★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇カラヤン指揮ウィーン・フィルのブラームス:交響曲第3番/ 悲劇的序曲

2021-02-15 12:21:28 | 交響曲(ブラームス)

ブラームス:交響曲第3番
      悲劇的序曲

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1977年

LP:キングレコード GT 9129

 ブラームスは、1877年に第2交響曲を作曲した後、その翌年からヴァイオリン協奏曲、大学祝典序曲、悲劇的序曲、ピアノ協奏曲第2番といった協奏曲、管弦楽作品を書き上げる。そして第2交響曲から6年後の1883年に、温泉地として知られるヴィースバーデンに滞在し、第3交響曲を作曲した。ブラームスの交響曲の中では演奏時間が最も短いものの、ロマン的な叙情に加えて、憂愁の要素をも加わわった優れた作品に仕上がった。初演で指揮をしたハンス・リヒターは「この曲は、ブラームスの“英雄”だ」と言ったと伝えられており、このことから、この曲は現在まで「英雄」の愛称で親しまれている。しかし、ベートーヴェンの「英雄」のように、ナポレオンをイメージさせるような闘争性をブラームス:交響曲第3番に求めるのは少々無理があろう。より抒情味やロマンが多分に加味された交響曲だと言える。このLPレコードのもう一つの曲目は、同じくブラームスの悲劇的序曲である。この曲は、1880年に大学祝典序曲と一対になって作曲された作品。大学祝典序曲は、若々しくユーモアに満ちた曲想を持つのに対し、この悲劇的序曲は、曲名の通り悲劇的要素が目いっぱい盛り込まれているのが特徴だ。これはどの題材から取ってきたのかは不明だが、多分ブラームスが日頃から関心を寄せていたギリシャ悲劇ではなかろうかと言われている。「この曲を聴くと我々は鋼鉄のように仮借のない運命と闘争する偉大な英雄を思い浮かべる」(ディータース)とも表現されているとおり、交響曲第3番より、この悲劇的序曲の方が「英雄」の名に相応しいとも感じられるほど、力強く雄大な曲である。このLPレコードでこれら2曲を演奏しているのが、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウィーン・フィルである。7度目のカラヤンの来日を記念して発売された全部で20枚のLPレコードの中の1枚で、全て同じコンビで録音されている。このLPレコードでのカラヤンの指揮は、手兵ベルリン・フィルを指揮した時とは大きく異なり、何かウィーン・フィルに対し遠慮がちに指揮しているといった内容なのが耳につく。カラヤン独特の雄大に曲を盛り上げるところは同じなのだが、完全にオケをリードして、自分のペースに持って行けるまでには至っていないように聴こえる。このため、このLPレコードでリスナーは、少々燃焼不足に陥るかもしれない。ただ、ブラームス:交響曲第3番の第4楽章や悲劇的序曲の前半部分の力強い表現力などは、カラヤン指揮ウィーン・フィルならではの迫力があり、聴き応え充分である。(LPC) 

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◇クラシック音楽LP◇ヨゼフ・カイルベルト指揮ベルリン・フィルのブラームス:交響曲第2番/大学祝典序曲

2020-07-02 09:36:17 | 交響曲(ブラームス)

ブラームス:交響曲第2番
      大学祝典序曲

指揮:ヨゼフ・カイルベルト

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(交響曲第2番)
    バンベルク交響楽団(大学祝典序曲)

