ビストロ レアール

石川県小松市にある「ビストロ レアール」のシェフがつづるあんなことこんなこと

とっておきのカルヴァドス

2006年03月13日 | シェフのコラム
フランクとキャトリーヌの結婚式から丸々3日間

飲んで 歌って 食べて 踊って

そのうえキャティーのパパのパフォーマンスまで飛び出して

長かった結婚のお祝い騒ぎも

辺りが暗くなり始め少し肌寒くなってきて

一緒に飲んで騒いだ人達も

家路に向かい

残った私たちも家の中に入り

ダイニングの椅子で座り込んで

3日間の宴を回想するかのようにみんなぐったり

フランクとキャティーがボンニュイと挨拶して

キャティーのママも「じゃあ私たちも」と 言って立ち上がった所に

キャティのパパが「わしはもう少しここに居るよ なあ マサ」と

そして マダムはちょっと微笑みながらダイニングを後にしました

残った私にムッシュがちょっと待っていてくれと地下のキャーヴ(酒蔵)へ

戻ってきたムッシュが大事そうに抱えてきたボトルは

長い間ねていた証に白く埃にまみれ

ラベルもボロボロになった

キャルヴァドス

ムッシュがそのラベルに記された年号には確か192?年代の古酒!

キャティが結婚するまでは開けまいと

誓っていたキャルヴァドスだったらしく

自然に蒸発したのかボトルの肩ほどに減っていたキャルヴァの栓を抜き

グラスに注いでくれたキャルヴァは濃い琥珀色でトロッとした

液体で普段飲んでいたキャルヴァとはまるで別物と判りました

いつも鼻を抜けるようなツンとしたキャルバではなく

まったりとしたそれはもう何とも穏やかな口当たりにカンゲキしました

ムッシュはそれからしばらくの間

キャティが小さい頃の話からフランクと一緒になるまでの

いろいろな思い出話をしてくれました

そんなムッシュの赤く充血した目には

愛娘を嫁に出す父親の思いが感じられました

そんな喜びと寂しさの気持ちを

あの仮装パフォーマンスで表していたのでしょう


翌朝 プチデジュネをとダイニングへ

私とムッシュが最初にテーブルに着いて

すぐ後にマダムが来て

マダム:あんた達いったい何時まで飲んでたの?

ムッシュ:ん~1時間位かな?

マダムは微笑み首を横に振りながら天井を見上げ

マダム:まったく そんなに何を話す事があったの?

とあきれた様子

ムッシュ:言葉は足りなかったけれど 心は通じたよ

と 私にウインクしながら言ったムッシュには

昨夜のセンチメンタルな面影はありませんでした

フランス人の父親と日本人のキュイジニエが

とっておきのキャルヴァドスを飲んだ思い出でした