒2のコスミツケから4が定型。
・白5とヒラいて、「二立二析」のコリ形にして、攻めの態勢を整える。
・つぎに白aのスベリが、根拠確保と右下を荒らす一石二鳥の絶好点
・そこで黒6と追撃する一手。
※黒2で4は白b、黒c、白5となり、もう攻めが利かない。
【4図】(コスミツケからハサむ)
・こんな配石なら、黒1とコスミツケてから3とハサんで攻める。
※1図や3図や4図はコスミツケることによって、白の形を重くして、進退を不自由
にさせている。
【5図】(ツメの方向が悪い)
・黒▲の割り打ちに、白1のツメは方向がよくない。
・黒2が白二子をハサんで絶好になるから。
【6図】(次の一手・白番)
・したがって、白1の方からツメる一手で、黒2となる。
・ここで白Aか、白Bか。
<次の一手・解答>
【7図】(失敗)
・白1の一間受けは黒2とスベられ、白3となる。
※この黒は実に余裕のある形。
ということは、この黒を攻めるねらいがもうなくなっている。
【8図】(正解)
・白1のコスミツケから3の一間は定石のようなもの。
※黒は「二立二析」のコリ形。
寸が詰まっているので、窮屈な形。
こうして、つぎの攻めをねらう。
(武宮正樹『序盤の打ちかた30手』筑摩書房、1993年[1996年版]、55頁~58頁)
大場とヒラキヅメ
「Ⅲ布石の要点」において、ヒラキヅメについて解説している。
一般的にヒラキヅメは、第一級の大場である場合が多い。
この点について、考えてみよう。
【ヒラキヅメは第一級の大場】
≪棋譜≫(106頁の11図)
・黒1は「ヒラキ」と「ツメ」を兼ね備えているので、ヒラキヅメという。
※ヒラキヅメの場合は、つぎに打ち込みが残っている。
⇒黒1は「ねらいのある大場」なのである。
【打ち込みがきびしい】
≪棋譜≫(106頁の12図)
・三角印の黒(17, 七)のヒラキヅメのねらいは黒1である。
(ヒラキヅメ後の打ち込みの攻防は後述)
※ところで、黒(17, 七)のヒラキヅメは隅のシマリやカカリと同じ程度の大きさである。
たった二間のヒラキヅメなのに、超特級の大場である。
次のプロの実戦例を紹介している。
【プロの実戦例:カカリの場合】
≪棋譜≫(107頁の13図)
・黒1のカカリに、すぐ白2とヒラいた。
※白2か黒a(17, 七)のヒラキヅメか、その差はきわめて大きく、白2も超特級の大場である。
もし、黒1のカカリで、ヒラキヅメを打った場合は、どうなるか?
【プロの実戦例:ヒラキヅメの場合】
≪棋譜≫(107頁の14図)
・黒1とヒラキヅメを打って、白2とシマった実戦もある。
(武宮正樹『序盤の打ちかた30手』筑摩書房、1993年[1996年版]、106頁~107頁)
ヒラキヅメの解説(Ⅲ布石の要点より)
・武宮正樹氏は、「Ⅲ布石の要点」の「4 ヒラキヅメ」(158頁~172頁)において、ヒラキヅメについて解説している。
〇ヒラキヅメは、「ヒラキ」と「ツメ」を兼ね備えた着点なので、大場の中でも特に重視される。
⇒つぎに、打ち込みをねらっている。
【超一級のヒラキヅメ】
≪棋譜≫(158頁の1図)
・黒8のヒラキヅメは、実戦でよくできる形。
※黒8は超一級の大場で、シマリやカカリと同じくらいの大きさである。
むしろ、黒8で、カカリもある。
【一局の碁】
≪棋譜≫(158頁の2図)
・黒1のカカリも一局の碁。
・こんどは白2が超一級の大場。
※このように、1図の黒8のヒラキヅメは皆さんが考える以上に大場なのであると、武宮正樹氏は強調している。
【非常手段のコウ】
≪棋譜≫(159頁の3図)
・三角印の白(17, 六)があっても、黒1から7のコウが成立。
※黒がコウに強いとき有力であるが、一般的には非常手段。
【ヒラキヅメの第1型】
≪棋譜≫(159頁の第1型図)
・黒1のヒラキヅメは、つぎに黒a(17, 十二)の打ち込みをねらっている。
⇒強力な打ち込みである。
・そこで、白2のトビが本手。
※白2は布石の早い時期に打つケースが多い。
まず、初めに打ち込みの着点について考えてみよう。
【打ち込む場所】
≪棋譜≫(160頁の第1図)
・ふつうは三角印の白(16, 十三)(17, 九)の大々ゲイマの場合、中間の黒1に打ち込む。
・ところが、ツケヒキ基本定石の場合、白2のコスミが強手になる。
【黒は抵抗できず】
≪棋譜≫(160頁の2図)
・つづいて、黒1、3と出切って抵抗する形。
・しかし、白4とアテられて6とヒカれて、黒に応手がなくなっている。
(手順中、黒3で6は白a(16, 十二))
【打ち込みの正着カド】
≪棋譜≫(161頁の3図)
・ツケヒキ定石の打ち込みは、黒1のカドにかぎる。
⇒黒1が正しい着点。
・つぎに黒a(18, 十四)とワタられてはあまい。
・当然、白2と反撃する。
※ここで、黒はb(16, 十)とc(18, 十)、二通りの打ちかたがある。
前図b(16, 十)の肩つきの場合は、どうなるか?