発売:1978年

LP:キングレコード GT 9174
 
 このLPレコードは、名指揮者ヨゼフ・カイルベルト(1908年―1968年)がベルリン・フィルを指揮したブラームス:交響曲第2番とバンベルク交響楽団を指揮したブラームス:大学祝典序曲の2曲が収められている。このLPレコードのライナーノートに音楽学者の渡辺 護氏は次のように書いている。「1968年の夏、筆者はイタリアからミュンヘンに旅行をした。7月22日ミュンヘンの宿に着いて、新聞を開いて見ると、そこにカイルベルトの突然の死が大きく報ぜられていたのである。『トリスタンとイゾルデ』や『サロメ』を見ることを楽しみに来たのだが、それも不可能になった。カイルベルトは7月20日、国立歌劇場で『トリスタン』を指揮している最中、突然大きな音を立てて倒れ、そのまま他界したのである。ベーム、カラヤンと共にドイツ指揮界の最巨峰であったカイルベルトはその時まだ60歳。今後の活躍がまだまだ大きく期待できる時であった。彼は極めてドイツ的な指揮者で、表面的な美しさや情緒におぼれることなく、確固たる構築性やしっかりしたリズム感に優れていた。レパートリーは広くないが、ドイツ音楽にかけては、他の追随を許さない」。ブラームスの交響曲は、クラシック音楽に中でも最も多くの指揮者が録音している曲であろう。そんな数多くあるブラームス:交響曲第2番の録音の中でも、この録音は、特筆ものの録音であり、私としては、これまでのあらゆる録音の中で、ベスト1かベスト2の録音に挙げたいほど。ブラームス:交響曲第2番は、他の3曲とは異なり、かなりロマンの香りが漂う作品だ。つまり、やたらに力ずくで指揮してもダメだし、逆に平穏に指揮しても、ただつまらなく聴こえてしまう。ある意味で、指揮者の力量がはっきりと表れる交響曲である。ここでのカイルベルトの指揮は、流れるような自在な表現力のある指揮ぶりを存分に発揮する。自然と湧き起ってくるようなオーケストラの響きは、最後までリスナーを引きつけて離さない。また、ベルリン・フィルの奏でる音は、何という味わいの深さだろう。そんなベルリン・フィルの音をカイルベルトは自在に操り、リズム感たっぷりに表現する。この演奏を聴いていると、思わずこんこんと湧き出す泉を思い出す。何もかもが、流れるように、自然なたたずまいの中にある。それに加え、遠近法を駆使したような構成美が加わる。ブラームスの“田園交響曲”と言われる所以がよく分かる演奏だ。この録音はCDでも入手できるようなので、機会があれば是非一度聴いてみてほしい。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ピエール・モントゥー指揮ウィーン・フィルのブラームス:交響曲第2番

2020-04-09 09:35:43 | 交響曲(ブラームス)

ブラームス:交響曲第2番

指揮:ピエール・モントゥー

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1976年

LP:キングレコード GT 9068
  
 このLPレコードは、巨匠ピエール・モントゥー(1875年―1964年)が、ブラームスを指揮した録音であるところに価値がある。というのは、モントゥーはフランス人でありながら、ブラームスを敬愛し、ブラームスが晩年の頃に本人の前で演奏をしたことを終生誇りにしていたというほど。つまり生粋のフランス人でありながら、ベートーヴェンやブラームスなどのドイツ・オーストリア系作曲家の作品も得意としていたのだ。そんな指揮者のピエール・モントゥーの経歴を見てみよう。フランス、パリ出身。パリ音楽院でヴァイオリンを学び、同時に指揮活動も行う。1906年にコロンヌ管弦楽団を指揮してデビューを飾る。1911年からはディアギレフのロシア・バレエ団で指揮を担当。この時、ストラヴィンスキーの「春の祭典」「ペトルーシュカ」、ラヴェルの「ダフニスとクロエ」、ドビュッシーの「遊戯」など、20世紀の名作バレエ音楽の初演を行っている。ピエール・モントゥーは、ロシア・バレエ団指揮者(1911年~1914年)を皮切りに、メトロポリタン歌劇場指揮者(1917年~1919年)、パリ交響楽団(1929年~1935年)の創立時の常任指揮者を務める。そしてボストン交響楽団音楽監督(1919年~1924年)を歴任後、1935年からはサンフランシスコ交響楽団の常任指揮者となり、同楽団の黄金時代を築く。1961年にはロンドン交響楽団の首席指揮者となり、死去するまでその地位にあった。来日時は、88歳と高齢であったが、そのときの演奏内容について、石田一志氏はこのLPレコードのライナーノートで「流麗で生気にとんだ音楽つくりは、年齢を感じさせるものではないということが、当時のもっぱらの評判であった」と紹介し、さらに「それはレコードで聴いても同様である。モントゥーの演奏は、スコアに徹底した忠実さをもってのぞむことによって、常にフレッシュであり啓示的ですらある。晩年にはとくにベートーヴェンやブラームスに名演を聴かせることが多くなった」と書いている。ブラームス:交響曲第2番がブラームスの「田園交響曲」と呼ばれるに相応しく、このLPレコードでのモントゥー指揮ウィーン・フィルによる演奏は、ロマンの香りが馥郁と漂う田園の広がりを連想させる。少しも奇を衒うことがない。しかし、その底流には、常に躍動感が漲っているので、聴いたあとの充実感は限りなく大きいのだ。このLPレコードを今聴くと、やはりピエール・モントゥーは、不世出の大指揮者であったのだなと実感させられる。(LPC)

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