シューベルト:ピアノソナタ第16番op.42(D.845)
ピアノソナタ第13番op.120(D.664)
ピアノ:リリー・クラウス
発売:1976年
LP:キングレコード SQL 2023
シューベルトは、歌曲の王と言われるほど多くの歌曲の名作を作曲しているが、このほか宗教曲、交響曲、室内楽曲、ピアノ曲でも多くの傑作を生み出した。ピアノ曲では即興曲や楽興の時、さすらい人幻想曲などがポピュラーな曲として知られているが、忘れてはならないものに21曲のピアノソナタがある。特に後期のピアノソナタは、ベートーヴェンのピアノソナタにも匹敵する名作として専門家からは高い評価を受けている。このLPレコードは、シューベルトの遺したピアノソナタのうち、ピアノソナタ第16番と第13番の2曲が収録されている。ピアノソナタ第16番は、1825年(死の3年前)に作曲され、短調と長調の調性の転調の多い4つの楽章からなっている。一方、ピアノソナタ第13番は、シューベルト21歳の1819年夏に作曲された作品。3楽章構成の小規模ソナタで、優雅な味わいがあり、愛好者も多い。このLPレコードで演奏しているリリー・クラウス(1903年―1986年)は、ハンガリー出身の名ピアニスト。 17歳でブダペスト音楽院を首席で卒業し、ウィーン音楽院に入学した。1923年、20歳の若さでウィーン音楽院の正教授に就任。1930年、クラウスはアルトゥル・シュナーベル(1882年―1951年)に師事するために夫と共にベルリンに移住した。モーツァルトやベートーヴェンの演奏で名声を得ると共に、ヴァイオリン奏者のシモン・ゴールドベルク(1909年―1993年)と室内楽の演奏・録音を行い、国際的な称賛を得た。第二次世界大戦後にイギリス国籍を取得したが、最終的に米国に定住。全盛時代、世界最高のモーツァルト弾きと言われた。今遺された録音を聴くと、表面的には、いかにも楽しく、エレガントで、聴いている人の心をうきうきと弾ませる躍動感を持っているが、一方、その内部には、情熱と哀しさを湛え、即興的な閃きがあり、聴くものに大きな感動を与える。シューベルトでは即興曲や楽興の時の録音が有名であるが、このLPレコードに収められている第13番や第16番などのピアノソナタも得意としていた。これら2つの演奏とも、リリー・クラウスの特徴がよく出ている録音と言える。軽快なピアノタッチの裏に、構成力の整った強靭な力強さが感じられる。その一方、抒情的な香しさにおいては、到底他のピアニストでは真似のできない、独特の境地に立ち至っていたことが、このLPレコードからは窺える。(LPC)