【打ち込みの正着カド】
≪棋譜≫(161頁の4図)
・黒1の肩つきには、白2、4とワタるほかない。
・黒5、7を決めて9とオサエる。
【定型】
≪棋譜≫(161頁の5図)
・ついで白1、3までが定型。
※ここで、いますぐ黒a(15, 十一)は利かされ。
ほかの大場などに回り、のちに黒aとカケツグ時期を見るのがふつう。
(武宮正樹『序盤の打ちかた30手』筑摩書房、1993年[1996年版]、158頁~161頁)
Ⅲ布石の要点 第5型
【第5型】
・第4型とちがって、黒▲のケイマに形が変化している。
・こんな場合も第4型と同様、白1に黒2は急場。
・「大場より急場」なので、黒2と一手入れておくべき。
・黒2は絶対の一手と思うぐらいの気持で受けとめるべきだ、と強調しておく。
・黒2で、
【1図】(白2がきつい)
・黒1の大場は白2がきつい。
【2図】(一方的に攻められる)
・ついで、黒1に白2が急所のオキ。
・黒3は白4、6で根拠がなくなり、一方的に攻め立てられる。
・黒3で、
【3図】(一応の抵抗)
・黒1のコスミツケは抵抗する場合の筋。
※白のワタリを止めているから。
・そして、白2に黒3とサガリ。
・白4、6が最善。
・白6で、
【4図】(オイオトシ)
・白1、3でもよさそうにみえる。
・しかし、黒4、6のオイオトシ。
・黒6に白ツギは黒a。
※というわけで、3図の白6の一手。
【5図】(シチョウ関係)
〇3図の白6につづいて、
・黒1と打つしかない。
・ここで、白シチョウ有利なら白2、4が成立する。
・つぎに白6のシチョウと白5のツギが見合いで、黒ツブレ。
※ただし、この配石は白6のシチョウが成立しない。
【6図】(白満足)
・そこで、黒1に白2とツギ。
・黒3に白4と封鎖するワカレになり、つぎに白aとbが利きなので、白も厚い。
※第5型の黒2は本手。
ただし、6図の白4までを正しくヨメる/皆さんは、白4に黒5と打つのも魅力的。
(武宮正樹『序盤の打ちかた30手』筑摩書房、1993年[1996年版]、128頁~130頁)
第Ⅳ章 第10題 大場の選択
【第Ⅳ章 第10題】(黒番)
・アマ有段者の実戦。
・ここは二通りの大場がある。
まず黒Aとコスんで、右上方面を守る。
もうひとつは黒Bの打ち込み。
皆さんは黒AかBか。
〇正解は絶好の打ち込み
【1図】(失敗)
・右上隅から上辺は黒1のコスミによって、黒地になる公算が大きい。
・その意味で、黒1は一級の大場。
・しかし、白2のトビ(あるいは白a)はそれ以上。
【2図】(正解)
・黒1の打ち込みが絶好。
・以下、黒7まで白地をエグリながら、黒▲三子を安定させ、白8のあともまだ攻めをねらう。
※一石二鳥にも三鳥にもなっている急場。
(武宮正樹『序盤の打ちかた30手』筑摩書房、1993年[1996年版]、203頁~204頁)
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